第11話

 明け方になり、やっとうとうとしかけたところへ、真っ青になったマリアが飛び込んできた。


「アキラ、早く来て!パパが大変なの!」


 切羽詰まったその声に、私はあたふたとベッドから転び出た。


「どうしたの?」


「パパが……パパが姉さんとマイクを撃とうとしてるのよ。早く止めて!」


 いったい何なんだ?


 わけのわからぬまま、私は慌てて部屋を飛び出した。


 玄関を出たところで、目の前をマイクの運転する真っ黒なルノーが爆音を上げて走り過ぎた。


 助手席にカルメンの姿がある。


 すぐそばでカルロスは、車に狙いをつけ、ショットガンを構えている。


「撃っちゃダメだ!」


 私が叫ぶと同時に、黒い銃口が火を噴いた。


 ルノーは一瞬で炎上し、轟音とともに路肩の大木へ激突した。


 そのさまは、あたかも巨大な牡牛が、闘牛士の剣の前に最後の突進を試みる姿にも似ていた。


 我に返り、慌てて駆け寄った時は、もうどうすることもできなかった。


 呆然と立ち尽くすカルロスの手からショットガンを取り上げると、老いた闘牛士はただ、


「俺は娘を愛していた。カルメンを愛していただけなのに……」


 放心したように繰り返すだけだった。


 燃え盛る炎を前に、その姿はげっそりとやつれ果てて見えた。

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