第19話 気付いてないとは?

南の主の念話を聞くと同時にシュッと音が鳴った。



すると南の主の右角が一本、すぐ傍にゴトンと鈍い音を立て落ち、折れた付け根からは血がダラダラと溢れていた。

一瞬の出来事だったのでアルクは呆然とする、チャチャが舌で南の主の角を折ってしまったのだ。

折れた場所から出ている血に気づいたのか、痛みなのかは解らないが、南の主は更に震えあがり慎重に言葉を選びながら念話を送ってきた。



『ア、アルク様、チャチャ様、決して私はを蔑んだ訳ではございません、ど、どうかお慈悲を』



「え・・・いえ・・・いえ!こちらこそ申し訳ありません!それよりも立派な角が!?それに血が!?待っていてくださいすぐに手当てを!」



アルクは、念話を聞くとすぐに意識を戻し、この世界の生物の初めて見る血の事よりも角を折ってしまった事に謝罪する。

すぐに上着のポーチからポーションを取り出し「失礼します!」と相手の返事を待たず、南の主の頭にポーションをドバドバとかけていった。



(ヤバイヤバイさすがに冗談では済まなすぎるよ!?

これで治らなかったら、南の主と敵対じゃないか!?

チャチャはなんてことをしてしまったんだ、頼むから治ってくださいお願いします!)



動揺しながら角の出血が止まるのを見守るが、目の前で起きた事は予想を遥かに超えていた。

そう、付け根から新たな角が生え、元の角の形に戻っていった。



(え・・・?塞がるじゃなくて、角が元に戻るの?え?折れた角は、まだそこに転がってるよね?なにこれポーションすごすぎない!?)



アルクがそんな事を思い混乱していると、南の主が念話を送って来た。



『ア、アルク様、蔑んだ私に寛大な処置をして頂き心より厚く御礼申し上げます』



「い、いえ、こちら側の失態です、体に痛みなどはありませんか?」



まだ混乱する頭で体調はどうか聞いてみる。



『はい、もう何も痛みを感じません』



手に持っていた空の容器をポーチに入れながら、肩に乗るチャチャにも小さな声で謝罪をさせようとするが。



「チャチャ、自分のために怒ったのは解るけどそれだけで手を出してはいけないよ、謝りなさい」



「ック」



チャチャは平謝りだった。

いつの間にこんな子に、自分のためとは言え我慢ができないのは、どうしたものかと悩みながら、アルクは本当に申し訳なく頭を下げ謝罪をするが。



「誠に申し訳ありません」



『いえ、気になさらないください私が悪いのです。

アルク様、チャチャ様、蔑んだ訳ではないのです、ただ気づいてるかと思っていたのですが』



アルクは頭を上げ胸に抱いてるチャチャに手を出したらだめだよと伝え、罪悪感をもちながらも南の主に疑問を聞く。



「あ、ありがとうございます、気づいてないとは?」



『アルク様とチャチャ様は私と同じ魔獣、魔物の類ではいらっしゃいせんか?』



「私は違いますが、チャチャは魔獣です。」



『そうでしたか、魔獣や魔物は五感などが鋭く相手の感情に敏感なのです。

なので、アルク様がそこまで疑い深い眼差しを私に向けている事に理解できませんでした。

決して蔑んだわけではないのです』



「いえ、気にしていませんので、こちらこそ本当に申し訳ございませんでした」



アルクは、謝りつつ考え込む。



(なるほど、気づいていないという事はそういう事だったのか。

魔獣や魔物は相手の感情が解るって事は、じゃぁチャチャにも解るのかな?)



アルクはチャチャに聞いてみる。



「チャチャも相手の感情が解るの?」



「クック」



当たり前だという顔で鳴くのをアルクは見る。



(今まで気づかなかったよ・・・相手の感情が分かるだなんて、最強の能力すぎない?

