第5話 優梨からのプレゼント

 夕方になった。空はすっかり夕焼け色に染まっており、俺達二人は帰路に就いていた。


「今日は楽しかったわ」

「うん。俺もだよ」

「でも、まさか陽向くんから遊びに行こうって誘ってくるとは思わなかったわ」

「いや、だって、いつも君には助けられてばかりだし、たまには恩返ししたいと思って」

「そんな……気にしなくて良いのに」

「いや、本当に感謝しているんだよ。君がいなかったら俺はきっとここにいないから」

「大袈裟ねぇ。私は当たり前のことをしただけなのに」

「それでも、ありがとう」


 俺は改めて頭を下げて礼を言う。


「もう……分かったから。そんなにかしこまらないでよ。私も恥ずかしくなるじゃないの」

「ごめん、つい……」


 優梨は困ったような笑顔を浮かべている。

 そして、俺は少し立ち止まって考える。

 俺は彼女に救われてきた。その事実は変わらない。しかし、俺はまだ何も返せていない。それが歯痒くて仕方がない。もっと何かしてあげられないかと思うのだ。

だが、今はそんなことを考えても無駄だ。今できることと言えば……。

 俺は右手の拳を突き出した。


「え? 何これ」


 優梨は首を傾げている。


「握手みたいなものかな」

「なんで急に?」

「……これからもよろしくという意味を込めて」

「……そう。じゃあ私からも。こちらこそよろしく」


 優梨も同じようにしてくれた。

 優梨の手は柔らかくて温かかった。


「ところで、明日は何の日か知ってる?」

「えっと……」


 俺は少し考えて答えを出す。


「祝日で学校が休みとかでもないし、確か……二月十四日でしょ?」

「正解。さすがね」

「まぁね」

「で、何があるかというと……」


 優梨はカバンの中から小さな包みを取り出した。


「はい、バレンタインチョコ。一足早いけど今日のデートのお礼に陽向くんにあげるわ」

「おぉ……、ありがとう。すごく嬉しい。ありがたく頂戴します」

「どういたしまして」

「開けてみても良い?」

「もちろん」


 包みを開けると、ハート型のチョコレートが入っていた。表面は艶があり、見るだけで美味しさを感じる。


「うわ、すごい綺麗だね。食べるの勿体ないくらい」

「味は保証するわ。私が丹精込めて作ったんだから」

「へぇ、そうなのか。なんか申し訳ないなぁ」

「大丈夫よ。材料費と私の愛情しかかかってないし」

「そっか。じゃあ、遠慮なくいただきます」


 俺は一口サイズに割って口に運ぶ。甘すぎず苦すぎず、絶妙なバランスである。舌触りも滑らかであり、とても食べやすい。


「おいしいよ。ありがとう」

「良かったぁ」

「ほんとにうまいよ」

「そう言ってくれるなら嬉しいなぁ」

「また、作ってくれる?」

「うん、また来年ね」

「楽しみにしてるよ」

「ふふっ」

「ん?」

「いや、何でもないわ」

「何それ」


 俺は笑みをこぼす。優梨も微笑んでいた。

 そうこうしているうちに、いつの間にか彼女の家の方と別れる道まで来ていた。


「じゃあ、今日はここで。本当にありがとう。すごく楽しかった」

「こちらこそ。俺も楽しかったよ」

「じゃあ、また学校でね」

「ああ、またね」

「気を付けて帰ってね」

「分かってるよ」

「この前みたいに変な人に絡まれないように」

「はい、了解です!」

「じゃあね」


 優梨は手を振りながら去って行った。

 俺は彼女の姿が見えなくなると、大きく深呼吸をした。


「優梨は俺が探偵に絡まれたのを知っている……? まさかな」


 きっとそれより前の不良とかに絡まれた時の事を言っているのだろう。事件の事で彼女を疑うなんてどうかしている。きっと考えすぎているのだ。


「せっかくの楽しいデートだったんだしな。俺はもっと楽しんでいかないと」


 その方がルリも喜ぶだろう。

 そして、俺は自宅へと向かって走り出すのだった。

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