第30話 強さと年

 ゼルドさま、ロノア、そして俺の三人は一年生ながら一回戦を突破し、会場は盛り上がりを見せていた。

 だが所詮は一年生。

 観戦しているほとんどの人たちが俺たちは二回戦か、よくて三回戦までしか進まないと考えていた。

 そして今年も順当に高学年の生徒たちで優勝争いをするだろうと。

 だがその予想はことごとく俺たちが打ち砕いていった。

 俺は左下の山を、ゼルドさまは右上の山を、ロノアは右下の山を淡々と上がっていき、気づけばベスト4は六年生の先輩、俺、ゼルドさま、そしてロノアの四人になっていた。

 俺たちが勝ち進んでいくたびに、一年生たちは盛り上がりを見せるが、一方で試合を見ていた先輩たちの顔色は悪くなっていった。

 それもそうだろう。

 こんな先輩に花を持たせるために作られたような大会を一年生三人に荒らされているのだから。

 これでは先輩としての威厳などあってないようなものだ。

 だが俺はそんな先輩たちが感じている複雑な心境などに興味もなく、淡々と準決勝のバトルフィールドに立つ。

 俺の前にはベスト4に残った唯一の六年生の先輩が立っていた。


「絶対勝てよー!」

「一年なんかに好き勝手にさせるなー!」

「俺たちの力、見せてやれ!」

 

 応援席から俺の対戦相手を応援する声がたくさん聞こえてくる。

 きっと俺たち一年生とは違い、何年間も同じクラスの仲間たちで切磋琢磨してきたのだろう。

 応援を送る生徒たちの声からはプライド、意地、矜持など様々な感情が含まれていることが伝わってくる。

 その応援を受け取ったと言うように、対戦相手の先輩は剣を構えなおして俺に向き合う。

「それでは、試合開始」

 合図とともに先輩は俺との間合いをすぐに詰め、すごいスピードで連続で攻撃を仕掛けてくる。

 その攻撃からは、隙など一切与えず必ず勝つという先輩の強い意志が垣間見える。

 一回戦の対戦相手は俺のことを下に見て手を抜いてきたが、この先輩は違う。

 きちんと同じ実力を持つ相手と認識し、攻めてきている。

 それが俺には嬉しかった。

 俺はこういう試合がしたかったのだ。

 だからこそ分からせる必要がある。

 実力に年齢など関係ないということを。

 結局はただ強い人が勝ち、弱い人が負けるということを。

 力でねじ伏せるのが一番楽だが、俺はあえて先輩が自信のありそうなスピードで勝負をすることにした。

 最初は開幕に剣でラッシュを仕掛けてきた先輩が押し気味だったが、だんだんと俺の剣のスピードが上がっていった。


「ぐっ」


 このままだと逆にやられると察したのか、先輩は俺から距離を取った。

 どうやらこれまでの相手と比べると、戦いの勘もその先輩は良かった。

 今度は力重視で俺に剣を振るってきた。

 俺はその剣に押され、若干後退した。

 俺の反応を見て先輩はいけると踏んだのか、再度力を込めて俺に剣を振る。

 正直これは躱せばいいだけなのだが、俺はあえて先輩の剣を受け止める。

 だが今回はさっきとは違う。

 剣と剣が重なり動きが止まった。

 つまり力が拮抗したのだ。

 先輩はいけると踏んだからこそ攻めてきたわけだが、通用しないということが分かると、驚いて再度先輩は後退した。

 観客の先輩たちからすると、俺たちの試合は実力が拮抗しているいい試合のように見えているようで、


「いいぞー!」

「押してる、押してる」

「その調子だー!」


 などと俺の対戦相手にさらなる声援を送っている。

 だが肝心の俺の対戦相手はというと、声援をもらいまだ闘志は燃えているものの、それはあくまでも仮初めの闘志。

 もはや心が折れかけているのが対峙しているからこそ伝わってくる。

 それもそうだろう。

 自分が自信のある技をいくら繰り出しても、それ以上の力で跳ね返される。

 どんどん自分の手数だけが消えていく感覚。

 それは紛れもなく負ける人間が体験する感覚。


「うぉおおおおおーーー!!!!!」


 だが多くの声援が自分に降り注いでいることを考えると、先輩は当然立ち止まることが許されない。

 最後は雄たけびを上げながらの突進。

 見ている観客からしてみれば、その行動は頼もしく見えるかもしれないが、俺から見ればその行動はサレンダーに等しく見えた。

 俺は冷静に先輩の剣を受け止め、剣を弾き飛ばした。

 そして先輩の首に剣を指す。

 

 大盛り上がりから一変。

 会場は静寂に包まれた。


「勝者。ユーリ・アルスレア」

 

 そのアナウンスを聞いて、一年生は大盛り上がり、先輩たちはただ茫然と俺たちを見つめていた。


 俺はゼルドさまを見ると、ゼルドさまが微笑んでいるのが分かった。

 ロノアは……無表情だ。


 そして再び先輩を見る。

 顔を見れば、心が折れているが分かった。

 本当はもっと楽に倒してあげたほうが良かったのかもしれない。

 こればかりは聞こえてきた声援に先輩たちの矜持みたいなのを感じ、年齢など関係ないことを証明するために躍起になってしまった俺が悪い。

 だが願わくば、この敗北がこの人を強くしてほしいと思いながら俺はバトルフィールドを出た。

 

 それよりも俺は早く次の試合が見たかった。

 ゼルドさま対ロノア。

 一体勝つのはどちらなのか。

 俺は期待を膨らませながら、自分の持ち場に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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