第4話 優梨とのデート

 家に帰る途中、俺はスマホを取り出して電話をかける。……相手は幼馴染の優梨だ。彼女はすぐに出てくれた。


『もしもし、陽向くん?』

「うん。今、大丈夫かな?」

『ええ、平気よ』

「良かった。それで、いきなりなんだけど、明後日って空いてたりする?」

『えっと、明日は学校があるけど、明後日なら予定は無いわ』

「そうか。それじゃあさ、どこか遊びに行かない?」

『……急ね。でも、たまにはそういうのも良いかもね』

「本当か! 嬉しいよ!」

『ちょ、ちょっと声が大きいわ。恥ずかしいじゃないの!』

「あっ、ごめん」

『もう……とりあえず、また連絡するわ』

「分かった。待ってるよ」


 俺は電話を切る。するとすぐに、メッセージアプリの通知音が鳴った。


『約束したからね。ちゃんと覚えてるよね? 楽しみにしてるから』


 そのメッセージを眺めているうちに、自然と笑みがこぼれてきた。

 俺は怪しまれている。でも、優梨がいればカムフラージュになるかもしれない。

 現場になった月見野高校にはしばらく近づかない方がいいだろう。

 今は町に出て外の情報を集めたかった。

 ……そして、いよいよ待ちに待った土曜日を迎えた。




 今日は朝から雲一つ無い快晴で、気温もかなり高い。絶好のお出かけ日和と言えるだろう。

 俺は午前九時に駅前で優梨を待つことにした。

 優梨とは、昨日の夜に電話で話しており、現地集合することになったのだ。

 俺が到着した時刻は、まだ八時半だった。

 しかし、既に人混みが出来ており、賑やかな雰囲気が漂っている。今日は土曜日ということもあり、家族連れも多いようだ。

 俺はそんな光景を見て、つい微笑んでしまう。


「お待たせ」


 不意に後ろから声を掛けられる。振り返ると、そこには私服姿の優梨がいた。

 上は白のブラウスに青のスカートを合わせており、靴は黒を基調としたヒールを履いている。……いつも制服姿で会うことが多いので、新鮮な感じがする。


「おはよう」

「ああ、おはよう」

「どう? 今日の格好は?」

「似合ってると思うよ。可愛いし」

「そ、そう……。ありがと」


 優梨は少し照れたように顔を背ける。


「……で、どこ行くんだ?」

「まずは映画を見に行きましょう。それからショッピングして、ランチを食べて……」

「なるほどね。了解」


 俺達は映画館に向かって歩き出す。……というわけで、デートが始まった。

 俺達が見に行ったのは恋愛モノの映画だ。

 正直言って、普段あまりこういうものは見ないのだが、せっかくなので見てみることにする。

 ルリに話してやれば喜ぶかもしれない。

 内容は、一人の男性が恋に落ち、様々な困難を乗り越えて結ばれるという話である。

 序盤はラブコメ調の展開だったが、中盤からは感動的なシーンもあり、思わず涙が出そうになった。隣を見ると、優梨も同様に涙を流していた。……それにしても、こんな純愛系を見るなんて、意外にも女の子らしいところもあるじゃないかと思った。




 映画を見た後は、予定通りに街をぶらつく。

 アパレルショップではお互いのファッションセンスについて語り合ったり、カフェに入ってお茶をしたりしながら楽しく過ごした。

 昼食は二人でイタリアンレストランに入った。料理が運ばれてくるまでの間、俺はふと疑問を口にする。


「そういえばさ、この前会った時と服装が違う気がするんだけど?」

「あぁ……あれね」


 優梨はバツが悪そうな表情を見せる。


「実はあの日、学校に行く予定だったのよ。だから軽めの服を着て行ったの」

「そうだったのか」

「まぁ、今日はあなたとのデートだし、気合を入れたかったの」

「な、なんか……嬉しいこと言ってくれるね」

「何よ、それ。別に深い意味は無いわ」

「でもさ、わざわざ気合を入れてくれたってことは、それだけ楽しみにしてくれてたということでしょ?」

「それはそうだけど……、変なこと言わせないで!」

「痛っ! 殴ることはないじゃん」

「うるさい」

「……じゃあさ、今度は制服でデートしようよ。もちろん学校から。それでさ、放課後とか一緒に寄り道して帰ろうよ。いい?」

「……分かったわよ。その代わり、変なところに連れていかないでよ?」

「分かってるよ。約束する」


 俺が小指を差し出すと、優梨はため息を吐きながら同じように差し出し、絡めてきた。


「じゃあ、次行きましょうか」

「そうだな」


 それからも優梨を連れていろいろと見て回った。そうしながら俺は町の様子をそれとなく伺っていたが、何か事件に向けていろいろと動いているようなそんな気配は感じられなかった。


「何か考えてる?」

「いや、何も。次はどこへ行こうかなってそれぐらいだよ」

「じゃあ、あそこに行こうよ。ほら、早く」

「ちょっと待てよ」


 こうして、楽しい時間はあっと言う間に過ぎていった。

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