Side:白宮裕子

 小学生の頃から、私には大っ嫌いな女の子がいる。

 嫌いな理由は私より可愛いかったからだ。

 でもそれは中学二年生まで私の好きな人を取られたからだ。


 嫌い嫌い!

 大っ嫌〜い!!


 そもそも私はなぜ彼のことが好きになったんだろう。

 そうだ!

 きっかけは小学二年生の時だった。


 席替えをして隣の席になったのが春山士郎だった。


「よろしくね、白宮さん」


 ニコリと微笑むシーくん。

 私は彼の笑顔が大好きだ。

 なんというか優しくて温かいから。


「うん! 士郎くんよろしくね!」


 私が彼を好きになった瞬間は間違いなくあの瞬間だった。


 それは四時間目の国語の授業の時に突然として起こってしまった。


 グ〜〜〜!!


 思いっきりお腹の音がなってしまったのだ。


 一瞬シーンと音が消えた。


 冷たい汗が身体中から溢れ出す。

 身体がじわじわと熱くなっていく。


 カァー。

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!


 そして、ははは!! 、と笑い声が教室中に湧き出す。


 小学二年生なんてお腹の音が鳴るだけで笑いが湧くものだ。

 でもそれだけならまだよかった。

 さらにだ。


 プ〜〜〜。


 オナラが鳴ったのだ。


 死んだ。

 明日から生きていけない!

 そう思ってしまった。


 死んだ、死んだ、死んだ!

 恥ずかしいよぉ。


 さらに笑いは増す。


 みんなの視線がこちらに向けられた。


 ああああ──っ!


 どんどんと目の前が涙で染まっていく。

 前がぼやけていく。


 うううう──っ。


 ふと、小声で隣の席から。


「大丈夫、白宮さん」

「え……?」


 士郎くんが席を立ち上がり、先生に向かって。


「めっちゃお腹空いたぁ〜。ママ……じゃなくて先生、うんこ〜!」

「ママじゃないし先生はうんこじゃありません!」

「はぁ……!!」


 顔を真っ赤に染める士郎くん。


「お前、お母さんのことママ呼びかよ〜!」

「うんこ星人だぁ〜」

「シローお前、お腹だけじゃなくてオナラもかよ〜!」


 などと男子からからかわれる士郎くん。


 キュン……。


「うるせぇ、行ってきます」と教室から去っていく士郎くん。


 こんなことされて惚れない人なんているはずない。

 たかが隣だけの関係の女の子にここまで自分の身を削るなんて。

 

 士郎くん優しすぎるよぉ。


「あ、ありがとう……!」とトイレから帰ってくると私は改めて士郎くんに言う。


 そして士郎が返してきた言葉に私は完全に堕ちてしまったのだ。


「いや、感謝はこっちこっち。マジでうんこ行きたかったから」


 私も馬鹿ではない、これが嘘なことぐらいわかった。


 かっこいい。

 もしかして私のことが好きだったりするのかな?


 期待を持っていた。

 いつか告白されるものかと思っていた。


 だが、そのまま席替えで離れ離れになり三年生になってからは同じクラスになることは無くなった。

 

 中学二年生の時だった。


 彼が霧島紗倉と付き合っていることを知ったのは。


 え……?


 さすがに今では私のことが好きだったとは思っていないが当時の私は本気でそう信じていた。

 ショックが大きすぎた。


「私じゃなかった……」


 一人で勘違いをしていた自分が恥ずかしいと思っ

た。

 こんな形で初恋、終わっちゃうの……?


 それでも私は諦めずに彼と同じ高校に行くために元々勉強は得意じゃないけど頑張って合格した。

 でも霧島紗倉も合格していた。

 だからさらに落ち込んだ。

 大体は卒業と同時に中学のカップルなんて破滅するものだ。

 けれど同じ高校に行くのなら……。



『ずっと前から好きでした! 俺と付き合ってください! オッケーなら明日、放課後、屋上に来てください』



 だからはじめ、このメッセージを見た時、目を疑った。


 ほら、やっぱり私のこと好きじゃん♪


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