第18話 夜の訪問者

夜になり、灯りの点いた家の中。

アルクは頭に乗せたチャチャと一息つきながらイスに座っていると、チャチャの鳴き声と共にアルクは行動を開始する。



(とうとう来たか、今度こそ主か?)



そんなことを考えながら、チャチャに強さと敵の数の確認をし、ベラとエリクは地下に入れヴィアスはソファーで放置する。

さすがの二回目だ戦闘準備には馴れた、そして家の灯りを消すと。

アルクはでチャチャに『擬態』を使ってもらって家の近くの樹林で一緒に待機することにした。



今回も使うのはヴィアスの時と同じの武器で【哀醜鬼・ザンキ】【楽醜鬼・ンジャババ】も装備している。



アルクは夜目利くの?と思ってる人も居るかもしれない、もう一度説明すると自分はゴブリンなのだ。



ゲームの世界には種族ごとに能力があった。

その中でゴブリンは夜目と麻痺毒耐性が非常に高く、全種族プラスになる耐性を持っているがマイナスになる耐性はない。

チャチャ達魔獣には元から夜目が利くので問題もない。



「敵は1体、魔獣強さは分からないか」



敵は1体、そして夜襲を仕掛けてきた。

なら奇襲で迎え撃つほうがいいだろう、木々で視界が悪すぎるから庭に現れた瞬間、近づいて隠密攻撃を仕掛けたほうがいい。

そう考え夜の樹海に意識を向ける木々葉擦れや虫の鳴き声が響き渡っている。



チャチャが俺を頬を舐めた。



「来たんだね」



そうアルクが言葉にすると、虫の鳴き声や木々の葉擦れがピタッと止む。

すると上から神々しく光を纏った立派な角を持つ大きな図体のヘラジカが音を立てず草の上に着地をした。

着地すると同時にヘラジカを纏っていた光が消え、ヘラジカは家に目を向けている。



(綺麗だ)



アルクはその神々しい美しさに目を奪われていた。

現実世界でも仮想世界でも美しい物を見てきたが、一段美しいその容姿から目を離せないでいた。



バヂーーーーーーンッ!



と音が鳴り樹海に反響していく、自分の視界がヘラジカから樹林を向いていた。

一瞬何をされたのか分からなかったが、徐々に思考が回復して気づく、チャチャが自分の顔を舌で思いっきりハタいたのだ。



シューーー!シューーー!

とアルクの肩でチャチャが目を見開きずっと相手を威嚇し。

アルクもすぐにヘラジカを見ると目が合った。

作戦は失敗だ、すぐに腰の【楽醜鬼・ンジャババ】を手に持ち構える。



(不意打ちが失敗して状況は最悪か、チャチャは幻術の類でも受けたのかな?)



と考え焦り、アルクはヘラジカから目線を少し外し肩に乗るチャチャにぼそりと呟く。



「チャチャ、正気?」



問いかけても、チャチャはヘラジカの方を向いて睨むだけで、答えが返ってこない。



(これは、どういう状態なんだろう?敵対にはなってはないのかな?)



そんな事を考えていると。



『お初にお目にかかります、私は南から来ました』



アルクの頭中から声が聞こえた。

突然聞こえた風鈴の音の様に透き通る女性の声に驚き、視線を上に向け止まる。

視線をまたヘラジカに戻すと、体を震わせヴィアスの時と同じく服従のポーズを取っていた。



「この声はあなたが?」



『・・・はい』



「これは・・・なんですか?」



『念話と呼ばれる、相手に念を送り感情や言葉を伝える事が出来る能力です』



念話・・・。

こちらの世界でも魔獣は念話を使う事ができるのか、しかも喋ることができる知能まで、ゲームにも念話で一方的に話してくる高レベルのボスモンスターが居たから、

目の前の魔獣はボス級と思っていいな、油断しないでおかないと。



それよりも会話ができるならまずは、何しに来たかの確認か、質問にも答えてくれたという事は対話を求めに来たと思っていいかな。



「お答えして頂きありがとうございます、それで何をしにいらしたのでしょうか?」



『こちらに攻めて来ている者達がおります。

そして私の身を捧げ、お慈悲をいただきたく参りました』



アルクの時が止まった。

見に来るなら分かるが、攻めて来ている者と身を捧げるという者の物騒な件がダブルパンチできたのだ。

驚き慌てながら答えていくが、それでもヘラジカは頭を下げ震えていた。



「え!攻めてきている者とは?もう向かってきているんですか?

