第9話 wikiってありません?

台所の踏み台の上に、白い紐シャツ、黒い長ズボン、茶色の革靴、そしてエプロンを身に着けている場違いなゴブリンが佇んでいた。

髪の生えてないツルツル頭の上にはカメレオンらしきドラゴンが乗っていて、そして台所の正面にはロングテーブルがあり、その上には二つのバスケットが置かれていて中には二人の赤ん坊が心地よさそうに眠っている。



そんなゴブリンは何をしているのかというと、弱火が付いたコンロの上に、大きな鍋を置いてミルクと温度計を入れ温めていた。



そして独身貴族のアルクは悩んでいた。



今まではコンロのスイッチを捻ると火が点き、いつもならこのアクションをすると料理の作成リストがでるはずなのだが、出てこない。

残念に思いながらも手作業でヤギのミルクを低温殺菌しているところだが・・・。



哺乳瓶がない。



のはまだいい、布かスプーンで上げればいい。



問題は、赤ん坊をだっことおんぶする紐の結び方がわからない。

魔法使いで賢者になりかけの独身貴族の男が知っていたら脱帽だ、そしてどんな理由で調べたの?と聞きたい。

現代の便利な世界なら尚のことだろう。



wikiの知識がほしい



情報がほしい



(そんな無い物ねだりしてもどうしようもないか、落ち着いたし、家の周りでもみてこようかな)



アルクはチャチャを頭に乗せながら、ミルクを低温殺菌してる間に外に出て、ここら一帯の確認をすることにした。



アルクは庭に出ると、辺りを見渡し巨木に登り周りの状況を見てみる。



「よっこいしょっと・・・え・・・」



そこには予想を遥かに超えた世界が広がっていて仰天する。



何処を見ても緑の海が続いていた、葉擦れがまるで波の音ように聞こえるが、アルクにはそんな余裕がなかった、人工物や煙が立っているとこもなく、途方もなく遠いところに山が見え。



アルクはここが何処か理解した・・・【樹海】だ。



(なんだ・・・これ・・・広い・・・広すぎる・・・緑しか見えない・・・あの1つだけデカい山はなんだろう?・・・ここを出るには何日かかるんだ、ここは本当にゲームの世界なのか?こんなところ見たことがない。

ベラとエリクといい・・・もしかしたら・・・もしこのまま強制ログアウトしなかったら・・・最悪の事態も考えるべきか)



しばらくその広大な景色をチャチャと見る。



「これが現実世界だとしても受け入れるには、もうちょっとかかりそう・・・かな」



落ち着いたアルクは戻り、現実逃避を兼ねて家の状況を確認することにした。



【リビング】

時計は止まっている。


ゲーム内情報を流してくれていた壁にかけたスクリーンも何の反応もしない、黒いままだ。


壁のスイッチを押すと、ちゃんと照明は機能してくれた。

食糧庫でもそうだったがこの世界には電球がない光るマリモが電球の代わりをしてくれている。


音楽を流す蓄音機も機能し、さっそくflow of worldで好きだった、心を落ち着かせられるレコードを取り出し流す、音も問題なさそうだ。


ベラもエリクも泣かなそうなので問題はないだろう。



【台所】

コンロの火はちゃんと火力の調整はできた、それにオーブンもあった。

元栓を占める場所がないから赤ちゃんたちが歩き始めたら注意が必要だな。


蛇口からは冷水とお湯がちゃんとでた。


引き出しやら開けていき、調理道具なども確認していく。

まな板、鍋、包丁、フライパン、ザル、ボウル幅広いサイズでそろっていて、タコ焼き専用の鉄板はなかったが卵焼き専用フライパンとシンクのラックには、石鹸とたわしがあった。



アルクの家はL型の二階建てだ。


玄関を開けたら【リビング】でリビングを真直ぐ少し進んだ右手に廊下がある。

廊下に入って左手すぐに二階へ上がる階段があり正面の廊下には左右にドアが並んでいた。


リビングから廊下に入って左側の手前から【階段】【風呂場】【洗面所】【トイレ】


とあり右側の手前から【書庫】【錬金場】【倉庫】


となっている。



2階はアルクの寝室と個室が5部屋ある、あと屋根裏だ。



地下の食糧庫は玄関入って真直ぐのドアを開ければ地下へいける、キッチンのとなりにドアがあるから行き来が楽だ。




【風呂場と脱衣所】

シャワーとバスタブもちゃんとあり風呂場も問題ない。

さすがにシャンプーやリンスやトリートメントはなかったが石鹸はあった。



【トイレ】

洋式トイレだ。

ゲーム内のトイレなんて使わないから最後に入ったのは8年くらいか。

トイレットペーパーがある、紙を千切りトイレに入れて流がしてみた。

うん、問題はなさそう。



ほかの部屋も灯りが点くか点検していき、異常なし。

すべてを見終え台所へと戻ると、コンロの火を止め次は冷ます。

ヤギのミルクの匂いを嗅ぎ、思ってたより臭くはないなと確認したところで、人肌まで自然の力を借りる、いわゆる放置だ。



次は一階の書庫と錬金室と物置を見て回る。



書庫のドアを開けて入ると、正面に窓と机とイスがあり、その周りには本棚が壁一面に置かれ、その本棚に隙間なく本が敷き詰められている。

Flow of World世界で見つけた歴史書など、プレイヤーが作った本を本棚に入れている、一通り確認すると書庫出て隣の錬金室へ向かう。



錬金室の中へはいると、書庫と同じ間取りで目の前の錬金台に触れる。

アルクは錬金熟練度0だが置くものがなかったから錬金台を置いていた。

時々ギルドメンバーが使ったりもしていたけど、リストもでない今となっては、ただの置物だ、自分はこの目の前の置物を扱える知識がないからだ。



次は隣の物置に行く、ここも間取りも同じで、回りにマジックボックスが何段もおかれていて、家具の類やら武具、おしゃれ衣装まである、引退した者に託された物がその中には眠っていた。

一通り見たのでリビングへ戻る。



(改めて自分は結構細かくハウジングしてたんだなと感心する)



「なんだかんだ一軒家に憧れるよね」



イスに腰掛け膝の上で寝てるチャチャを撫でながらそんなことを呟く、現実では難しいから仮想空間にいろいろ求めてしまったんだろう。

この家を買ったのも10年前くらいだ、当時は買って一つ一つ細かくやっていたが、自分好みなものが出来上がればそこからガラっと内装と変えたり季節に合わせてとかはほとんどしない。

ハロウィン・正月・クリスマスくらいだろうか、少しだけリビングと家の外装を少しだけいじるだけ、自分には芸術センスは皆無なので、ほかの方が作った家などをSNSで見たり直接見に行ったりしていた。

最近買ったのもイベントの時の小物ばっかりだなと遠い目をする。



そして改めて家の中を見て回って思った。



これが現実世界ならやっぱり。



冷蔵庫と電子レンジと乾燥機付き洗濯機がほしいと。

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