第20話 樹海
アルクは、家に着くとすぐリビングに向う。
マジックバッグから念のためにローブと杖とニンジンと水を取り出し、ニンジンと水を2つの大きな桶に十分すぎるほど入れると南の主の前に置いた。
「すみませんが少し用事がありますので、まだお待ちください。
それまで、こちらの人参と水をお食べてください」
アルクはそう伝えベラとエリクの様子を見にいく、案の定ベラとエリクはお漏らしをしていたので、早急に片づけて行くと、夜だった外は明るくなり始めていた。
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いろいろと済ませた後、外の洗い場にはタライを地面に置き、布を洗っているゴブリンと頭に乗るドラゴンを見守ってるヘラジカが居た。
「長く待たせてしまい、すみませんでした」
汚れの付いた布をタライに入れ、洗濯板にごしごしこすりつけながら小さいイスに座るアルクは南の主を見上げ苦笑いを向ける。
その顔は第三者が見ればニタァと効果音の付くモノだが、南の主は気にせず答える。
『いえ、気にしてませんので、こちらこそ食べる物まで頂きありがとうございます』
南の主は家に付いて行ってから足元に置かれた、桶に入った人参と水を見つめる。
「お口に合いませんでしたか?」
『はい、大変美味しゅうございます、その大変なんですね』
1体と1匹の会話は人同士のそれとなっていた。
南の主は、強者とは自分のために動くモノだと思っていた。
それが私がどうやっても届かない頂のモノなら尚更、誰かのためにとかではなくそれが、他者の脱糞の後始末だと誰も思うまい。
私は今まで特別な雄も居なく、ドリアードにも思いやりがあったわけでもなく、面倒ごとを代わりにやってくれるだけの者だったので、最初は理解できなかった。
(あの時感じた魔力はアルク様ので間違いないわね、包み込む優しさはここから来ているのね・・・温かい、こういうのもいいものね)
南の主は、何のためにここに来たのかも忘れてしまっていた。
(あら怒らせてしまったわね)
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洗濯物を洗っていたアルクから。
「一先ず落ち着いたので、作業中で悪いですが、ここら一帯の情報を教えてください」
『分かりました』
アルクは一度洗濯物を放置し、南の主の話を聞く、
「樹海を縄張りにしているモノや人の建物などありますか?」
『縄張りにして居る者は今は狼だけで、人の建物などはありません』
(ん?南の主さんは?って聞きたいが従魔契約がどういう風に発動するのか分からないから言いずらいな、一度テストしてみようかな)
「南の主さんは?」
『私は主の名を捨てておりますゆえ』
(おぉ問題なかった)
「でも、この戦いが終わったら戻っても問題ないですよ?」
『・・・お傍にいてはダメですか?』
「・・・好きにしてください」
捨てられた子猫や子犬のような眼でこちらを見てくる南の主にアルクは諦める事にした。
断りたいが南の主は会話ができる分、
「樹海の周りはどうなっているんですか?」
『樹海の周りは山々に囲まれおり、ここから北東と北西に進むと樹海から抜け、平原が続いております』
アルクは何度か木の上から見た世界を思い出しつつ、山にいる魔獣なども聞いてみることにした。
「山には、どんな魔獣がいるのですか?」
『山には大抵ドラゴンが生息したりしております、降りてきた事はありませんが、
私も樹海からは、出たことがありませんので詳しくは解りません』
ドラゴンもやはり居るんだな、飛び回られたりするから厄介な敵だなぁ。
でも降りてきたことがないのなら、なるべく山には近づかないでおこう、魔法とか使ってもさすがに山まで魔力感知されないと祈るしかないな。
「そうですか、そういえば自分が居る場所を縄張りにしている主は居ないのですか?」
『ここに居た主は北西へ飛んでいき、今は居ません』
「え?見た目などは分かりますか?」
『緋色の怪鳥です』
アルクはそれを聞き、最初に目を覚ました時のことを思い出す。
ベラとエリクをあやしてくれた、ずんぐりボディの緋色の小鳥しか見てないな、と思いながら。
「緋色の小鳥は見たのですが、もしかして怪鳥の子供だったのでしょうか?」
『いえ、その小鳥がここ縄張りの主です。
能力で小さくなっていたのでしょう、本来の姿は私くらいあります』
それを聞き納得する、だから今までここの主に会わなかったのか。
「えぇ、そうだったのですね、何処へ行ったか分かりますか?」
『北西にいったことしか分かっていません、樹海から去ったみたいです』
「北西に何があるか分かります?」
『人の街があるとは聞いたことがあります』
アルクは、それを聞き人が居てよかった喜んだ、ここの樹海を見渡せば思ってしまう人類が居ない世界なのかなとヒヤヒヤしていた。
そしてベラとエリクの親御さんもきっとそっちに居ると希望を見出していた。
「人はこの世界にも居るんですね!」
『居ります、北西に行けば人族が北東に行けば魔族が居るとは聞いたことがあります』
「おぉ!それにしても魔族?そういえばドリアードさんも魔族ですよね。
ここの樹海には他の魔族が居るのですか?」
『いえ、ここにはドリアードという種の魔族しかおりません』
アルクは、それを聞き疑問にしか浮かばなかった。
ゲームの世界ではドリアードとは様々な種と一緒に仲良く住んでいるイメージだったが、この世界では違うのか?
「ドリアードは様々な種と仲がいいイメージだったんですが違うんですか?」
『?初めてお聞きました、ドリアードはどの種とも友好的ではありませんよ?特に他所の魔族や人族、獣人族のような者達を特に嫌っております』
「えぇ!?この世界には獣人族も居るのか!?あ、えーっと、南の主さんはドリアードさんと仲がいいですよね?」
『私も、何故かは解らないのです』
「そ、そうですか」
アルクはドリアードと友好関係が築くことができるのか不安になり、顔を空に向ける。
(たぶん、自然破壊的なものなんだろうか・・・当たり前だけど植物は生きているもんね。
そりゃ・・・植物に自我が芽生え、行動できたら真っ先に殺意が沸くのは草木を一番必要とする人種だもんね・・・これ・・・友好関係築くのは不可能じゃない?
それにしてもよかった、恐れられる存在で、恐れられてなかったら今頃殺されてたかもしれない)
一呼吸つくと上げていた顔を戻し他の質問に移る。
「そういえば能力について、お聞きたいことがあるのですが」
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