心を癒す五人の美少女
「士郎、それでこれは……!」
絵梨花が腕を組みながらそう言う。
現在、俺は五人の美少女の前で正座をしている。
非常に情けない。
「士郎さん? 士郎さんは私のことが好きなんじゃ」
「そ、そんなはずないじゃない! シローはあたしなの! そ、そっちがその気ならあたしと付き合うの……許可するわ!」
ダメだ。
一度現実だと受け止めたが、やはりこれは夢なのではないのだろうか。
……本当に脳がイカれてるんだな、やっぱり死のうか……。
「ななっ、わ、私……春山くんはわ、私のことが好きなんですよね?」
「いやいや私だから。ねー、しーくん?」
そうだ、死のう。
こんな気持ち悪い妄想するんじゃあ、この子たちに申し訳ない。
「ははは、夢だよな……? こんなことありえないもんな!」
少しだけでも期待してしまった自分が恥ずかしい。
何が修羅場なんだ。
何がモテ期なんだ。
俺がこんなモテるはずがない。
QEDこれは夢。
こんな気持ち悪い夢、早く覚めてくれないかな。
……ここで死ねば目が覚めるよな。
俺は立ち上がる。
周りが何か言っているが聞こえない。
フェンスを跨ろうとしたその時だった──。
右手の指一本一本にギュッと強く握られた感触がした。
「なっ、何しようとしてるの!?」
「士郎さん?」
「ちょっと、何してるのよ!!」
「や、やめてください……!」
「しっ、死なないで!」
後ろを振り向くとそこには涙を堪えている五人の美少女の姿が。
彼女たちが俺の指を掴んでいたのだ。
……夢だもんな。
変な期待をするな俺。
「士郎さん……顔色悪いですよ。……私たちに何が起こり士郎さんの身に何が起こっているのか教えてください」
上目遣いでそう言う玲奈。
どうせ夢なのだ。
人に伝えて少しでも心を軽くするとしよう。
「わかった……」
俺は紗倉に浮気されたこと、そしてそれをきっかけに自殺を決意したこと。
今みんなを呼んだ理由について話した。
わんわんとまるで自分のことのように涙を流す五人の美少女。
「士郎にそんなことがあああ……!」
「士郎さん……私、紗倉さんのことが憎いです」
「シローのことを傷つけて最低なやろうめえええ……!」
「春山さん、大丈夫ですかあああ……!」
「うわ〜ん!」
くそ……我慢してたのに。
ポロポロと涙が溢れ出す。
止まれ、止まれ、止まれ、止まれ──!
心がポカポカとする。
昨日ズッポリと空いてしまった穴が彼女たちによって埋まっていく。
そんな感覚に陥った。
情けない、女の子の前で顔がぐちゃぐちゃになるほど泣いてしまうとは。
何より自分のことのように受け止めてくれる彼女たちが心を癒してくれた。
それほど俺のことを好きだと思ってくれているのだと知った。
そして彼女たちの口から、これが夢ではない、のだと告げれた。
信じられない。
けれど身体も痛いし。
もうこれが夢だろうが関係ない。
現実だ!
六時を迎えようとしている、オレンジ色の夕日が輝く時間になり俺たちは泣き止んだ。
死ぬなんてやめよう。
今日、彼女たちに救われた。
まだ生きていけるパワーをもらった。
紗倉がいなくてももう大丈夫だ。
こそこそと五人の美少女は丸くなり話す。
「──」
「仕方ないです……」
「しょ、しょうがないわね!」
「は、春山くんの心を少しでも、か、軽くできるのなら!」
「賛成〜! しーくんのために頑張ります!」
俺のために何か話してくれているのだということがわかった。
それは一体なんなのだろうか。
五人の美少女がこちらを見る。
「なんだよ」
「私たちで士郎の心を癒してあげる」と絵梨花。
「そういうことです、私たちはみんな士郎さんのことを愛してますので」
「かっ、勘違いしないでよね! 人助けなんだから。あと、あたしが一番あ、愛しるんだから!」
「そ、そそそ、そういうことですから……よ、よよよろしくお願いします」
「しーくんのことは私が一番愛してるよぉ〜!」
とんでもないことになってしまった。
まさかこんなことになるなんて想像もしていなかった。
ああ、ダメだ。
せっかく止んだのにまた……。
「あ"り"がどう"……!!」
がしかしだった。
修羅場だという事実は何も変わらなかった。
「さて……誰が士郎と付き合うの?」
「私しかいません、ね、士郎さん」
「はぁ? このあたしに決まってるでしょ!」
「わわわ、私です」
「ううん、しーくんは私だもんね〜!」
……。
「付き合うのは取り消しにしてください!」
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