彼女と一緒にお昼寝してみた①
そしたら、びっくりするくらい順調な滑り出しである。
投稿し始めてから二週間あまりで、登録者はもう一万人に達した。
なぜ千夏が俺の家に突然上がり込んできたのか。最初は分からなかったが、今ではそれがカップルチャンネルのためだったのではと思えている。同棲……もとい、同居していると、撮影がしやすいのだ。
例えば休日、だらだらしているだけでも一本撮れる。
夏休み最終日の昼。課題を全て終わらせた俺は、自分の部屋を出て、正面の友の部屋——今は千夏の部屋だ——を開けた。
千夏はベッドに寝転んで、スマホで動画を見ていた。
「って汚いな!」
千夏が移住してきてから初めて部屋に入った。ガサツな奴のことだから予想はしていたが、これは想像以上だ。服やノート、それに千夏の大好きなぬいぐるみで、足の踏み場もないほど散らかっている。
「……ノックくらいしてよ」
さすがに指摘されると決まりが悪いらしい。千夏は慌てて周りのものをいくつか拾うと、スーツケースに突っ込んだ。
……今の、女の子のパンツじゃなかった? ランジェリーっていうの? ヤダ、もっとちゃんと目に焼き付ければよかった。
「友ちゃんが帰ってくるまでには、綺麗にするから」
まあ姉貴なら、「あはは、別にいいよ〜」とか、笑って済ませそうではあるのだが。
「てかなんの用?」
俺は堂々と返した。
「一緒に昼寝しよう」
「……」
スマホを掲げてみせる。
「タイトルは、『彼女と一緒にお昼寝してみた』」
「昨日撮影した分がまだ残ってるんじゃないの?」
「撮り溜めしといた方がいいだろ。明日から学校始まるから、毎日投稿の余裕もなくなってくるだろうし」
毎日投稿すれば、視聴者は「かねちーチャンネル」を開くクセがつく。チャンネルを伸ばすには最低限の努力だ。
「マメだねえ」
他人事みたいに言うな。
千夏は目をくしくしとこすると、髪の毛を手櫛で整えた。
俺たちが撮影する手順は、二パターンに確立されている。一つは、「一緒にお風呂頼んでみた」のように、俺がドッキリ形式で千夏に突撃する方法。もう一つは、今からやるようにあらかじめ趣旨を話し合う方法。
「俺が千夏に昼寝頼むから」
「……まさか、そのままずっと二人で寝るんじゃないよね?」
「そんなわけないだろ。テキトーなところで終わる」
「……私のこと触る?」
「ちょっと」
「あんまり変なとこ触らないでよ」
「例えば?」
腹を殴られた。
スマホのビデオを点けながら、さりげなく千夏のスマホを覗いてみた。なにかと思えばボートレースが映っている。こいつはいかにも人生楽勝リア充顔なのに、どうも昔から趣味がおっちゃんくさい。千夏のこういう一面を、高校の友人たちはきっと知らない。
「はい、いつでもどうぞ」
千夏はいつもの冷静な表情だ。
……。
深呼吸。
心頭滅却すれば火もまた涼し。いくら可愛かろうと、俺はもう千夏に恋などしない。
これからイチャイチャするのは、あくまでチャンネルのため、金のためだ!
汚い部屋が極力映らないようにしながら、ベッドに近づき、千夏の隣に座った。
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