島が沈む
華
第1話
ねえ、起きて、起きてよ、ねえってば
何だよ、うるせえな
君はさ、目玉焼きは半熟派?それとも固ゆで派?
何でそんなはっきり言ってどうでもいいようなことをいちいち聞くんだよ
どっち?
半熟
半熟かー、僕は固ゆでだな
固⁉あんなんのどこがおいしいの?
君の島から外に出て見な、きっとそこにあるから
い、いい
どうしてよ
だって俺はまだ島の外に出たことがないんだし
出たことがないなら出ればいいじゃない
嫌だ
どうして?
俺はこの島が好きなんだ
そんなの外に出ればもっと変わるよ
嫌だ
だったらさ、もっといいこと教えてあげるよ
それよりも速く僕を返してよ、だいたいここはどこなんだよ
”君の島は間もなく沈む”
は?
”君の島は間もなく沈む”
は?
”君の島は間もなく沈む”
だから何なんだよ、だいたいさ、お前はどうしてそうだって言いきれているんだよ
島が証明しているからだよ
どうしてだよ
島の奥深くにある石を見てごらん、行けばきっと分かるから
行くってどうやってだよ、だいたいな、島の奥深くだなんて石と森だけじゃないか
本当にそうなのかい?
え?
本当にそうなのかい?
い、行ったことないから分からないけど
だったらどうしてそうだって言い切れるんだい?
え、えっと、そ、そうだろ、だって俺んちから見たら島の中央付近には森で生い茂っているんだぞ、き、きっと、な、中だってそうだって言える
動揺してるね
だ、だから何だよ、何か言いたいのかよ
いいか、人を良く見て考え深く物事を捉えるそして行動をする、Look closely at people,grasp things,think deeply and act
な、何が言いたいんだよ
おまじないだよ
おまじない?何の?
何か困ったりすることがあったらこの言葉を思い出して
それよりもさ、俺、速く家に帰りたいんだけど、何かいい物があるって言うからついてきたのに全く何にもないじゃないか、俺はな、今な、とってもとってもお腹が空いているんだよ、だいたいな、まだ俺はおやつを食べていないしそれにお前と話していた分の時間を考えたらきっともう夜ご飯の時間だよ
わ、分かったよ、今すぐ返してやるよ
音
「朝よー。」
一階から母の呼ぶ声がする
「光、速くしなさい。」
声が怒鳴り声に変わる
体を起こしたいけど起こせない
手が思い通りに動かない
みしみしと床がきしむ音がする
足が上がらない
きしむ音は僕の部屋の前で止まった
「光。」
父の声がする
「お、き、な。」
父のその一言に僕の体は動き出した
まるで魔法をかけられたピノキオのように
父について一階に下りると母が匂い立ちしていた
「もう、いつも早起きだからこうやっていつまでたっても起きてこないと心配するじゃない。」
「ご、ごめん。」
「どうしたの?」
「いや、何とも。」
「何かどっか悪い?体調不良?」
「いや、何にも。」
「何か気落ちしてる?」
「ない。」
「なら良かったけど、いつも見たいに威勢のいい話し方をしてくれないとこっちが不安になるじゃない、まあ、威勢がいいのもうるさくて困るけど。」
「お母さん。」
「何よ。」
「いや、何でもない。」
「ねえ、どうかしたの?かかあじゃないってことはどっかで言葉遣いでも習ったのかしら。」
「じゃあかかあ。」
「だから何よ。」
「何か老けた?」
「は?」
母の顔がみるみる内に赤くなった
「ふ、老けたって。」
「わはははは。」
急に笑い声がした
見ると父が腹を抱えて笑っている
「事故で気でも変わったのか?」
「事故?」
僕は事故に遭った覚え何てない
「もう忘れてしまったのか?ちょうど七日前に学校の帰り道で交通事故に遭ってそれから昨日まで意識不明の重体だったんだぞ、でもな、昨日夜に意識が戻って家に帰りたいって言うから取り合えず戻ってみようってことになったのに、家に戻るなりいきなり倒れてさ、どうしたのかって思った。」
