1 描写の書き方作り方編
戦闘の流れ――音楽から考える
キーワード:「緩急」
* * *
戦闘の描写についてのお話――の前に、まずはその基本的な「流れ」から。所謂「構成」というやつです。
例えば剣の勝負。
片手剣の使い手を仮に二人用意。
主人公としてジャックを、ライバル役としてジョンを配置してみます。(名前は便宜的に付けました)
それでは本番! 用意アクション!
さあっ、思う存分暴れろ! 戦えーっ!!
――とさらっといきたい所ですが……この「二人のキャラクタ」と「剣で勝負」だけぽーんと放り出されてもアクションというのは上手く思いつかないものです。
経験ありませんか?
プロットに「剣で勝負」「途中でジャック、刀傷を負うが何とか勝利」「ジョン、舌打ちしながら逃げる」みたいに要所要所の情報は書いてあるのに、はてその間はどうすれば良いの? みたいなこと。あんな感じですね。
非常に困るあれです。
ではどのように繋いでいこう……。
この時星がヒントにしているのが「音楽」。特にゲーム音楽における「ボス戦曲」「戦闘曲」といった類です。
そこでの「緩急」をうまく生かしていきたい。
どういうこと? それでは以下に説明。
* * *
星、ゲーム音楽の小説への応用の可能性を感じております。
それは単にBGMとして聞くと格好良いよね! だけじゃない、「言語化」「プロット化」の可能性。
――いや、ただ単に自分が「音楽をサントラ風に配置してプロットづくりしてる」とか、「ゲーム音楽大好きフェエエエエエみたいな奴だから」ってのもありそうですが、こういった曲をよくよく聞き比べてみると色んなヒントが隠れているものです。(星は少なくともそう考えています)
経験したことのある人は若しかしたら分かるかもしれませんが、戦闘曲はうまく攻略できずにいるプレイヤーを励ましたり、格好いい導入でプレイヤーのテンションをぶち上げたり……他様々な聴覚的効果をもたらしてくれます。
ラスボス戦での格好いい曲の格好いい導入を聞きながら「おおーっ! この物語最後の戦いだ!! モォリアガッテキチャー!!!」みたいにテンションが上がる。よし、やってやるぞ! といったモチベーションが上がる。そうして物語はプレイヤーと共にクライマックスを迎えていく。
その間「戦闘曲」は場の雰囲気を盛り上げながら、これまでのストーリーなんかも時に物語りながら、飽きさせない素晴らしいメロディーを奏で続けてくれるのです。
その「聴覚的効果」――即ち「格好よく」「テンションを上げてくれる」「飽きさせない」構造というものを「小説の構想」に応用しちゃおうという企みです。
前置きが長くなっちゃったのですが、そういうことなのです。
――――――――
それでは実際の曲なんかも聞いてみながらその構造について確認をしてみましょう。
今回試しに聞いてみる曲は『新・光神話パルテナの鏡』より光田康典作曲「ボス戦1」です。
名曲です、星大好き。2じゃなくて、1の方です。
今一番手に入れやすく、かつ公式さんが出している音源としては「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」に原曲が入っています。これは他のボス戦曲とかとも聞き比べが出来て良いですね。
次に「新・光神話パルテナの鏡」の公式サイトにて楽曲試聴を選択すると「ボス戦」という所で聞くことが出来ます――が、ちょっと聞くまでが大変そうです。星は聞けませんでした。辛い……。
以上が公式さんが提供してくださっている音源です。
また、公式さんが音源を出してくださっている訳ではないのでURLを非常に載せづらいのですが……YouTubeで「新・光神話パルテナの鏡 ボス戦1」と検索すると「ボス戦戦闘曲」なるものか「BGMメドレー」なるものが出てきます。前者であればそちらを、後者であればその中に「ボス戦1」という名前で入っています。
一番良いのはアルバムやゲーム自体を買う事ですが、(厳密には少し違うけど)ダウンロードが出来なくなっちゃったり、公式さんが出してるかどうか怪しかったり(つまりは転売)、そもそも無かったり……それは流石に難しいのでこちらをご紹介いたしました。ご興味あらばご確認くださいませ。
さて。
先ずは「導入部」。格好いいエレキギターがボス戦開始の合図を告げます。
その次、一瞬「パーカッション(連結部1)」が入って本筋の主旋律へと一気に繋げます。プレイヤー側も一気に気合が入ります。
先ずは「主旋律1」。エレキがひたすらに格好いいですね。惚れ惚れします。
この主旋律はメロディーをある程度奏でた後一度落ち着きを見せ、ここで違うメロディー、所謂「連結部2」を奏でた後「主旋律2」へと移行します。
この「主旋律2」では先の「1」では聞こえなかったトランペットのハーモニーが入りピッチ(音程)も上がり、テンションが少しく上がったのが分かりますでしょうか。ここら辺で星の胸の高鳴りが収まらなくなってきます。
しかしまだ終わらない、本番はここからだ! とでも言わんばかりに「連結部3」へと移行。ここで決めポーズのようにエレキとトランペットが決まり、最後の「主旋律3」へと移行! テンションも下がらなくなってきました!
