第31話 注目の準決勝

 俺はあっさりと剣術大会の決勝に駒を進めた。

 そして次の試合はもう一人の決勝進出者を決める戦いであるゼルドさま対ロノア・キャルリア。

 正直俺は自分の試合なんかより、むしろこっちの試合の方が興味があった。

 剣術技能試験の内容をもとに考えると、ゼルドさまはフェイント重視のトリッキーなスタイルで、ロノアはスピードとパワー重視のオーソドックスなスタイルだ。

 この二人がぶつかったならば、いったいどんな試合が繰り広げられるのだろうか。

 俺はそんなことを考えながらフィールドを見る。

 すでに二人は向かい合っていた。

 僅かな緊張がこの会場を包み込んでいるのを肌で感じる。


「それでは、試合開始」


 開始の合図とともに、ゼルドさまとの間合いを詰めるためにロノアはすごいスピードで動いた。

 そしてゼルドさまに向けて力をのせた重い一撃を開幕そうそう浴びせようと、思い切り剣を振るう。

 まず並の相手にはこの一撃で勝てるだろう。

 しかし当然ゼルドさまはそこら中にいる並の相手ではない。

 ゼルドさまはロノアの攻撃に対し、うまく剣を使い攻撃を防いだ。

 だがそうなることは想定通りだったのか、ロノアはすぐに次の攻撃に切り替えた。

 しかしその攻撃にゼルドさまも当然ついていく。

 そのまま二人の激しい攻防は続いていった。


 今のところは互角のように見えるが・・・・・・


 永遠に続くと思わず錯覚するほど、二人の精度の高い攻防は続いていったが、しかし徐々にその均衡は崩れていった。


 最初はロノアが攻め、ゼルドさまがその攻撃を受け止める展開が続いていったが、剣の叩き合いが続けば続くほど、その立場は逆転していき、ついにはゼルドさまが攻めに回るようになった。

 しかしそのゼルドさまの攻めが思いのほかロノアの想定以上だったのか、ロノアの動きが後手後手になっているのが今の二人の戦いを見ていて明らかだった。

 その原因になっているのはおそらく、ゼルドさまの攻撃を繰り出すスピード、パワー、そしてフェイントのキレが剣術技能試験の時に比べて明らかに上がっているからだ。

 きっと剣術技能試験からこの剣術大会までの期間に、相当な訓練を積んだのだろう。

 

 このままではやられると感じたのか、ロノアはいったんゼルドさまから距離を取った。

 それに対してゼルドさまも追うことはせず、そのまま立ち止まった。

 二人に一定の距離間が生まれたところで、ロノアが口を開いた。


「さすがはゼルド王子です。全ての動きに無駄がなく、剣の軌道も読みづらい」

「そう言ってもらえると僕も嬉しいよ。そういう君も相当な技量を持っているのを感じられる。君は一体何者なんだい?こんなに同年代にすごい人がいるというのに、これまで僕は君のことをまるで知らなかった」

 ゼルドさまは自然に会話をしつつ、ロノアに探りを入れた。

「当然です。私は王子の耳に入るようなの身分ではありませんから」

「そうか」

 しかし特にロノアの素性が分かるような情報をロノアは当然話さない。

 だがそこまでこの話を深追いするつもりはないのか、ゼルドさまは答えに納得しているような表情を見せた。

 そしてゼルドさまは続ける。

「ではそろそろ決着をつけようか。僕は君を倒し、ユーリくんに今の僕の力がどの程度通用するのか知りたいんだ」

 そうゼルドさまは口にし、あらためて剣を構える。

 おそらくさっきの攻防でロノアに勝てると確信しているのだろう。

 ゼルドさまが剣を構えている様子からは、どこか余裕が感じられた。

 だが剣をうまく扱う人種というのは、基本的に相手と一度剣を交えれば、相手の力量はおおよそ推し量ることができる。

 きっとゼルドさまのその感覚は間違っていない。

 だが……


「私を倒して、ですか。残念ですがそれは叶いません」


 ロノアは本当に心からそう思っているように呟く。

 さらにロノアを続けた。


「私はあなたを倒して、ユーリ・アルスレアを必ず倒さなければならないのですから」


 そう言った瞬間、ロノアの体の周りには紫色の闇のオーラのようなものが纏わりついていた。


「その力は、まさか……」


 ゼルドさまもその姿を見て思わず絶句した。

 しかしそんなのお構いなしに、ロノアはゼルドさまとの間合いを一瞬で詰めた。

 あまりの速さに、ビュンとロノアが通った空間には風が生み出される。

 ゼルドさまも必死に対応するが、スピードもパワーも桁違いなのは見るからに明らかだった。

 そのままロノアはゼルドさまの剣を弾き飛ばし、首筋に剣を向けた。


「勝者、ロノア・キャルリア」

 

 アナウンスとともに勝敗が決した。

 だが勝敗が決したのにもかかわらず、会場は静寂とわずかなどよめきに包まれていた。

 何も知らない生徒たちはあまりにも異常なロノアの動きを見て思わず押し黙っていた。

 一方で観戦していた騎士団の人たちはロノアが使った技を見て、

「あれはまさか・・・・・・」

「でもあの技は確かうちの団の中でも団長しか使えないんじゃ・・・・・・」

「まさか学生でしかも一年生があの技を使えるとはなあ」

 などと口ずさみ、驚きを隠せずにはいられない様子だった。

 かく言う俺も、ロノアの使った技には少なからず驚きを覚えていた。


 領域越りょういきごえ

 魔法を身に纏うことで、自分の身体能力を劇的に向上させる技。


 使えるかもとは思っていたが、まさか本当に使えるとは……

 だが俺はそんなロノアに怖気づくことなど当然なく、むしろひそかに笑みを浮かべるのだった。


「まさか彼女が領域を超えることができるとは思ってもいなかったよ。いやー参ったな」

 そう言ってゼルドさまが反笑いを浮かべながら俺のもとに来た。

「俺も驚きましたよ。まさか同年代に領域を超えることのできる剣士がいるとは」

 そう俺も素直に思ったことを口にした。

「なんだか悔しいな。ユーリくんはともかく、他にも領域を超えることができる人が学園にいたなんて」

 そう言って、珍しくゼルドさまは悔しそうな表情を浮かべていた。

「でも剣の素質としてはゼルドさまの方があると思います。ですからゼルドさまも領域を超えられるようになれば必ずロノアには勝てると思いますよ」

「そうかい。じゃあ僕もまだまだ訓練を積まないとだね。励ましてくれてありがとう、ユーリくん」

 俺は事実を言ったまでだが、ゼルドさまが嬉しそうに微笑んでいる以上、このままでもいいだろう。

「ではそろそろ俺は行きます。ゼルドさま、俺が本当の領域越がどれほどのものか見せてあげますよ。だから見ていてください。俺たちの戦いを」

「ああ、領域を超えた者同士の戦いをありがたく見させてもらうよ」

 俺は次の戦いを通してゼルドさまに伝えようと思う。

 たとえ領域を超えることができる人同士だとしても、その間にすら、圧倒的な実力差が眠っているということを。





 


 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

光と闇のユーリ 土岐なつめ @tokihuyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