自我が目覚めているは分かっていたけど、チャチャを物で例えて悪いんだけど、嘘発見機が肩に着いてるのか)



そんな呑気な事を考えチャチャさんスゲーと体を撫でていると。



『はい、ですので、嘘か害する素振りを見せれば、私の首が・・・飛ぶ事でしょう』



アルクは、それを聞き先ほどまでの南の主の態度を思い出し、だから今までそんなに震えていたのかと理解した。



先ほどまで撫でていた手が震えている。

それがチャチャにも分かったのか、チロチロ手を舐めてきた。

アルクは突然来た感触に驚き手が止まった瞬間、こちらを竜の目がギョロリと見開き見てくる。

アルクは誤魔化す様にチャチャさんコエーと思いながら、満面な笑顔で撫でた。



「なんか・・・すみません、チャチャさん手を出さないようにね。

嘘を付いたら教えて、これで手を出しませんので、立ち上がってください。

あと自分を魔獣と見違えたのは、以前に自分と同じ容姿の者を見た事があるんですか?」



『はい、昔ここの樹海に住んでいた、ゴブリンという魔物です』



ヘラジカさんは立ち上がりながら念話を送ってきた。

アルクはそれを聞き人権はないのかと悟る、ゲームの世界では魔族だったのに、この世界では魔獣ではなく魔物・・・落ちたなゴブリン。



「・・・そうですか、では樹海から追いやられたんですね」



『はい、アルク様には失礼ですが・・・害がありましたので』



アルクは察する、この世界のゴブリンは厄介な存在なんだろうな。



「いえ、気にしていません、答えてくださりありがとうございます」



『いえ、私はアルク様に身を捧げました。

私の分かる事であれば、なんなりとお答えします』



さすがに、身を捧げたと何回も言われると重い。



「すみません、身を捧げられても困ります。

自分は、貴方と友好関係を築きたいのですが・・・角を折ってしまって申し訳ありませんが・・・いけませんか?」



『いえ、アルク様と対等などと、角を折られようが、私は身を捧げた「いえ仲間として、貴方を歓迎します」



アルクは南の主の念話を遮り言った。

さすがに、雑に扱う事は無理だ。

みな平等という気はないが、アルクは日本でも小心者だし、自分の価値ぐらい知っているからそんな扱いできない、する気にもなれない。



『分かりました、よろしくお願い致します』



「こちらこそお願いします、徐々に打ち解けていきましょう」



アルクは微笑む、南の主は渋々要件をのんでくれたようだ。



「それと狼と交渉はできそうにありませんか?」



『狼の主は同族との会話はできますが、他種族との会話ができません。

私が念話をしても聞く耳を持とうとしませんでした。

そして数が増えてきたことで縄張りを広げようとしていると思われますので、難しいかと』



「・・・そうですか」



『ですが、アルク様とチャチャ様の力を見せれば引くかもしれません』



「そうですか・・・引かなければその時はその時ですね」



こちらにも護るべきベラとエリクが居る、そして自分はここを捨てることができない。

ここから離れて別の環境でベラとエリクを育てられる自信がないし。

池から動けないズンナマさんも居るしヴィアスだっている、全力で立ち向かうしかない。



「狼達は、能力などは使うことができますか?」



『私も全ては把握しておりませんが、狼の主は声を使って仲間をバーサーク狂戦士化させる能力を使います。

ほかには自身の身体強化でしょうか、狼の仲間などは魔物なので能力を持ちません』



ここの世界にも自分と同じ感じの能力を使うモノが居るのか、バーサーク化は非常に厄介だなと思いながら、ベラとエリクのためそろそろ切り上げないと、と思い行動する。



「分かりましたありがとうございます、この後予定はありますか?」



『いえ、ありません』



「すみませんが、少し用事があるので来てもらってもいいですか?まだまだ聞きたい事もありますので」



『分かりました』



「ありがとうございます、では付いて来て下さい」



アルクはそういい南の主の念話を聞かず足早に家に戻った。

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