最後の「主旋律3」は今までと毛色が少しく違います。単純な繰り返しはせずにここでちょっと横の流れを魅せる辺りやばいですねー。ほぼ瀕死ですねー。
バイオリンが主旋律を奏で、先程よりも伴奏に使われる楽器の数も増えています。一気にオーケストラの体です。
そして曲は「主旋律1」に戻る為の「連結部4」を少し長めに取り、ベースとエレキで格好よく本筋へと繋げていきます。
嗚呼、格好いい。
――と、このままぽわーっと惚れ続けている訳にもいかないのでここらでちょっと分析です。
曲の構成を整理し直してみると
「導入部」
↓
★「連結部1」
↓
☆「主旋律1」
↓
★「連結部2」
↓
☆「主旋律2」
↓
★「連結部3」
↓
☆「主旋律3」
↓
★「連結部4」
↓
☆「主旋律1」
↓
繰り返し……
となっていることがお判りでしょうか。
この原稿を書くにあたって今持っているサントラのボス戦や戦闘曲(※任天堂作品中心)をガーッと全部聞き直してみましたが、大体このような「連結部」と「主旋律」の繰り返しになっています。ここまで綺麗な「連結部」と「主旋律」の繰り返しでない場合もありますが、「大きな盛り上がり(主旋律)」パートと「盛り上がり前の準備段階(連結部)」パートの二つに大きく区切られているなんて例も沢山ありました。
(一応先に言っておきますが以上に当てはまらない例外も勿論あります)
つまり
「連結部」の「緩」と
「主旋律」の「急」を
メリハリ付けてバランスよく取り込むのがポイント! ということになります。
(※一応定義づけを先にしておきますが、ここでは主に「急」=戦闘、「緩」=その他の描写としています。また、以上に限定されずともこれは「急」だ! と思うイベントはその人の判断で「急」とすることができるものとします。「緩」についても同じ)
言われてみれば確かにそうですね。
剣をカシンカシン! とかち合わせる「急」がどうしても戦闘には必要に見えますがこればっかりだとマンネリ化したりしてつまらなく見える。更には作者もそればっかりやってるとアイディアが枯渇してどんどん疲れてくる。
そこに間繋ぎ的に「束の間の休息」、「様子を見させる時間」、「ちょっとボケとツッコミ入れる時間」、「こちらの勢いを崩させるピンチの時間」……等々を入れるとメリハリがついて飽きる可能性が少なくなっていく、アイディア枯渇事件も助かるという訳です。
しょっぱいものを食べたら甘いものが欲しくなる。運動したら休みたくなる。一週間働いたら休息が欲しい。
まずはこの「緩急」イベントをちゃんと決める、それを繰り返しテンポよく起こしていく。これが大事になってくるのでは? ということなのです。
* * *
それでは実践編と参りましょう。
試しに先程の戦闘を細かく構成してみます。(上手い下手は置いておきます! 文句は受け付けない(真顔))
――――――――
「登場キャラクタ」
ジャック:主人公。片手剣
ジョン :ライバル役。片手剣
「場面」
とある闘技場での戦い。敵サイドのエリート・ジョンと勇者ジャックの激突。
「決まっている場面(絶対に入れたい場面)」
[剣で勝負]
[途中でジャック、刀傷を負うが何とか勝利]
[ジョン、舌打ちしながら逃げる]
それでは以上の情報をもとにまずは勘所の整理から。
・[剣で勝負]
これはバトルの形式なので緩急は関係ありません。一回頭の外へぽいです。
・[途中でジャック、刀傷を負うが何とか勝利]
これは中盤~終盤への流れに使えそうです。そして状況が中々性癖的に美味しそうである。
こいつを軸に緩急を考えてみましょう。
戦闘の勘所なんていうものは性癖の塊なのです。楽しいです。
・「ジョン、舌打ちしながら逃げる」
これも緩急には余り関係なさそうですが、戦闘が終わった後の静かすぎる「緩」として用いるならばその前の「急」は対比として結構ド派手にしなければならない気がします。
――――――――
それでは組んでみましょう。
骨組みは先の曲の構成を参考にして
「導入」
「本筋への繋ぎ」
「急」
「緩」
「急」
「緩」
「急」
「ピンチ(緩)」
「トドメ(急)」
「戦闘の結果、今後の展開(緩)」
とすることとします。自分の書きたい内容に応じてこの骨組みは如何様にでも作り変えることができます。
それは物語を作っている最中も例外ではありません。「ア! この展開入れたら更に美味しくなりそう! グヘヘ」と思ったら幾らでも付け足し、幾らでも引いちゃいましょう!
