第28話 陰で動く策略

 これは剣術大会の概要が発表される一日前の話。

 そのころ、バウラ・キャルレイはとある策略を始めようと動いていた。

「よく来たな、ロノア」

「はい、バウラさまのご命令とあらばすぐに参ります」

 バウラの家に呼び出されたのはロノア・キャルリアだ。

「それでこそ俺たちの家に昔から仕えてきた家系だ」

「これからも全力をもって使えさせていただきます」

 キャルリア家は昔から現代まで、ずっとキャルレイ家に仕えてきた家系だ。

 なのでロノアはバウラの声に従うということしか、選択肢を持ち合わせていない。

「さっそくだが本題に入ろう。俺はとある伝手を使い、来月のはじめ辺りから剣術大会というのが開かれるという情報を入手した。まずはその大会の概要を説明する」

 そうしてバウラは、各クラス二人がその大会に選出されることや全学年が出場することなど、入手した情報をロノアに説明していった。

「それで、私は何をすればよろしいのでしょうか。出場選手に毒でも盛ればよろしいでしょうか?」

 それを聞いてバウラは顔を横に振った。

「では私がやることというのは……」

 ロノアが困惑していると、バウラは歪んだ笑みを浮かべながら答えた。

「今回、俺は剣術大会に出場する気はない。その代わり、お前が剣術大会に出ろ。そして、ユーリ・アルスレアを叩き潰せ!俺はお前がユーリ・アルスレアを叩き潰している様子を観客席で高みの見物している」

「は、はあ」

 目立ちたがり屋なバウラの口から、剣術大会には出ないという言葉が出たことに、ロノアは驚きを隠せなかった。

 それほどまでに、バウラはユーリ・アルスレアのことが憎いのだろうか。

 だがそう思うのと同時に、この計画には不確定要素が強いのではとロノアは感じ、口を開く。

「しかしそもそもユーリ・アルスレアが剣術大会に出ないという可能性もあるのではないでしょうか?」

「いや、それは大丈夫だ。もし出る意思がなさそうに見えれば俺がなんとかしてユーリ・アルスレアが出場する流れに誘導する」

「分かりました」

 バウラがそう言うのであればと思い、ロノアは素直に頭を下げた。

「よろしい。ちなみに一応聞いておくが、お前はユーリ・アルスレアに勝てるよな?」

「ええ、もちろんです。今回の大会では攻撃はできませんが魔法の使用を許可させています。つまりが使えるということ。であれば私が負ける可能性は万に一つありません」

 ロノアは自分が思っている通りのことをそのまま口にした。

「お前がそういうのであれば問題あるまい。ああ、剣術大会が今から楽しみで仕方ないよ」

 主人あるじの歪んだ顔を見てロノアはふと思う。

 どうしてバウラはこうも卑しくなってしまったのだろうか。

 どうして私はこんな主人に仕えているのだろうか。

 どうして私はこんな主人のいる家を支える家系に、のだろうか。

 誰かこの呪縛から解き放ってはくれないだろうか。

 そうロノアは密かに願うのだった。

 

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