「昨日まで意識不明の重体だったのにどうして家に帰って来た?」
「それはお前が帰りたい帰りたいって病室で騒ぎまくるから昨日の夜に家に戻して体調を診ようってことになったじゃないか、何だ何だ、忘れてしまったのか?」
「うん、忘れた。」
「速えーな。」
「それよりお母さん、ご飯は?」
「かかあって言いなさい、かえって気持ち悪いじゃない。」
「かかあ、ご飯は?」
「もうできてあるわよ。」
「良かった。」
僕は食卓に着いた
「半熟?」
「そうよ。」
僕の目の前には黄身が透けて見える目玉焼きが置かれていた
「どうして半熟なの?」
「あら、だって半熟がよろしんでしょ。」
「は?僕は絶対に固。」
「もう、好みでも変わったの、分かったわもう少し温めてみるからプレート貸しなさい。」
「はい。」
母はプレートを受け取るとめんどくさそうに台所に入っていった
父が不思議そうに僕の顔をのぞいた
「どこか具合でも悪いのか?」
「別にない。」
「熱とかあるのか?」
「ない。」
「ならいいが。」
「ちょっと僕、外行ってくるわ。」
「外ってまだ寒いわよ。」
台所から母の声がした
「でもいいんだ。」
「そんなに外に出たいなら厚着していきなさい。」
「うん、分かった。」
僕は席を立った
後ろで父と母が首を傾げているのが感じ取れた
外に出たがあまりの寒さに一度家に戻り、コートを着込んでから外に出た
11月の昼間、空気はぴりっと肌に着く
「うう、寒っ。」
僕はしばらく家の前の小道を歩いて大通りに出た
車が行きかっていた
人もたくさんいた
お店も列をなしていた
ただ僕の目にはある一つの服屋だけが目に入っていた
「今生三店。」
確かあれは着物を扱っていたはずなのに、ショーウインドーには小さな洋服が並べられていた
そもそもショーウインドーがあったかどうかもさだかではない
と、服屋の隣に見覚えのないお店があった
「人形屋?」
「どないした?」
横に年老いた男の人が腕組みをして立っていた
「坊主、どうした?」
「おじさん。」
「おじさんじゃない、人にはみんな名前がある。」
「あなたのお名前は?」
「森本和也。」
「舘林光です。」
「舘林くんか。」
舘林光…
「坊主、どうした?」
「僕の名前は舘林光。」
「どうした?」
「光?」
「どうした?」
「光って誰ですか?」
「は?」
「おじさんは光と言う人物を知りませんか?」
いつの間にか僕は焦っていた
「知るわけないだろ。」
「そ、そうですよね、いや、何かすいません、僕、何か急に。」
「坊主?さては記憶でも飛んだのか?」
「記憶?」
「ああ、よく人は事故に遭ったりすることで記憶を失ったりするって一度だけ聞いたことがあるがもしかしてお前さんもそうか?」
「事故?ああ、確か朝母がそんなことを言ってたような気が。」
「ならきっとそれじゃないか、それよりも坊主、君に渡したいものがある。」
「何ですか?」
「ちょっとそこで待っといてくれ。」
「はい。」
僕は短く返事をして店の壁に寄りかかった
外はすでに雪が舞い始めている
「島って雪、振るんだっけ。」
「おい。」
森本さんが何か固いもので僕を小突いた
「人形だ。」
「人形?」
僕は人形を持っていた覚えなどない
「僕のですか?」
「ああ。」
「でもどうして?」
どうしても分けが思い出せなかった
「坊主が作って欲しいって言いに来たんだろ、全くもう、ものすごい大金を持って、でもそんなにもらえねえからほぼただの寄せ集めの材料でただで作ったんだ、どうだ?うまいか?」
立派な日本人形、彼女の目が僕をじっと見ていた
「もらっていってもいい?」
「どうぞ。」
「ありがとう。」
僕は日本人形を抱きかかえると森本さんに軽く会釈をして店を後にした
