Side:西園寺美香
きっかけはいつだったか。
そんなの忘れるはずがない。
高校一年生の夏の日のこと。
……おっも。
当番で一人、数学の宿題であるプリントを持ち職員室にいる数学の先生の元へと運んでいる時のことだった。
「えーっと……斎藤さん?」
ふと背後から声をかけられたのだ。
って……!
あたしはすぐに後ろを振り向き。
「西・園・寺!! だれが斎藤さんよ!!」
「ごめん、間違えた。斎藤さん」
「だから、西園寺よ!!」
なんなのこの男は……。
ムカつく。
ニニニと睨みつける。
同じクラスではないのは確かだ。
「ごめんごめん、西園寺さん。重そうだからさ、半分持つよ」
「いいわ、このくらい一人で……」
無視無視、こういう男は大抵ここから何かしらきっかけを作ろうとするゲス人間だ。
自分でいうのもちょっとと思うけど、あたしは美少女だ。
だからすぐにこうやって男が湧く。
あたしは歩きはじめたその時だった──。
「キャっ!!」
数学の宿題プリントたちがバランスを崩し……床に散らばったと同時にあたしまで転んでしまった。
幸いにも廊下には人はこの男だけだ。
けれど……めちゃくちゃ恥ずかしい。
頬を真っ赤に耳を熱くなった状態であたしはその男を睨むと、その男の頬が真っ赤に染まっていた。
「何よ!?」
なんでこの男が恥ずかしがるの?
恥ずかしいのはあたしだけのはず……。
「いや、スカート……」
「ん……カアアア──っ!」
スカートを見ると、見事にめくれていた。
チラリと黒色のパンツが……。
あたしはその男の脛を思いっきり蹴った。
「死ねえええええええ──っ!!」
「ぐぇ……?」
男は後ろ向きに倒れ、頭を床に打ち付ける。
少しやりすぎちゃったかしら……。
い、いや、このくらい当然よ!
「いたたた──っ!? なっ、何するんだ!」
上半身をあげ、こちらを泣き目で睨みつける男。
多分あたしも泣き目だっただろうが、睨み返した。
「べー!!」
これがあたしと彼──春山士郎との出会いだった。
本当に今思い返しても最悪な出会いだった。
○
「えーっ!? あのシローが彼氏っ!?」
「ちょっ、うるさいってミッカ!」とあたしの口を手で押さえる紗倉。
昼休み、学食で高校から知り合った同じクラスの霧島紗倉とご飯を食べていると紗倉からそうカミングアウトされたのだ。
シローとはあの時以降、一度も話してはいない。
なのに何故か彼のことが忘れられない。
当たり前かもしれない。
あんなことがあったのだから。
それに、彼を想えば想うほど心臓がギュッと押さえつけられて苦しくなる。
何故だろう……?
「ミッカの話聞いたけど、士郎はそんな変態じゃありません!」
「あたしのパンツを覗いてきたのよ!?」
確かにあれはあたしも悪かった。
今頃だけど謝るべきなのだろうか。
それにしても……。
なんでこんなに悲しい想いをしてしまうのか。
「まあ……私からあとで一発拳骨を入れておきます」
ニコリと微笑む紗倉。
「そ、そうしてちょうだい!」
「はい、ミッカ様!!」
○
次の日の朝──。
「おい、美香……紗倉に変なこと言ったろ? おかげで朝から拳骨喰らったぞ?」
偶然靴箱でシローと紗倉と会った。
「だって、ミッカに変なことしたんでしょ!?」
「変なことって……あれはたまたまだ! なあ、美香!」
「べーだ、あんなに鼻血垂らして下半身大きくしてた癖に何がたまたまよ」
意地悪だけど、このくらいしなきゃスッキリしない。
「は!? 何言ってんだ」
「士郎……? それ本当?」
「い、いやちが──なあ、美香!」
あたしはシローを無視して上靴へと履き替え、教室へと向かう。
あ、そうそう。
一度、シローへと振り向いて。
あっかんべーとした後に再度教室に向かった。
「ふふふっ、ざまあみろ!!」
ボソリとそう呟く。
嘘……やっぱりこの気持ちって……恋?
シローとちょっと話しただけなのにこんなに気持ちがいいだなんて。
なんなのもう!
しゅきすぎる!!
でも彼には霧島紗倉という彼女がいる。
諦めるしかない恋だ。
諦めた。
でもそんなある日のことだった。
『ずっと前から好きでした! 俺と付き合ってください! オッケーなら明日、放課後、屋上に来てください』
シローからメッセージが来ていた。
あああ、ダメだ。
しゅきすぎる!
あたしはりんごのように顔を真っ赤に染めた。
きっと恋なんてこんな些細なことから起こるんだ。
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