第29話 開幕、剣術大会
それからあっという間に一ヵ月は過ぎ、とうとう剣術大会当日がやってきた。
さっそく俺はゼルドさまとともに、会場のトーナメント表を確認する。
「どうやら僕はユーリくんの山と反対の山のようだね」
「そうですね。当たるとしたら決勝か……」
このトーナメントには六学年それぞれから八人生徒が選出されるため、出場するのは計四十八人。
もちろん一年生はシードされないので、決勝まで行くためには五連勝する必要がある。
さらに他の学年の生徒がどの程度の実力を持っているのかは知らないが、この名門学校でさらにクラスの代表である生徒が出場してくるとなると、かなりの腕を持ち合わせているゼルドさまであっても、簡単に決勝にはたどり着くことができないだろう。
「僕は必ず決勝まで行くつもりだよ。剣術技能試験が終わってからさらに鍛え上げた自分の剣が君に通用するか試したいしね。だから君も必ず決勝まで上がってきてね」
だが俺の予想に反して、ゼルドさまは決勝に行く気満々であることを俺に伝えてきた。
「分かりました。お互い頑張りましょう」
ならば俺もゼルドさまの期待に応えるとしよう。
そうゼルドさまと言葉を交わし、俺たちはそれぞれの持ち場に戻った。
そしていよいよ一回戦第一試合のメンバーがバトルフィールドに姿を見せた。
試合は大きなドーム会場の中心で行われ、周りには学園の生徒から教師陣、さらには騎士団までもが見学に来ている。
今回の剣術大会は技能試験の時と比べて、観客の数が圧倒的に多く、プレッシャーも凄そうだ。
しかし肝心のバトルフィールドに立っている二人は特にプレッシャーを感じているような様子は見受けられない。
二人が四年生と五年生という上の学年だというのもあると思うが、この舞台に出場している以上、きっとこれまでもこういった大会に参加してきたのだろう。
そして試合が始まったが、当然剣術技能試験で見せられた同級生のひどい剣技などではなく、創意工夫が見られる面白い試合が繰り広げられていた。
結果五年生の生徒が勝利を収めていたが、双方見せ場のあるいい勝負が繰り広げられていた。
それからもこのような見応えがあり、かつお互いの実力の高さが垣間見える勝負が続き、一回戦でこのレベルであれば一年生である俺たちが優勝するのは相当厳しい大会だと言えるだろう。
だがそれはあくまでも普通の一年生であればの話だが……
「一年ユーリ・アルスレア選手、次の試合ですので準備をしてください」
とうとう俺の出番がやってきた。
どうやら俺が一学年の生徒の中で一番はじめに戦うらしい。
ならばちょうどいい。
ゼルドさまのためにも見せつけてやるとしよう。
今年の一年は一味違うということを。
バトルフィールドに向かうと、すでに俺の対戦相手がそこにはいた。
「ついてねーな。一年生でしかも魔法科のお前が四年生で剣術科の俺と一回戦から当たるなんてな」
どうやら俺の対戦相手は自分が負けるとは微塵も思ってないらしく、俺に対して同情するような態度を見せてきた。
「そうですね。でも勝敗は実際に戦ってみないと分からないですよ」
「いーや分かる。一年生と四年生じゃ剣術を鍛えてきた時間、そして他人と戦った実践経験がまるで違う。つまり現時点での俺とお前とでは実力は天と地の差ということさ」
「はあ」
どうやらこの人は学年に重きを置いて考えているらしい。
当然俺は剣術に年齢など関係ないと考えているが、こういう思い込みの激しい人種には何を言っても聞く耳をもたないため、言い返すだけ無駄だ。
それよりも手っ取り早い方法がある。
それは実力で示すことだ。
「それでは、試合開始」
試合と同時に相手は間合いを詰めてくる。
それもかなりのスピードで。
だがその動きにはフェイントのフェの文字すら浮かばないほどの単調な動きで突進してくる。
どうやら俺はこのスピードについてこれないと思われたらしい。
まったく、なめられたものだな。
俺はこれまでの試合のように少しは相手に花を持たせるような試合展開にしようと考えていたが気が変わった。
俺はかなり力を込めて相手の振りかざす剣に剣をぶつける。
「がっ!?」
その反動に相手の手が耐え切れなかったのか、相手は剣から手を放し、剣は遠くへ飛んで行ってしまった。
俺は当然その隙を見逃すはずもなく。
「終わりですよ」
そう言ってすぐに相手の首筋に剣を構えた。
「ま、参った」
相手はあまりに想像できなかった展開だったのか、まだ現実に頭がついてきてないような状態で手をあげた。
「勝者。ユーリ・アルスレア」
俺の名前が呼ばれるとともに会場が湧いた。
「すげえ、四年生を一瞬で」
「あの一年やるなー」
などと先輩や教師の声が聞こえてくる。
だが今年の一年は俺一人だけではない。
その後はゼルドさまも危なげなく一回戦を勝利し、ついでに闇魔法使いの剣術科であるロノア・キャルリアも勝利を収めていた。
他の一年生は残念ながら一回戦で敗北したものの、どうやら一年生でこれだけ一回戦突破者が出たのはここ数年では珍しいようで、教師陣や騎士団が驚きの声を上げていた。
だが驚くのはまだ早かった。
なぜならこの残った一年生たちがいかに異常なのかが分かるのはもう少し後の話だからだ。
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