それではまず、展開の大まかな流れを考えてみます。
こういう時星は大体勘所が生きるように、それを軸に据えて考えます。
絶対書きたい場面はピンチを受けてからの大逆転!
これを先の「ピンチ」と「トドメ」の部分に据えます。
この時「ピンチ」は既に決まっていますが、この時「トドメ」もちゃんと決めておくのが大切。
相手は闇の騎士ということにして、決定打を打ち込むためには自分のペンダントで放つことができる「聖光」で弱らせ、怯んでいる隙に心臓をひと貫き――ということにしましょう。
これで勘所は全て完成しました。
それではそこに至る為にはどんな展開が必要か。
ここを考えるのが少し大変。
考え方の例としては
1.勘所は頭の中でおさえつつ、そこに導けるように取り敢えず最初から考えてみる
(例)
取り敢えず出会わせて
↓
チャンバラさせて
↓
云々やって
↓
あ、ここら辺でライバルに逆転させると良いかも!
↓
勘所
2.勘所から逆算して一番最初を考えてみる
(例)
刀傷を確実に負わせるためには何かライバル側が有利に立つための策が必要だ
↓
そうだ。卑怯な手を使わせてみよう。例えば、砂を掴んで投げるとか、彼の武器を封じてしまうとか……
↓
そうしたら前者を取る場合、原っぱで出会わせるのは良くないな。後者ならば間者とか魔法とかそういうのが必要になってくる……
↓
冒頭が固まってくる
ただこういうのを考えるのも、アイデアが枯渇している時は大変というものです。
そんな時。予め用意された型に嵌めてみるという作戦はありかもしれません。そこで先のゲーム音楽をちょっと拝借。
音楽の曲調に合わせたり(先にBGMを据えて似合うように作ってみるとか)、「主旋律」「連結部」の繰り返しを上手く活用してみたり。
そうやって曲を聞きながらふんふんと頭の中で戦わせてみる。
試しにちょっとやってみましょう。
先の「ピンチ」を「連結部3」に、「トドメ」を「主旋律3」に置き換える。
――――――――
最初、導入部……。【導入】
試合が始まるぞという雰囲気や、ジョンの挑発的な様子、こちらの挑む決意などが頭に浮かびます
ばったり出会った二人が何等かのきっかけで勝負することになった。
ジョンは「来てみろ勇者!」などなど挑発。
ジャック、意を決して歯を食いしばりながら前傾姿勢を取りました。
そして連結部1【本筋への繋ぎ】
パーカッションに合わせてジャックが飛び出しました! ジョンも剣を取り出し、かち合います。
主旋律1【急(動き始め。戦闘メイン)】
ここでは何合か剣がかち合います。技を決めようとしても全て弾かれるため、二人とも「通常攻撃」「弱攻撃」でけん制し合うような、そんな「勝負の導入場面」。
ライバル関係なのでお互い一歩も引かぬような、このままではマンネリ化しかねない勝負がつかないような場面で大丈夫だと思います。敢えて大きな変化は生ませない、じりじりとしたお互いの様子見場面。曲自体も一番ピッチが低く、(他と比べて比較的)静かな所。そこまでテンションは上げないで行きましょう。
ここで彼らが同等の実力の持ち主であること、このままでは勝負がつかないことを描写で読者に提示します。
連結部2【緩(戦闘から少し視点を外し、作戦のようなものを提示。転換)】
ちょっと、このままでは埒が明かないぞ? お互いが気付き始めますが、「主人公はピンチに追い込まれる必要があります」。決定打が思わぬ形で奪われてみましょう。ジャックに先に気付いてもらい、ジョンには先に動いてもらいます。
例えば
「あの紋章は! やっぱり相手は闇の騎士……。ということはこの聖光を当ててやらなくちゃならない」
という風に先にジャックが考えました。左手が無意識にペンダントに伸ばされます。
それをジョンが見逃すはずはありません。ライバルですから!
