Side:神崎絵梨花

 きっかけは中学二年生の冬頃のことだった。


 初めはただのクラスメイト、その程度の人としか思っていなかった。

 だってこれといって何もなくて普通だし。

 私はというと自分で言うのはすごく恥ずかしいけど結構モテていた自信がある。

 いや過去形ではなく現在進行形でモテている自信がある。

 告白なんて毎日のようにあるレベルにだ。

 でも私は誰かと付き合う、というかそもそも異性を好きになる感覚に堕ちたことがない。

 理由はわからない、不思議だ。


 今日もまた私は告白された。


 ……寒い。


「神崎ちゃん、俺と付き合ってくれ!」


 相手はガタイのいい茶色く焼けた有名な不良の先輩だった。

 

 一度も喋ったこともないのに馴れ馴れしくちゃん読み……。

 わざわざ体育館裏じゃなく、そもそも直接じゃなくてトークアプリで告白してくれればよかったのに。

 こっちは寒いのに。


「ご、ごめん……なさい」


 少し申し訳なさそうに言う。

 本当は別にそんなこと思ってはいない。

 こっちの方がすぐに諦めてくれるのだ。


 早く帰りたい……。


「私、他に好きな人が……」


 ちっ、と舌打ちが聞こえた。


 怒らせてしまった。


 私は慌ててその場から立ち去ろうとすると。

 ガツリと手首を掴まれてしまった。


「やっ、やめてください……!」


 さすがにこんな経験は初めてだった。


 助けて。

 誰か……。


「本当はあまりこういうことしたくはなかったけど仕方ねえよな。こっちは受験勉強で疲れててお前のおまんこで癒してもらおうと思ったのによぉ」


 ……!


 やばい。

 噂以上にとんでもないやつの相手をしてしまったみたい。


「大丈夫、俺のデカいしテクニックにも自信あるから。一回すれば俺を好きになるからよぉ、ゴムはねえけど外に出せばいいよなぁあ?」


 身体が恐怖で震えている。

 喉に何かがふさがって声が出ない。


「た、たす、け……」


 誰か。

 なんでこういうタイミングに限って誰もいないの!?


 男は私の口に人差し指と中指を突っ込んだ。

 喉ちんこに触れた。


「ふげ……」


 私はその場で嘔吐した。

 その体液は男のズボンにかかった。


「あーあ、人のズボンを汚しやがって。たっぷりご奉仕してもらわなきゃな!」


 男は指を離す。


 ゲホゲホとむせる。


 気持ち悪い。


 そして私の口にガムテープが巻かれた。


「おいおいたまんねぇな、その目! ああ、興奮してきたぁ〜」


 男は私の両腕を右手で掴み、片手でかちゃかちゃとベルトを外し下半身を出す。


 いや……。


 ポロポロと涙が溢れてきた。


「タイツもたまんねえぜ」


 男は私のブレザーをボタンを引きちぎり開け、さらにワイシャツまでもボタンを引きちぎり開けた。


「ほほ、たわわすぎだろ! つーか下着えっろ!」


 そのまま次はスカートを引っ張った。


「タイツから見えるパンツ……えっろ! この誰かに見つかるかもってスリルの中するの……想像するだけで気持ちいい!」

 

 なんで私はいちいち来てしまったのだろうか。

 ラブレターなんて捨ててしまえばよかったのに。

 私の悪い癖だ。

 告白されたら、しっかり無視しないで振る。

 そうすることで少しでも相手の気持ちを和らげられると思うから。


 ビリビリとタイツが破れる音がした。


 いや、いや、いや──っ。

 誰か、誰か。


「よーしいとしの神崎ちゃん。一つになろうぜ〜、下半身が寒がってるからよぉ〜」

「──────!!」


 声が出ない。

 それでも叫ぶ。

 喉が焼けるように痛くなろうとも。


「これはレイプじゃねえ、喧嘩だ。だからなんも悪くねえ!!」


 頭のネジが飛んでいる。

 こんなやつ人間じゃない……!

 そんなやつと初めてなんて……死んでも嫌だ。


 ──誰か助けて──────。


 と、その時だった。


「んふ……!」


 その場に男が倒れ、股間を押さえている。


「え……?」


 目の前に一人の男が立っていた。

 ──それが春山士郎だった。

 士郎は私を恥ずかしそうに見て、ブレザーを脱ぎ私に投げる。


「き、着ろよ……」

「あ、ありがとう……」


 ヒーローだ。

 私のヒーローだ。


「お前のそれ使えなくしてやるよおおお!」


 その後、士郎は男の股間を何十回も叩き続けた。

 男はそのうちに泡を吐いてぶっ倒れた。

 その男を士郎はスマホを取り出し撮影する。


「……大丈夫か?」

「う、うん……」

「こいつが神崎さんを襲ってるの写真撮っておいたから。後は先生に言うとしよう、多分俺も謹慎を喰らいそうだけど」と笑いながら言う。


 この時だった。

 私が初めての恋──初恋をしたのは。


 しゅしゅしゅしゅしゅき──っ♡。

 かっ、かっよしゅぎ。


 でも彼には女がいたその彼女は学年一の美少女と言われている霧島紗倉だった。

 だから初めて。



『ずっと前から好きでした! 俺と付き合ってください! オッケーなら明日、放課後、屋上に来てください』



 と見た時は愛で死にかけてしまった。


「そっかぁ〜ふ〜ん、士郎。私のこと好きなんだぁ〜!」


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