三 『魔法』

「しかし、腹が減ったな」



 加護を試し終えた俺たちはその後小一時間ほど話し込み、俺の腹が鳴ったタイミングで話を区切った。そして今は、森から出て宿と食料を確保しようと近隣の町まで移動している最中である。

 ちなみに、俺たちが今いるのは〝 エルネス王国〝という国らしい。世界の南東に位置する国だとか。

 俺はすでに姿を戻した後だ。戻るときにも身体が溶けるのには参った。痛みや恐怖心はそこまでないとはいえ、やはり自分の身体がとけていくというのは耐え難いものがある。


 

「と、森が浅くなってきたな」



 森が浅くなってゆくにつれ日差しが差し込んでくる。上を見上げると木々の間から青空が広がっているのが分かる。

 深森にいたときはわからなかったが、空から察するに現在の時刻は元の世界で言う正午になるかならないかといったところだ。

 季節は秋だろうか、半袖だと少し肌寒い。



「なあセリス」


「なんだい」



 セリスが顔についた葉っぱを手で払いながら応答する。セリスは徒歩で俺の後をついてきている。魔物だというから、てっきり翼などをはやして移動するのだと思っていたので拍子抜けだ。

 というか、歩いてついてきているところを見ると普通の人間にしか見えない。こいつ本当に魔物なのか?……見た目も普通の人間だし。



「町まではあと何分くらいかかりそうだ?もうかなりの時間歩いただろう。腹が減ってたまらんぞ」


セリスが歩みを止めてこちらを見る。


「さあ?もうすぐ着くと思うよ。……そんなに腹が空いたならこれをやろうか」


 そう言ってセリスは何もない空間から黒色の果物と思しきものを取り出した。


「……!! なんだそれは」


 セリスは手元の黒い物体に目をやり、答える。


「これはグラルって果物さね」


「違う」


「ああ、こっちかい?これは魔法さ。……空間干渉の魔法さね」


 魔法…… 俺にも使えるのだろうか。


「……魔法が使えるとかなり便利そうだが、この世界の人間なら誰でも使えるものなのか?」


「ああ、使うだけなら誰にでも使えるんじゃないかい?マサトも使えるはずさね。教えてやろうかい?」


 言いながらセリスは黒い果物を投げ渡す。


「……っと」


 ……見るからに不味そうだな、この果物。


「魔法と言っても種類があるさね。」


「ふぅるい?」


 俺は果物を頬張りながら応答する。案の定不味いし臭い。


「……ああ、魔法は主に五つの属性に分けられる。『火』『水』『風』『土』『暗黒』の五つさね。ワタシがさっき使った姿を消す魔法、そして空間に物体を保存する魔法、二つとも空間干渉という魔法の種類で、暗黒属性に分類されている。ついでに言うと、あんたを転移させた転移魔法も暗黒属性さね」



 暗黒魔法は空間などを操作する魔法ってことか……



「俺にも暗黒魔法は使えるのか?」


 セリスが思案顔で言った。


「いや、それはどうか分からないさね。……人間も魔物もそうだけどこの世に生を受けた時点で使える魔法は〝 五属性のうち一つ〝 と定められているのさ。

五属性それぞれの魔法を発動するには、火魔法なら火の元素、水の魔法なら水の元素という風にそれぞれ対応する元素を体の外から取り込んで発動する。

通常、人間の身体も魔物の身体も一つの元素にしか適応できないからね。だから一つの属性しか使えないのさ。……極稀に複数の魔法を使える〝 天才〝 なんてのもいるみたいだけど、ワタシは一人も見たことがないね。噂じゃ女神〝 サマ〝 が五属性すべての魔法を扱えるようだけど、ワタシは見たことが無いからわからないさね」



 人間でなく魔物も魔法を使える…… 加護は人間にしか持ち得ないのにか。

 通常は一つの属性しか扱えないが複数の属性を扱える天才もいる。そして、女神がその天才であると。

 しかし、セリスは女神のことがお気に召さないらしい。



「俺がどの属性に適応しているかってのはわかるのか?」


「わかるさね。どれ、ワタシが見てやろうかい?」



 言うとセリスが俺に歩み寄ってくる。そして目をつむり、俺の胸に手を当て何か呪文のようなものを唱える。



「……よ、この者の……を明かし給え」



10秒ほどたっただろうか、セリスは呪文のようなものを唱え終わり、こちらから少し距離をとる。



「どうだ?」


「マサトは…………」



 セリスが妙に溜めて言おうとしている。なんなんだ。

 いや、ワクワクしないといえばウソになるが。正直どの属性良いとかは無いのだが、強いて言うならイメージ的には火魔法、水魔法、風魔法、暗黒魔法のどれかだと嬉しいが…… 土魔法だけはダサいと思うので避けたいところだ。



「風の元素に適応してるみたいさね」


「悪くない!」


 そう叫んで俺は手を叩いた。暗黒魔法の次に良いと思っていた属性だ。


「………」


「……ンンッ!」



 しかし、風魔法か……

 俺はセリスを見ながら、問いかけた。



「風魔法ってのはどんな魔法が使えるんだ?」


 セリスは顎に手を当てて考え込むような仕草を取る。


「下級魔法だと小さなそよ風を起こしたり、くらいしか出来ないさね。下級魔法しか使えないような低級の魔法使いだと、正直他の属性にも劣るさ。但し、高級魔法使いなんかになってくると風の刃を生み出したり、自由に空を飛んだりもできるみたいだね」


 そうセリスが言い終わると同時に、顔に水滴が滴る。雨だ。


「もっと魔法について聞きたいところだが、続きは町についてからだな」


「ああ、そうしよう。ワタシは濡れるのが嫌いさね」

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