森本さんがずっと立って僕を見送っているのが分かったが僕は振り向かなかった
しばらく町を散策して僕は家に戻った
「ただいま。」
「お帰り。」
母の声がした
「あれ?お父さんは?」
「もう、だからととうって言いなさい、気持ち悪いったらあらしない。」
母が玄関に出てくると、彼女の足は止まった
「どうした?」
母は口元を手で覆って、どんどん顔色が青ざめて行った
「そ、そのお人形、どうしたの?」
「ああ、これ?」
僕は日本人形のほつれかかった髪をなでながら言った
「叔父さんからもらったの?」
「誰?」
母の顔が恐々していた
「森本さん?」
母の足が震えだした
「ど、どうして?」
「どうしてってだって下の方に人形屋さんが合ってそこの人が、だってその人だって僕のことを知ってたみたいだし、それにこの人形は僕が頼んで作らせたんだって。」
「そ、そうならいいわ。」
「この人形を知っているの?」
「ねえ。」
母は恐る恐る人形に手を伸ばした
「どこの人形屋さん?」
「今生三店。」
「そんな名前のお店、この辺りにはないわよ。」
「え⁉」
僕と母との間に冷たい風が流れた
「は‼」
俺は跳び起きた
「ゆ、夢。」
「光ー、朝よー、起きなさい。」
下から母の声がする
でも今日は11月の冬の朝、起きたいわけがない
体は起きようとしているけど僕は絶対に起きたくないんだ
足音がした
きっと父さんだろう
足音は僕の部屋の前で止まった
「光。」
父さんにだけは絶対に怒られたくない
だって一度怒られると永遠に続けされられるから
「お、き、な。」
の言葉に僕は跳び起きて着替えた
下に降りるとすでに目玉焼きができている
「おはよう。」
母が俺らの朝ごはんを運んでいる
僕は返事をしなかった
「おはよう。」
母はもう一度話した
「ああ。」
とだけ俺は返事をした
「もう、昨日は急に丁寧な言葉を使ったかと思えば今日はいつも通り乱雑な言葉、やっぱりもう一度病院に行った方がいいんじゃないの?」
母は心配そうに父の顔を覗き込んだ
「大丈夫か?」
父は俺の顔を覗き込んだ
「ああ。」
とだけ僕は返事をした
「ま、そう言うならそうってことでいいじゃないか。」
「まあ、あなたがそういうなら。」
「事故に遭うと性格が変わるとか良く聞くしな。」
事故…
ああ、確かに前進が少し痛い
特に心臓の部分が
後遺症ってやつかな
でもそれよりも俺は絶対に母にだけは口をきいて欲しくなかった
「速くしないと学校に遅刻するわよ。」
「ああ。」
と僕の目に目玉焼きが映った
「固?」
「そうよ。」
「だって俺は生がいい。」
「もう、どうしてよ、昨日は固がいいって言ったと思ったら今日は生がいいって。」
「固がいいのは母さんの勝手な妄想だろ、だからいつまでたってもかかあとかしか呼びたくないんだよ。」
「もう、少しはお母さんって呼びなさい。」
「やだ。」
「やだじゃない。」
「もう、まあまま、少しは落ち着て。」
父は俺たちを渋々なだめた
「だから何だ、そんなのどうだっていいだろ、それより俺はこれから仕事に行かなきゃならないんだ、光、お前だって学校だろ、ケガが治ったなら学校にとっとと行け、そうでないなら家でじっとおとなしくしろ、もしくはもう一度病院に戻れ、無理やりことを言って家に帰してきてもらっているんだから。」
「分かったよ、目玉焼き以外なら食ってやる。」
父は深く溜息をついた
毎朝毎朝これだ
母さんは俺のお兄さんのことを思い出してそして俺に兄と全く同じことをさせようとしている
けど俺は兄ではない
兄は兄、俺は俺、それにだって俺はまだ一度たりとも兄とは会ったことはないのはず
多分、多分、でもそれにしてもあの変な夢は何だったんだろう
まるで誰かに話しかけられたかのようなそしてどっかで見たことがあるかのような
俺は必死に脳内を回想してみた
