第3話 警察の取り調べ
「それで、話とは?」
現場の近くに設置された面談室のような場所に連れて来られた俺は、目の前の男性に尋ねる。
すると、彼は大きく深呼吸をした。
「単刀直入に聞こう。君は何者だい?」
「何者かと言われても……普通の高校生ですと答えるべきなんでしょうね」
「普通ねぇ……」
俺の言葉を聞いて、男は意味ありげな笑みを浮かべる。
どう考えても信じていない顔だ。
「君はもしかして名探偵なのかな?」
「そういうわけではないですが……強いて言えば、月見野高校の関係者でしょうか」
「ほぅ……では、あの事件について知っているのかね?」
「えっと……その件については知らないです」
俺は巻き込まれただけで本当に何も知らない。情報を知りたいのはこちらの方なのだ。
俺が正直に答えた後、彼は小さくため息を吐いた。
「そうか……ならば、昨日の事件については何も知らないと?」
「はい。全く知りません」
「なるほど……だが、無関係という訳では無さそうだね」
「どういう意味でしょう?」
「君は先程、僕が『あの事件』と言っただけで答えた。つまり何かしらの事件を知っていた事になる」
「それは……たまたま口に出ただけですよ」
「ふむ……まあいいだろう。ところで、どうしてあんな場所に居たんだい?」
「友人に会いに行く途中で偶然集まっているのを見かけたので寄ってみたんです。何かあったんじゃないかと思って」
「友人? 名前は?」
「言えません。プライバシーに関わる事ですから」
「……分かった。それなら仕方ないね」
「ありがとうございます」
「いや、こちらこそ時間を取らせて悪かった。今日は帰りなさい」
「はい。では、またいずれ」
俺は笑顔で挨拶をして立ち上がる。そして部屋を出た。……が、そこで俺は思わず足を止めた。
なぜなら廊下に女性が立っていたからだ。
歳は二十代前半くらいだろうか。
髪の色は茶色く、身長は百六十センチ程度。
見た目は美人というよりは可愛い系。服装は紺色のスーツを着ており、手には鞄を持っている。
彼女は俺の姿を見ると、静かに近づいてきた。
「こんにちは。月見野高校の方ですよね? 実は私、警察の者でして……少しよろしいですか?」
女性は警察手帳を見せながら話しかけてくる。……なるほど。どうやらこの人は刑事さんらしい。
では、先ほどの人は誰だろうか。まさか探偵か?
振り返ってみるとそこにはもう誰もいなかった。どうやら俺は一杯食わされたらしい。
だが、これ以上面倒事になるのは嫌なので、俺は何も気にしない風にしれっと答えた。
「はい。構いませんよ」
「そう。良かったわ。えっと……まずは名前を聞かせてもらってもいいかしら?」
『名乗るほどのものではありません』
……などとかっこよく言える身分になりたい。明かしていいものか。
そんな事を考えていると、何故か彼女の表情が険しくなった。
「……名前を教えてもらえるかしら?」
「すみません。事情があって言えないんです」
「……はぁ、困った子ね」
「ごめんなさい」
素直に謝ると彼女はそれは本筋ではないとばかりに話を切り替えた。刑事だけあって頭の回る人のようだ。
「まぁいいわ。それより、いくつか質問しても構わない?」
「はい。俺に分かる範囲であれば何でもどうぞ」
「じゃあ、早速だけど……あなたはどうしてここに居るの? ここは一般人は立ち入り禁止よ」
「えっと……親の仕事の関係で来たんです」
探偵に連れてこられたと言う訳にもいくまい。彼の正体など知らないし、それでは俺の方が怪しまれてしまう。
あの探偵のように何も情報を与えずにサッと消えるのが一番の得策なのだ。
俺は話をはぐらかすように持っていく。相手が諦めるまで。
「仕事? どんな仕事をしているのか教えてくれる?」
「いえ、仕事内容は俺も知らないのですが……何か調べたい事があって来たみたいです」
「……そうなのね。ちなみに何を調べるつもりだったの?」
「それは……」
どうしよう。ここで本当のことを話すべきだろうか。……いや、止めておこう。
下手に情報を与えると後々面倒なことになりそうだ。
俺を事件に巻き込んだ奴の正体も分かっていないのに、あまり自分が嗅ぎまわっている事を世間に知られたくはない。
「……ちょっと気になることがあったので、確認に来ただけです」
「気になること?」
「はい。まぁ、大したことではないのですが……それよりも、あなたはどうしてここに?」
「私は事件の捜査をしているの。それで聞き込みをしていたんだけど、ちょうど良い所に貴方がいたから声を掛けたのよ」
「へぇ……ちなみに、その事件はどのようなものなんですか?」
俺が質問をすると、女性は大きくため息を吐いた。
「詳しい話は出来ないわ。これは機密事項だから」
「そう……ですか」
……どうやら、あまり深く関わらない方が良さそうだ。
事件は自分で調べればいい。他人の力は借りない。
俺は心の中で呟きつつ、話題を変える。
「ところで、今は何時でしょうか?」
「えっ? ああ、今は五時半過ぎね」
「分かりました。もう遅くなるのでこれで失礼します」
俺は頭を下げると、足早に立ち去った。
帰宅を急ぐただの高校生を引き留める事を警察はしなかった。
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