剣の軌道をふとジョンが変えた!
「うがっ!?」
その紐を器用にもぷちっと切り、ズバッと掠め取る! 見事なものです。あっという間もなくジャックは決定打を奪われました。
盛り上がってきます。
ここで主旋律2【急(戦闘に戻る。ちょっと豪華にレベルアップ)】
ジャックは勝つためにはペンダントを取り返さないといけない。
「くそっ!」
「取り返して見ろ、勇者! できるものならばな!」
ここで相手にちょっと大きめの技を出してもらいましょう。メリハリです。
「出でよ! 闇の眷属!」
おっと、ジョンが眷属という名の幻影を取り出してきた!
――トランペットのハーモニーから相手方の加勢を想像してみました。
ああっ、こいつらを掃う為にもペンダントが必要です! ジャック!
ぎゃー! 苦しそうだ……!
更にはジョンが眷属に混ざって攻撃を仕掛けてくる。
ふと、ふくらはぎを剣が裂く……!
これは痛い!! 連結部3! 【緩(勘所! ジャックが初めて動きを止める)】曲には無いようなちょっと苦しい場面だけど問答無用です! 入れたかったので入れる! ――そういうのが結構大事。
ジャック倒れた! そこにくっくと笑うジョンが迫る。幻影もついでに迫ってくる。卑怯だぞ!
起き上がりたいけど痛みが酷くて耐えられない。
余裕そうな笑み、態度を漏らしながら遂にジョンが剣を振り上げた! 切っ先も光らせてみようキラーン。
嗚呼、やばい!! ここは大事な戦闘なのであればとことんまでヤバくして大丈夫です! 何なら瀕死まで追い込んでも大丈夫! (え)
――と、そこで連結部3のエレキとトランペット。決めポーズ的なあのフレーズ!
ここでジャックの脳裏に大事な情報を浮かばせるなどして、トドメに必要な転換点を読者に提示しましょう!
ここでちゃっかりジョンの闇堕ち前の笑顔なんかを脳裏に浮かばせちゃいます。
読者の興味が掻き立てられると同時にジャックに動く気力が生まれた!
動けないと踏んですっかり油断しているジョンにジャックを突っ込ませましょう!
さあメインディッシュだ、主旋律3! 【急(勇者の反撃! 圧倒的な力で敵を追い詰め、決着を付けろ!)】
――君のためにも。
「ここで死ぬわけにはいかないんだああああっ!!」
気合い入れの大きな叫び声! 彼の決意!! ついでに何か大事そうな過去が見え隠れ! 大好物!!
びっくりする彼からペンダントを勢いよく奪い取り、呪文詠唱! 思いっきり光らせて一対一の対決に強引に戻しましょう。
バイオリンの旋律は彼の決意。傷を負いながらも果敢に立ち向かう彼に弱体化&不意を突かれたジョンは防戦一方。
トドメ!! 心臓をてやーっ!!
――というところで最後の連結部4【緩(戦闘の終結)】に唐突に入ります。
絶対に破れないバリアーやカウンターで勇者を退け、書きたかった舌打ち「チッ」
アッ(瀕死)
「覚えていろ……次はこうはいかないからな!」
闇堕ち騎士を救う勇者の物語が今始まっちゃう……。
* * *
以上が今回の「緩急」のお話でした。
ずっと、同じシーンが続いちゃう。書こうと思っても立ったまんまチャンバラするだけで他をどうしたら良いか分からない。
こういう時、ちょっと思い出してみては如何でしょうか。
ふっと息をつかせて状況整理をさせるだけでも大きく変わるかと思われます。
こういう時に心情描写とか入れちゃうと嬉しくなってきちゃいますね!
怜にはこういう時に涙をふと流して欲しいよね。(また星作品読んでない人には分からない話を……)
そりでは! 今回はめっさ長くなっちゃったので次回は明日に回します。
次回は戦闘描写を書くための「資料集め」の部分。こういった展開を考えるのに必要な情報集めからその描写・演出をどのように言語化するのかというところまで。そういった資料の活用についてちょっとぺらっと話してみたいと思います。
……スマブラの参戦動画、良いんですよぉ。
一応明日も20:00更新予定です。
Bonum nocte.
(つづく)
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