第25話 攫われの姫

 俺が目を離した隙に突如として現れた黒いフードを羽織った男によってメリルさまは攫われてしまい、現在俺は魔法でスピードを上げ、その男を追っていた。

 しかしその男はメリルさまを抱えているのにも関わらず、俺と同じくらいのスピードで移動しているため、そう簡単には追いつけずにいた。

 そのまま男は森の中へ入っていき、俺もなんとか見失わないように必死であとを追う。

「はぁ、このままじゃ埒が明かないな」

 俺は人を抱えた男にすら追いつけないこの体たらくっぷりに思わずため息を漏らす。

 しかし幸いにも男は俺の存在に気付いていない様子。

 ならば魔法でその男の身動きを取れなくしてしまえばいいだけの話だ。

「難しいがやるしかないか」

 だがメリルさまを避けつつ、男にだけ魔法を当てるのは簡単なことではない。

 しかも一発目を外してしまえば、俺の存在を認知されてしまい、警戒心を強められてしまうだろう。

 そうなったらおそらく手遅れだ。

 魔法を当てられるチャンスはわずか一回限り。

 俺は追いながら、集中して男の足に狙いを定めていく。

 森は足場が悪く、障害物を躱すために飛ぶタイミングがある。

 俺はそのタイミングに狙いを定めた。

 そしてついにベストタイミングが訪れる。

 男が倒れている木を躱すために高めに飛んだ。

「今だ」

 俺は魔法技能試験の時に見せた針のような魔法を放った。

「くっ」

 その魔法は見事に男の右足を貫き、男は苦悶の表情を浮かべながら動きを止めた。

「ここまでだ。大人しくメリルさまを返してもらおうか」

 俺がそう言いながら男との距離を詰めると、その男は苦悶の表情を見せながらも、どこか余裕のある様子で口を開いた。

「それはできないな。この女はこの国の王女。こちら側には利用価値がいくらでもある。お前ら、やっちまえ!」

 そう男が言い放つと、上の木から剣を持った四人の男が俺めがけて飛び降りてきた。

 そうして俺は四人のノルディスタントらしき男たちに囲まれた。

 そんな状況を見て、奥にいる黒いフードを羽織った男は再び口を開く。

「お前の魔法のせいで俺の足はもう使い物にならないが、どうやらこの場にはお前ひとりしかいないようじゃねーか。それなら逃げずにお前を殺せばいいだけの話だ。ここまで俺を追ってきたということを考えると、お前は相当疲弊しているはず。俺たちの仲間が控えているところで俺を捕らえるとは、ついてねーな!」

 そう言って男はまるでもう勝負は決したというような様子で俺に語りかけてくる。

「じゃあお前ら、さっさとそいつを殺せ」

「「「「はっ」」」」

 黒いフードの男の合図を聞き、四人は一斉に俺に斬りかかる。

 だがそんな遅い剣などたとえ何人束になろうとも当たるはずがない。

「死ねーー!!」

 かけ声とともに一人が俺に向けて思い切り剣を振りかざすが、それを俺はいとも簡単に躱し、逆に剣を突き刺した。

「ぐはぁ!」

 俺に剣を突き刺された男は、体から大量の血を流しながら地面に倒れた。

 その光景を見た他の三人が俺にひるむ。

「お、お前ら、何をしている!相手はたったの一人だぞ!さっさと殺せ!」

 奥の男が三人に向けて怒号を飛ばした。

「「「は、はっ!」」」

 その声を聞いて覚悟を決めたのか、三人は再び俺に突っ込んでくる。

 だが何人来ても同じこと。

 俺は三人の剣を躱し、逆に三人に向けて剣を振りかざした。

「ば、ばかな!よ、四対一でしかも相手はガキだぞ!」

 俺の目の前に四人が血を流しながら倒れている光景を見て、黒いフードの男は想定外だったのか、はたまた現実を受け入れられないのか、大声で叫んだ。

「……んっ、ユーリ?」

 その声を至近距離で浴びせられたせいか、ちょうどいいタイミングでメリルさまが目を覚ました。

「ユーリ!」

 意識が覚醒し、状況を理解したのか、メリルさまは俺の名前を叫びながら俺の元へ必死に走ってくる。

「ま、待て!」

 黒いフードの男は大声で叫ぶものの、自由に動くことすらできない状態では当然何もすることはできず、とうとう俺のもとにたどり着いたメリルさまは思いっきり俺の体に抱きついた。

「ごめんなさい。私のことは心配しないでとかいっておきながら……」

 そう言うメリルさまの体は小刻みに震えていた。

 今のメリルさまにはいつものような強気な雰囲気は微塵も残っておらず、この様子を見ると王女とは言えどメリルさまも一人のか弱い女性であることを認識させられる。

「大丈夫ですよ。俺のもとにいればもう安心です。なのであとは任せてください」

 そう言って俺はメリルさまを安心させられるように頭を撫でた。

 震えが止まるのを確認すると、俺はメリルさまから離れて黒いフードの男のもとへ向かった。

「そもそもお前たちノルディスタントはどうして町を襲ったり王女を襲ったりしているんだ?」

 俺は殺す前に純粋に気になった疑問を男に投げかけた。

「言うわけないだろ。ほら、さっさと俺を殺せよ」

 どうやらこの男はこの場所が死地になることを悟ったらしく、特に叫び声をあげたりして抵抗することもなく、静かに俺の質問に答えつつも意志は残した。

「そうか。どのみち俺もこんなところに長居するわけにはいかないし、さっさと終わらせてやる。じゃあな」

 そう言って俺が剣を構えた時、突然おぞましい気配を察知し、いったんメリルさまのもとにすばやく後退する。

 俺が気配を感じた方向を見てしばらくすると、そこから一人の男が姿を現した。

「誰だ、お前は」

 俺は突如として現れたおぞましい気配を解き放つその男に対し、より気を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

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