確か交通事故に遭うまでは普通だってからその後か、確か車に引かれて、それで倒れて誰かに話しかけられてそっから何かまるで自分は自分ではないみたいに、確かに見えている世界も俺の家族もみんないつも通りだったけど何かどっか違うような
やけに弱弱しいていうかなんか違ったな
「ねえ、ねえたったら。」
「はっ。」
「もうどうしたのよ、急に黙ったかと思えば急に驚いたかなんかして、ねえ、さっきからどうした?」
「か、関係ねえよ。」
俺は急いで朝食をかき込んだ
「学校行くのか?」
「ああ。」
父は僕を心配そうに見つめた
「だから何なんだよ。」
「行くなら速く食べろ、さっきからつべこべ文句でも言ったかと思ったら急に黙り込んでそしたらまた急に話し出して、しかも起こったトーンで、何が一体全体どうしたんだ?」
「ど、どおって、どうもしてないよ。」
音を鳴らして席を立った
父母が心配そうに俺を見つめているのがよく感じ取れた
「学校行って来る。」
「気を付けてね。」
「ああ。」
俺はコートを着て空の鞄を背負って外に出た
11月の冬の空、空気がひんやりと頬に触る
俺は振り返りもせずに家を出た
坂を降りて行くと服屋がある、そしてその隣には何もないただの空き家がある
けど俺にはその空き家には何かがあったかのように感じた
学校に着くと無時にみんなに囲まれた
囲まれたと言ってもたったの一学年四人多くて七人しかいない村で唯一の学校
しかも中学校が人数が足りず閉校になったことで空き教室は中学生が使っている
つまり俺らの教室の隣には中学生のための教室になっている
高校は最初っからない
だから彼らはここを卒業したらフェリーで対岸の本国の方の高校に通わなければならない
でも本国の方の高校にはヤンキーと言う柄の悪い怪しい奴らや言葉が全く通じない人もいると言う
しかも文化だって全く違うらしい
と言うことをたまに本国に出張に行く俺と父っちゃんはみんなに自慢していた
でも今はそれよりも今目の前にいる奴らに俺の無時を証明しなければならない
狭い島だ、きっとみんな事故の話は聞いている
「み、みんなそんな顔してどうしたんだよ。」
「どうってそりゃやっぱ心配だから。」
すぐにそう返事をしたのは七名、俺の友達の十五朗の妹で今年で確か七
「別にそんなに心配しなくたっていいだろ、だってちょっとぶつかっちゃっただけだから。」
俺はできる限り明るく元気そうに見せようとした
「それでもやっぱ気にするわよ。」
いつも優しい七名だ、他の奴らが安心したかのような顔をして席に着いた時にでさえ俺をずっと心配する
「だから心配するな、二三日できっとよくなるから、ほらもう時間だろ。」
俺はそう言いながら七名を教室から出るようにそっと促した
先生が入ってきて朝の会が始まった
目の端に十五朗が映る
彼は最近いつもそっぽを向いている
俺と全然目を合わせようとはしない
俺に原因があることは最初っから分かっている
俺がなかなか他者を認めることができておらず、いつも自分勝手にみだりやたらに振舞っているところをあいつは責めている
けどそれがまるで俺の負の面を示しているかのように感じ、なかなか受け入れられずにいた
彼とは産まれ時からずうっと一緒にいると言っても過言ではない
親たちが当時はまだ二つあった高校の同級生で父がこの島に初めて入って来た時に何かとお世話になったらしい、そして今父はライターと言うこの町のすばらしさを世界に発信する職に就いている、そして母は漁師の手伝いをしている
けど今はその話は全くに別だった
今日の話の内容は明々後日に控えている本国の旅行の計画づくりだった
中学校の方も混ざって学校全体で行く
班は先生がくじで決めた
「では皆さん私がこれから名前を呼ぶのでその人と席をくっつけて下さい。」
先生はくじを開いた
「十五朗君の妹さんの七名さんと君島君。」
