第5話

 夕食後、居間へ移ってカルロスの若い頃の話を聞いた。


 彼が本格的に闘牛を始めたのは13歳の時。


 最盛を極めたのが、20歳からの三年間だった。


 特に23歳の時には、各紙から「最も華麗な闘牛士」との称賛を浴び、国内にその名を知らぬ者がないほどだった。


 ところが、翌年結婚してカルメンが生まれると、彼の演技にはそれまでのような冴えが見られなくなった。


 世間は家庭を持った闘牛士など使い物にならないと噂した。


 30歳を目前にして、体力の衰えもあったのか、演技のさなか牛の角に正面から突っかけられ、4ヶ月間ベッドへ釘付けにされるハメになった。


 妻は二人目が生まれるのだからもう闘牛をやめて欲しいと望んだが、カルロスは頑として受け入れなかった。


 そして、2度目の大怪我。


 ついに、彼女は2人の娘を残して彼のもとを去った。


 以来、カルロスは闘牛の世界からきっぱり足を洗い、牧場主という現在の立場に落ち着いたという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る