あと、落ち着いてください、私はここに来たばかりでここの決まり事など全く分かっておりません。

身を捧げると言われても困ります、ですが向かってくるなら話は別ですが・・・」



『アルク様は温厚な方で安心いたしました。

攻めてきている者とはアルク様の魔力を感じ取り、ここより北東に住む者達が、こちらへ動き出したみたいです。

次の夜と共に仕掛けて来ます』



アルクはそれを聞き、ヴィアスの時のことを思い出し、やっちゃったなーと顔に手をやる。



(でも魔力?自分の威嚇で気づいたというより魔力って事は、従魔契約で感づかれたのかな?

一旦、南の主さんの身と魔力は放置しておこう。

狼が攻めてくるのは次の夜か、信じていいんだろうか?いや、今は断言できない。

さすがに警戒はしておかないと、それよりまず落ち着くための技を使おう)



「自己紹介を私はアルクと言います、そして肩に乗ってるのは仲間のチャチャです」



アルクは本名ではなくゲームの時の名前を使うことにした。

もう【世話・歩】より【アルク】のほうに慣れてしまっていたからだ。



『アルク様にチャチャ様、私には個体名も名もありませんが、南の主と呼ばれておりました。

今となっては不要な物、お好きなようにお呼びください』



(南の主!?とうとう来たか・・・でも南?これは後でいいか)



アルクは落ち着くためにした技【自己紹介】が裏目に出て大物が来たと困惑する。

そりゃそうだよねそんな神々しい見た目だもの、主か神獣だよねとやったことを後悔していた。



「私に、さ、様は要りません、言葉遣いも気にせず楽にしてください」



『アルク様、私のほうこそ身を捧げお慈悲をいただきたく参りましたので、言葉遣いも必要ありません』



(あぁ、忘れていたことをぶり返してしまった・・・)



譲り合いになりそうなのでそのままなかったことにする小心者のアルク。



「北東の者達とは仲間ではないのですか?」



『いえ、仲間ではありません、共にこの樹海で住んでおりますが縄張りが違います、どちらかというと敵です』



「そうなのですか・・・では、助けを求めてここに来たと?」



『はい、アルク様とチャチャ様の前では、何をしても無駄と悟りお慈悲をいただきたく』



そこまで畏怖べき存在なのか?とアルクは考えるが自分では気づけない事が多すぎて諦めた。



「・・・そうですか、ここの樹海のルールは何かありますか?」



『弱肉強食の世界です、力あるものが縄張りを作り暮らしております』



(なるほど、やはり縄張りの中に家が建ってしまっていたのか。

じゃあここの主は誰だ?南の主さんはここの主とは言ってなかったから・・・。

まぁそれよりも攻めてきている者の情報が先か)

「答えていただきありがとうございます。

話がそれましたが向かっているモノ達とは数と種族・・・見た目などは分かります?」



『西の主が511体のグレートウルフと呼ばれるモノ達を連れて向かっております』



アルクはその正確な数に驚く。



「それはどうやって入手した情報でしょうか?」



『私と住む者たちからの情報でございます』



「それは・・・情報収集能力に長けた仲間ですね、その者達には名はないのでしょうか?」



『魔族のドリアードでございます』



(ドリアードもいるのかぁ、魔族?前の世界では木の精霊だったはずだけど、まぁ、どっちでもいいか。

ファンタジー世界だもんなぁ居てもおかしくないか、それに樹海だもんなぁ、もろに見られてるよね)



アルクは少し考え会えるかどうか聞いてみた。



「ドリアード様に会う事はできますか?」



『アルク様でも会うことは難しいかと・・・ドリアード達はアルク様を恐れておりますゆえ、力づくでも不可能かもしれません』



(えぇ!?恐れられる事・・・した?・・・あぁ、南の主様がこんなにビクビクするんだから恐れられるよなぁ・・・。

急に現れた存在だし・・・それに元々ここには木々が生えていたんだろうなぁ・・・ここの木々が無くなって自分達が現れたんだから尚更か、償える機会があれば償おう・・・命じゃないことを願いたいな)



アルクはそんなことを考え、今は狼の事に向き合う事にした。



「そうですか・・・、誤解が解ける機会があることを祈ります。

話をまた戻しますが、狼の強さはどれくらいか分かりますか?」



『1匹なら取るに足らないかと、ですが数が数なので危険かと思われます』



どうだろうか、ゲーム世界なら慣れてるんだけど、自分のステータスやチャチャのステータスが見えなくなった今の状態で命をかけた戦いをしたことがないから、ヴィアスの時と同様で1匹でも怖いんだけど。

それに数も問題だ、南の主さんも情報も信用できるかと言われれば無理だ、急に来て懇願されても裏がありそうだから。



アルクは現実を受け止められず、もう一度聞く。



「本当に攻めてきているんですよね?」



『はい、その・・・アルク様は気づかれては、いないのですか?』



という念話を聞くと同時に、シュッと音が鳴った。

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