第8話 【緑色の従魔】

今日の太陽が沈む。



池傍の木に座っているアルクの膝の上でボクは池を眺めていた。



日も落ち、辺りは暗くなっているはずなのに、急に白く光り出した。



不可解な現象が起き驚くが動かない体。



ボクは初めて見る光景だ。



アルクは見たことあるのだろうか?



それを聞こうにも、声が出せない。



アルクを起こそうとしても、体が動かない。



アルクと出会い、この呪われた体を憎んだ。



この呪われた日々が終わればいいのにと。



ボクは



『願う』



______




ボクはもう何度太陽が昇っては沈み、また昇ってくる太陽を見ただろう。



アルクと初めて出会った時は、憎んでいたけど、今はそんな事はない。

退屈だ、なんて思った事もない、それはアルクのおかげだ。

いつもアルクは、ボクにいろんな事を語りかけてきてくれた。

始めは分からなかったが、愛情と言うものだろう。



語りかけられてもボクは、鳴き声とちょっとしたモーションと指示されたことをミスなくやりとげることでしか応えることしかできないこの体が、歯痒かった。



そしてある日、アルクがボクを庇い目の前で光の粒子となってキラキラと消えていくのをみた。

また会えるのは知っている、でも目の前で大切な者を失うという経験を初めて知った。

傷つけた相手にも憎悪を募らせたが、アルクの姿が無くなるまでその場で突っ立て見ている事しかできない、この体を歯痒いから呪いへと変わっていった。

その後、アルクの元に転移すると「強かったね、チャチャが死ななくてよかったよ!」と笑顔を見ると安心した。



ボク達、従魔が死ぬと従魔レベルに応じて復活の時間が伸びる、それを回避するためにアルクが瀕死なった従魔を引かせたり、無謀な戦いを控えていた。

主が死ぬとそのまま復活した主の元まで従魔は死なずに戻ることになっていた。



アルクと行動を供にし気づいたこともあった。

アルクは無駄な殺生をしない、どんなに格下だろうとも攻撃しないのだ、衝撃的な事が起きると逃げる、ボクがいれば勝てそうな相手でも逃げる。

そしてエンカウント運がいい、希少種や稀に起こる現象を無意識で引き当てる。

結構な日が経ち、その頃にはボク含め2体の希少種を従魔にしていた。

アルクの周りにも人が増えていった、アルクの仲間は癖が強い人達で強引に連れていかれる忙しい日々が続き。



いつの間にかボク自身の感情が制御できるようになっていた。

アルクの仲間が反面教師になってくれたおかげだ。

アルクの良さを伝えるにはどれだけの太陽が沈み昇ってくる必要があるか分からないが、アルクの仲間もある意味すごいと尊敬している。



その中でも気の毒なことがあった。

4体目の従魔ができた時にギルドメンバーの一人、無神経代表の確かムサシという名の男がいった一言だ。



『なぁ、アルクは従魔を代えたりしないのか?俺の知る限り、もう3年は同じだよな?』



その一言がギルドハウスに居るみんなを硬直させ、みんな手で顔を覆っている、中には祈るポーズをしている者も居た。

ギルド内では『暗黙の了解』がいつくもあり、その一つはアルクの従魔への質問だ、仲間のみんなはアルクが従魔を家族のように大切にしているを知っていた。



そして従魔を代えるとは、その従魔だった魔獣を消すという意味だ。

4体以上を持つことはイギュディンがそれを許さない。



アップデート?という主や主の仲間が言っていたが、世界の改変というやつだろう。

様々な魔獣や魔物が新たに現れたりするから、ずっと同じ魔獣を連れている人なんて、居ない。

ある程度レベルが上がれば従魔を削除して新たな従魔を手にする、数年も一緒に行動をするプレイヤーはほぼいない、そんな世界だ。



そんなアルクはボク達を見て。



「しないよ、家族なんだから」



と一言だけ言うと、さすがに無神経代表ムサシはその目に見えない空気に気付いたのか。



「そ、そうか」



と小さく一言だけ言い追求はしなかった。

そして隣の席に居たギルドのマスターに「来い」と肩を掴まれ無神経代表ムサシは外に連れていかれ、無神経代表ムサシが見えなくなると、みんなはさっきの事がなかったかのようにいつものように賑わい始めた。

外から聞こえる悲鳴が聞こえないほどに。





白い光が収まると、夜だったはずなのに太陽が昇っていた。

周りは明るく周りを見渡す、池はいつも見ていたものだが違和感があった。

いつも見ていた森とは違い、人族の大陸で見たような木だ。

チャチャは自分自身に違和感を覚え、初めて味わう感覚が肌に合わず無意識に体を動かして固まる。



動くのだ。



いつもは指示をされたり名前を呼ばれなければ動くことができない、なのに動けている。

アルクの膝の上で自分の意志でジャンプする、嬉しく何度も何度も飛ぶ、はしゃぎすぎて気づかなかったが、アルクの腕にカゴがあったから気になって前足をかけて中を覗くと、水色の2つの目と目が合った。



「ック!?」



ビックリして跳ね上がりすぐにアルクを起こさければ!とアルクの顔をペロペロ舐めまくる

、早く起きてくれぇと願いを込めながら。



アルクは目を覚ましてからすごく大変そうだった、さすがに構ってもらえる状況じゃなかったのでアルクの頭の上で様子を見ていたが。



少し落ち着くとアルクは頭に乗ったボクを掴んできたので、お!構ってくれるのかと思ってアルクの顔をなめまわすが、アルクは落ち着いてと言ってきたので一旦落ち着く。



「チャチャ・・・ここは何処?」



アルクが知らないことをボクは知らないから、鳴くことしかできない。



「ック」



自分の不甲斐なさに顔を下に向ける、アルクもボクが落ち込んでるのか解ったのか胸に優しく抱いてくれた。



今までとは違う温さがある、この感覚を忘れないようにボクは主の胸に頭を埋める。



(あぁ・・・いつもと違うアルクの温もり)



少しするとボクは定位置のアルクの頭に乗り、上からする弱い気配を感じていたので〖擬態〗を使かった。

アルクがパニックになってるのだ、危険な状況なのだろう、まだアルクは現状を受け止められてないのか変なポーズをしたりしている、それを何回か繰り返しているとまた、小さき者がぐずりはじめた。



アルクの上で見ていると、さきほど感じ取った気配の者がいた。



・・・何か踊ってる。



アルクはその鳥に近づき。



「お客さんかな?こんにちは面倒を見てくれてありがとう」



太った鳥はビクっと体が強張っていた、擬態をしていたから気づかなかったのだろう

弱いなとボクは思った。

手を出すことはない、今は主の指示なしでなんでもできるが、無駄な殺生を嫌うアルクだ、それと反面教師だった主の仲間で学習している。

太った鳥がこっちを見て品定めをしているのだろう目をしていた。



・・・下等な鳥が



ボクは満面な笑みで『殺すよ』と目でメッセージを送ってあげた。

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