「はい。」
君島は返事をして席をたった
「君島君は一年生の部屋に向かってね、きっと待っていてくれるから。」
「はい、分かりました。」
いつも礼儀正しい君島だ
きっと七名とも仲良くやれる
「そして。」
先生の話は続いた
「そして最後。」
残されているのは俺と十五朗だけだった
俺はちらりと彼を見た
彼はまだじっと前を見つめていた
「十五朗君と光君で一緒に組んで欲しいんだけど十五朗君から光君に何かお願いがあるみたいだからお願いね。」
「はい。」
先生の手前だ、俺はおとなしく返事をした
全員教室から出て各々の場所に向かった
教室には俺と彼の実が取り残された
しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのは十五朗の方であった
「ねえ、一つだけお願いしていい?」
「何?」
俺はぶっきらぼうに答えた
「全然この話とは違うんだけど君の家に古い古文書とかないかな?」
「古文書?」
「古い文章。」
「ない。」
俺はきっぱりとはねつけた
「そうか。」
十五朗は肩を落とした
「どうして?」
「え?」
十五朗が顔を上げた
「どうしてその古文書が欲しいの?」
「今調べていることがあるんだ。」
「調べていること?」
十五朗は周りの誰もいないことを確認すると俺のすり寄った
俺は耳を傾けた
「あのな、実はこの島は沈むかもしれん。」
「は?」
俺は耳を疑った
「島が沈む?どうして?」
「実はな、この島の地質が全て泥岩でできている、普通なら泥岩で島はできない。」
「泥岩?」
聞きなれない名前だった
「泥岩は別名泥の岩とも言われるくらい非常にもろいんだ、だから普通の島ならそんなもり岩石でできない。」
「じゃあどうして?」
「それを今から調べたい。」
「調べるってでもそれとだって島の沈没の何の関係があるって言うんだよ。」
「あるよ。」
「どうして?」
「だって弱い岩石でできた島は何かの拍子にすぐに壊れてしまう、だろ。」
「まあそうだけど。」
いつの間にか俺は彼の話に引き込まれていた
「でもだからと言って沈むとは限んないんじゃないのかな。」
「でもだったらもし仮に自分がこの島が沈むということを知っていたとしてもみんなを見殺しにできる?」
「み、見殺しだなんて言い方が悪い。」
「けど結局はそういうことだよ、例え自分もまたみんなと一緒に死んだとしてもそれは見殺しと同じことだよ。」
「じゃあお前はどうやってこの島がその泥岩とかと言うやつからできているって気づいたんだよ。」
「僕のお父さんは地質の先生をやっているんだけどね本土の博物館の。」
「学芸員ってこと?」
「そういうこと。」
俺はただ十五朗よりも上に立ちたかっただけだった
「それで?」
「お父さんがこの島の地質について調べていた時にあることに気づいちゃって。」
十五朗は声を潜めた
「この島の土にはサンゴ礁が含まれていたけどあるところにだけはそれが含まれいなかったどこだと思う?」
「どこって森の中とか。」
俺は教室の窓から島の中央に生えている森を指さした
「そう島を中央付近。」
十五朗の答えは俺の予想とは違っていたが、俺は黙っていた
「でもどうやって森の砂を集めたの?だってあそこは神聖な領域何だろ。」
「お前は自分の母親の家系をよく調べてないのか?」
「家系?」
「だってお前のお母さんのお母さんつまりはひいおばあちゃんとお祖母ちゃんはこの島の巫女さんだったんだよ。」
「巫女?」
「そう巫女。」
寝耳に水の話であった
「そうなのか?」
「ああ、だからお前のお母さんに頼んで僕を入れてもらった、お前のお母さんが言うには正式な巫女でなくても子供ならある程度は許されるだろうだった、だから僕は無理を言って入れさせてもらった、それで何があったと思う?」
「何って何が?」
