第2話 お兄様
『トワはいつも無邪気で可愛いね』
そう言ってくれた兄──フィリス・リズナ―は私の罪を庇って処刑されたと聞いている。
今思えば、私の恋はずっと、ずっと、現世でもこの世でも叶わない。
だって、【二次元の王子】と【実の兄】だもの。
お兄様と私は7歳も年が離れていて私に自我が目覚めたときにはすでにお兄様には婚約者がいた。
「トワ、今日も本当に可愛いね」
「お兄様、そんな言葉聞いたらアンナ様が悲しみますよ」
「アンナはそんな小さな器を持ってはいないよ」
「そうですわね」
そうだった、お兄様は婚約者であるアンナ様をそれはそれは信頼している。
そして浮気性というか、軟派なお兄様の素行も黙って落ち着いて余裕の表情を浮かべながら叱るアンナ様もすごい。
そう、私の出る幕なんていつもなかった、いつも、いつもなかった。
ある日、恋心を抑えられなくなった私はお兄様の部屋に忍び込んだ。
ベッドに眠るお兄様の静かな顔を見て帰る予定だったのに、それなのに、私の腕をがばっと掴んでナイトブルーの瞳が私を捕らえた。
「夜這いなんて誰に教わったんだい?」
「お、お兄様っ!」
お兄様は私をベッドにするりと押し倒すと私の腕を捕らえ、もう一方の手で私の頬を撫でた。
そして私の首元に唇とつけると、ちゅっと音を鳴らしてペロリと舐めた。
「きゃっ!」
「男の前でそんな薄い格好でいるんじゃない。それに、そんな声を出して男を誘うだけだよ」
まさか襲われるとは思わなかったが、お兄様が好きな私はどうにでもなってほしい、むしろこのまま私を奪ってほしいという気持ちで身を任せた。
しかし、その願いは叶わなかった。
「さ、早く自分の部屋に戻りなさい」
「え?」
「こんなところを見られてはアンナに示しがつかないだろう?」
「──っ!!」
私はその言葉に胸が苦しくなって部屋を裸足で飛び出した。
(そうだ、お兄様にはアンナ様がいるっ! 私なんかが入る隙なんて、ないのよ)
それ以降、お兄様を避けるようになってしまった私は、お父様からの指示で行ったパーティーでアニス王子に見初められて婚約をする。
(そう、これでいいのよ)
私はこうして王太子妃となった。
お兄様への気持ちは心の中へしまっておけばいいのよ。
でも、アニス様は自分の浮気を隠すために私の浮気をでっちあげて私を断罪するようにした。
断頭台で首を差し出す私の金色の目に涙が浮かぶ。
その涙にぎょっとした様子で兵士たちが、処刑をためらう。
「どうした! 早くしろっ!」
アニス様の声が断頭台の兵士に向かう。
ふふ、みんな結局自分の手を汚したくない、小童ね。
私はもう死ぬのなんて怖くない。
だって、だって、お兄様がいない世界なんてもう意味がないもの。
愛しています、フィリスお兄様。
あなたと一緒に生きたこの日々を持って、私は今人生を終わらせます。
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