第2話 学校の事件

「ふぅ……何とか間に合ったみたいだな」


 高校生の俺はどんな事件が起きようと休校にならない限り学校に行かなければならない。それが学生というものだ。

 ルリは別れたくなさそうな顔をしていたが仕方がない。俺は彼女に束の間の別れを告げて世話を親に任せ、家を出てダッシュして教室に入った。

 チャイムは鳴ったが先生はまだ来ていない。ギリギリセーフといったところだろうか。

 とりあえず席に着く。……しかし、本当に昨日はいろいろあったな。

 謎の人物に呼び出された学校で事件に巻き込まれてルリと出会った。

 あの時は緊張していて気が付かなかったけど、改めて思いだしてみるとルリって凄く可愛いんじゃないだろうか。

 何より素直で控えめだしおっぱいも子供ながらに思ったより大きい。…………ハッ!? ち、違うぞ!? 変な意味じゃないからな!!  あくまでも一般的な感想であって、やましい気持ちなんて無いからな!?  誰に向かって言い訳してるのか自分でもよく分からないけど、とにかく落ち着こう。

 深呼吸をして心を静める。


 よし、落ち着いた。これで問題ないだろう。

 俺がそんな事を考えていると、ガラリと扉を開ける音が聞こえてきた。

 どうやら先生が来たようだ。……ん? 何かいつもと雰囲気が違うような……気のせいか? 違和感を覚えたものの特に気にする事もなく授業が始まる。……そして、数時間後。俺は全ての授業を終えた。

 ふう、これでやっとルリに会える。

 帰り支度を整えていると、不意に声をかけられた。


「ねぇ、天川君。ちょっといいかしら?」


 声の主は担任の女性教師だった。

 彼女はニコニコしながら近づいてくる。


「はい、どうかしましたか?」

「今日はもう帰るだけ?」

「そうですね」

「良かったわ。実はこの後用事があるんだけど、手伝ってくれないかしら?」

「ええ!?」


 手伝いって一体何を手伝えばいいんだ?  疑問に思いながら首を傾げる。


「えっと……どんな内容でしょうか?」

「そうね……簡単に言えば荷物運びかな」


 ……なるほど。要するに雑用の類いか。父さんと同じ仕事だな。違うのは俺は手伝っても報酬はもらえないということか。


「すみません。今日は予定があるので無理です」


 俺が断ると、彼女は少しだけ悲しそうな顔をする。

 だけどすぐに笑みを浮かべると、小さくため息を吐いた。


「そっか……残念ね」

「はい。すみません」

「いえ、いいのよ。こっちこそ急に誘ってごめんなさい」

「いえ、こちらこそ力になれなくて申し訳ありません」

「いいのいいの。それじゃあ、また明日ね」

「はい。さような……ら!?」


 挨拶を交わした後、俺は足早に立ち去ろうとして気が付いた。

 彼女の持っている荷物に月見野高校の文字があった気がしたのだ。

 それは何か事件に関係がある物なのだろうか。気になったが、今更呼び止めるのも怪しまれるだろう。

 ルリの為にも俺は事件の関係者だと知られたくはなかった。それよりももう一度現場を確認しておくべきだろう。

 俺は校門を出ると、すぐに走り出した。

 目的地はもちろん事件の起こったあの『月見野高校』である。




 俺を携帯で呼び出した奴の正体は分かっていない。あれから連絡も来ない。

 一夜明けて現場はどうなっているのか気になった。

 あの時は気が動転していてよく分からなかったが、じっくり調べれば何か分かる事もあるかもしれない。

 しばらく走ると、ようやく校舎が見えてくる。

 ……が、様子がおかしい。何故なら正門の前に大勢の人が集まっていたからだ。

 これはまさか……。嫌な予感がしながらも、俺はその集団に近付く。

 すると、やはりというべきか……そこには数人の警察官の姿があった。


「うわぁ……やっぱり警察が来ているのか……」


 俺は思わず頭を抱える。

 昨日の出来事を考えれば当然の結果ではあるのだが……。

 まぁ、今は悩んでいても仕方がない。

 とりあえず事情を聞く為に人混みの後ろへと移動する。

 すると、突然誰かに肩を掴まれた。


「ちょっといいかな?」

「はい?」


 振り向くと、そこに居たのはスーツを着た男性だった。

 年齢は二十代前半くらいに見える。

 見た目から察するに刑事だろう。


「君はこの学校の生徒かい?」

「いえ、違いますけど。どうかしたんですか?」

「いや、ちょっと気になってね。それより、どうして他校の生徒がこんな所に居るんだ?」

「それは……ちょっと調べたい事があって来たんですよ。でも、これだと中に入れなさそうだな……」


 俺は苦笑いをしながら答える。


「ああ、そういうことか。確かに君の言う通りだ。今はまだ規制線が張られているから入れないよ」

「そうなんですか。困ったな……これじゃあ中を調べられない」

「…………君は何を調べるつもりなんだい?」

「えっ? あー、ちょっと気になることがあったので確認しに来ただけです」

「気になること?」

「はい。まぁ、大したことではないのですが……それよりも、あなたはどうしてここに?」


 俺が質問を返すと、彼は一瞬だけ眉根を寄せた。


「私かい? 私は仕事だよ」

「お巡りさんの仕事ですか?」

「まぁ、そんな所だね」

「へぇ……ちなみに、何を調べているんですか?」

「……君は何を知りたいんだい?」

「いや、別に。ただ興味があるだけです」


 俺の言葉を聞いた途端、男性は目つきを変えた。

 明らかに警戒している様子だ。俺は早くこの場を離れた方がいいと判断する。


「えっと……入れないなら仕方ありませんね。失礼します。またいつか機会があれば話しましょう」


 それだけ言って立ち去ろうとする。……が、しかし――


「待て!!」


 男性の鋭い声が響く。

 そして、俺の腕を掴んだ。……どうやら逃がしてくれる気は無いらしい。


「君には聞きたい事がある。だから一緒に来て貰おうか」

「……分かりました」


 俺は小さくため息を吐くと、大人しく従う事に決めた。

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