第3話

 それからしばらく、我々は朝早く起きてホテルで朝食をとり、件のカフェではコーヒーを飲みながらチェスを楽しんだりした。


 昼下がりの街をぶらつき、教会へ足を運んだり、民芸市を楽しんだり、闘牛を観に出かけたり、時は夢のように過ぎて行った。


 マイクはここでの出来事を記事にして雑誌社へ送るようなことを言っていたが、いっこうにそんな仕事をしている風には見えなかった。


 5日目だったか、いつものようにカフェテラスで一杯やっていると、彼が突然釣りに行きたいと言い出した。


「おい、アキラ。この辺に釣りの出来る場所がないか訊いてみてくれないか。俺がここへ来たのもそれが目的なんだが、いい釣り場が全然見つからないんだ」


 私は隣の席で議論に熱中していた二人の農夫を捕まえ、どこか良さそうな釣り場はないかと訊いてみた。


「でしたら旦那方、フィエスタって牧場の近くがいいですだよ。あそこじゃ以前、こんぐらいでっかいマスが釣れたもんですだ」


 一人が両手を大きく広げて自慢げに笑うと、もう一人はあからさまに眉をひそめ、


「何言ってるだ。そげにでっかいマスがおるもんかい。それに、あそこで大物を釣り上げたのはお前じゃねえ。おらだ。旦那、こいつの言うことなんてこれっぽっちも真に受けちゃなんねえだよ」


「だけど、そこがいい釣り場だってのは本当なんだろ?」


「そりゃホントですだ。あそこじゃ実によく釣れますだ。おらが言うんだから間違いはねえ」


 マイクに伝えると、彼は非常に喜んで、農夫たちに酒を一杯ずつ振舞った。


 それから、どのバスで行けばいいかを教えてもらい、店を出た。

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