第3話 命短し恋せよ乙女……ですわっ!

◇◇◇


「きゃっ!大丈夫ですか!?」


 思わず駆け寄ろうとしたリリアだったが、その前に大勢の令息たちに囲まれてしまう。


「リリア殿!いけません!ドレスが汚れてしまいます」


「そうです。放っておきましょう」


「で、でも……急に倒れるなんて心配だわ……ご病気かしら……」


「そうですね。きっと病気です。移ると危険なので、触ってはいけません」


 酷い言われようだったが、リリアはサッと顔色を変えた。


「それならなおさら、放ってなんか置けませんわ」


 リリアは鼻血を出した令息に歩みよると、ドレスが汚れるのも構わず、その場にペタンと座り込む。そして、頭を持ち上げると、膝の上にそっと載せた。


「しっかりなさって。今、家のものに従者を呼びに行かせましょう。お名前を教えていただけますか?」


「チャ、チャールズですっ!チャールズ=ロックです!」


「チャールズ様……ですね」


 にこりと微笑んだその顔のあどけなさ、美しさと言ったらっ!


「あ、あう……」


 声にならず、パクパクと口を開くチャールズ。


 チャールズを始め、その場にいた令息が軒並みリリアに心を奪われたのは言うまでもない。


 ロック家の従者が慌ててチャールズを連れていくと、リリアはドレスを押さえ、ゆっくりと立ち上がった。


 しかし、膝枕をしていたせいで、足が痺れ、思わずよろけてしまった。


「きゃっ……」


「大丈夫ですか!リリア嬢!」


「さぁ!僕の手に掴まって!」


「教室までお送りしましょう!」


 再びリリアの周りに群がる令息達。その顔は、純粋な下心に溢れていた。


「皆様……お優しいのですね」


笑顔を向けられて気を良くする令息たち。先ほどまで嫌な視線を向けていた者も、ちゃっかり参加している。


「本当は今日、笑われることを覚悟してましたの。あんなことがあったばかりですし……今さらこんなドレスを着ても、褒めてくれる相手もいないのにって」


 うつむき、悲しそうに微笑むリリア。


「でも、皆さんのお陰で教室に入る勇気が持てそうですわ」


 瞳には良く見ると泣き腫らした跡が……


(((なんて可憐なんだっ!守ってあげたいっ!)))


――――こうしてリリアは入学一日目にして、難なく大量の信者をゲットした。


「な、なんて鮮やかな手腕!」


「おみそれしましたわ……」


 リリアの鮮やかな手管に、貴族令嬢はごくりと唾を飲み込む。


 シーっと、口許に指を当て、軽く片目をつぶって見せるリリア。


「皆様、命短し、恋せよ乙女……ですわ!」


 リリアの学園生活はまだ始まったばかり。これからどんな恋の騒動を巻き起こすのか。それはまたのお話で。


 おしまい

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公爵令嬢の華麗な転身~命短し恋せよ乙女……ですわっ!~ しましまにゃんこ @manekinekoxxx

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