彼女と一緒にお昼寝してみた②

「お昼寝しよ」

「……んー?」

 そんな甘い声、どこから出せるんだ。


 千夏がすり寄ってきて、ピタッと俺の左肩にくっついた。

 ……これくらい俺はどうってことない。

 カメラ越しに目が合い、そのままじっと見つめ合う。


「ちーちゃん、いつもこの時間お昼寝してるでしょ」


 これはほぼ事実だ。何もない日の千夏は、昼前にもぞもぞと起き出して、昼飯を食べてまた寝る。お昼寝などという可愛いもんじゃない。ほとんど牛だ。


「……えー、一緒に寝るの?」

 口では嫌そうなニュアンスだが、千夏の顔は笑みがこぼれていた。

 しかし忘れてはいけない。これは演技である。

 俺は体勢を変えて、千夏を押し倒すようにしてベッドに横になった。


「んー……もう!」

 千夏が手近なクッションを掴んで、ぎゅむと押し付けてきた。

スマホのレンズに被らないようにうまくかわしながら、千夏の脇腹をつんつんと突く。

「ちょっ、それダメ!」


 千夏はこちょこちょに弱い。暴れて画面が揺れ過ぎないように程度を調整しながら、顔がきちんと収まるように体勢を維持する。

 そしてクッションを退けると、横になった千夏の隣で寝転び、顔を正面から映した。

「……!」


 千夏は唇に手を当て、ぎろっとわざとらしくこちらを睨んだ後、我慢できないというように顔を手で覆った。

「近い近い、恥ずかし……」

 これも撮れ高。演技。

 左手でスマホを持ちながら、抱き寄せるようにして、右手で千夏の腰あたりを触った。


 明らかに体がこわばった。


「ちーちゃん」

 くぅ、と千夏の喉から、声にならない声が漏れた。


 ……刮目せよ視聴者、一見するとうざいくらいラブラブな俺たちを!

 撮影が終われば、俺たちは塩対応同士のただの同居人である!


「……」

 しかし今気付いたが、千夏の表情から余裕がなくなっている。

「つ、つーくん……?」

 ここまで近づいても、シミひとつないきめ細かい白い肌。

 そして桜色の唇。スマホを退けてちょっと顔を近づければ、もう触れてしまう距離。


「……」

 俺はさらに手を伸ばして、ぐいっと千夏を抱き寄せた。

「ちょっ、待っ、翼っ!」


「ぐっふぉぉお!」

 ……。


 腹を思いきり蹴られて、ベッドから突き落とされた。

 あれ? なんか俺、今テンションおかしくなかった?


「今、絶対そのまましようとした!」

「は⁉︎ しないしない! てかなにを?」

「……とにかく! 最後触りすぎだから」


「昼寝なら添い寝するしかないだろ! 嫌なら先に言うんだな」

「……」


 千夏がクッションを抱き、口元を隠して俺を見ていた。

 その顔がほんのり赤い。


「……もしかして照れてます?」

 クッションでぶたれた。


「全部演技だし。一人で勝手にマジの雰囲気になってたの、翼だけだから」

「なってない。全然なってない」


 ……だからこの脈拍の乱れは、急に体を動かしたからに決まっている。

 数秒、無言で探り合うような視線のぶつけ合いが続いた。

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