「扉があったんだ。」
「扉?」
「扉、鍵がついているように見えた。」
「それで、開けたの?」
「いいや、鍵は持っていないしこれ以上は近づかない方がいいだろうって。」
「そうなんだ。」
「だからつまりあの扉の中に何かあるんだよ。」
「開けたいの?」
「いいや、むしろ開けるよりも僕が一重要だったのはその土だ、帰ったら足についてたからそれを集めて父に渡した。」
「うん、それでそのサンゴ礁が混入していなかったんだろ。」
「うん、そう。」
「どうして?」
「それが全く以って分からない。」
「でもさ、そもそも島ってどうやってできるんだろう?」
「普通の島は例えば隆起とか地震とか火山とか。」
「じゃあどうして部分だけサンゴ礁がないところができるの?」
「それが全く以って分からない。」
「きっとたまたまだよ。」
「でもさ、もし本当にこの島が他とは違う島だとしたらそれはみんなに教えてあげるべきじゃないの、沈むか沈まないかは置いといてさ。」
「うん、それもそうだよね。」
十五朗は席を立って教室の窓から島の中央の森を見つめた
夕日が彼の背中を赤く神々しく照らした
家に帰り俺はすぐに横になった
この島だけ何か違うとしたらそれはみんなに知らせるべきだ、うん、確かにそうだけど、でもそんな確証ないし
トントン
誰かが部屋の戸を叩いた
「何?」
俺は返事をした
「これあなたの洗濯物。」
母が綺麗にたたまれた洗濯物を俺のそばに置いた
「ねえ。」
「何?」
母は振り向いた
「どうして俺にお祖母ちゃんとひいおばあちゃんは巫女さんだったって黙ってたの?」
「一言で言うと知らせる必要はないって思ったから。」
「でもさ。」
「でもどうしてあなたがそのことを知っているの?」
「十五朗から聞いた。」
「ああ。」
母の顔色が悪くなった
「ん?」
「十五朗君は別にいい子なんだけどどこかやっぱり自分勝手に振る舞ってしまうって言うか向こう見ずと言うか要するに他人の気持ちとか事情を考えないような子なのよね。」
さすがは長年付き合いがあるだけあって相手の性格までよく見抜いている
「十五朗君からこの島の地質にはサンゴ礁が含まれていたけど中央の森だけは含まれていなかったって聞かされたんでしょ。」
「うん、そうだけど。」
「もう、ほんとに変な子よね、いきなりさ、何も連絡もなしに島の中央の森に行きたいって私のところを訪ねて来てさ、それで以って連れて行ってあげたら急に砂を集めたいとか神聖な場所まで行きたいって言いだして、さすがにそれは止めたけど足にたくさん砂を付けていたから多分そこから調べたんだと思う、それで以って昨日だっけ急にまた訪ねて来てさ、この島は沈むだなんて言いだして、ほんと意味わかんない、だいたい何なのあの子、せっかく私がこんなにも可愛がってあげたのに。」
パンドラの箱を開けてしまったかのようだった
終わらない愚痴、俺は母が全てを話し終える前に席を立った
立った後でも母の愚痴は止まらないようだった
「でも十五朗が言っているのだって言い方はあれだけど一理あるには一理あるしな。」
俺の脳裏に十五朗の言葉と母の愚痴がよみがえった
「例え言っている内容が正しかったとしてもそこにはやっぱり根拠と言うのがないとな。」
でもおばあちゃんもひいおばあちゃんも巫女さんだったということはあの神聖な領域に立ち入りはできてたんだ、だとしたら十五朗が言ってた内容もきっと理解できるだろうしもしかしたら内容を知っているのかもしれない、そしたら少しでも根拠がそろって十五朗だってもっとみんなを説得しやすくなるのかもしれないし、もし仮に何もなかったとしたらないままでみんな大丈夫と言う意味になる
島が沈む 華 @reina0526
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