第24話 戦の始まり

 俺たちはすぐに準備を整え、馬車に乗り込み、王や貴族とともに現在戦場になっている地方へと向かった。

 そして目的地にたどり着くと、俺が想像していた数倍ひどい光景が広がっていた。

 相当な数の兵士や一般人が血を流して倒れている。

 おそらくこの地の護衛をしていた人と住民だろう。

「これはひどいな」

 この光景を見て、俺は思わず呟いた。

「今回は特にひどいケースだよ。敵に先手を打たれたからこれぐらいは覚悟していたつもりではいたけど、人の死体なんて何度見ても慣れないよ」

 ゼルドさまもこの光景を見て、もどかしそうにそう呟いた。

「あの人たちはもう駄目ね。いくら光魔法であっても一度死んだ人間をよみがえらせることはできない。それよりも私たちは今ならまだ救える命を優先しましょう」

 光魔法は唯一魔法の中で人の傷を回復できる魔法であるため、それも光魔法の価値を高めている原因だ。

 だがそれを使えるメリルさまがどうしようもないと言っている以上、俺たちはメリルさまが言ったとおり、今なら救える命を救うことに専念するべきなのだろう。

 俺は思わず死んでいる人の顔を見て唇を噛んだ。

「そうですね。では敵の本拠地に急ぎましょう」

 こうして俺たちは死んでいる人を横目に、敵の本拠地に向けて歩みを進めるのであった。


 そしてノルディスタントの本拠地らしき場所にたどり着いたのだが、なんとそこはこの地方を治めていた貴族が住む館だった。

 この状況を見るに、残念だがここに住む貴族は全員殺されていると考えて間違えないだろう。

 そして今のところノルディスタントの連中からこちらに攻撃を仕掛けてくるどころか、姿を一人として見ていない。

 だが館の中に人の気配を感じるため、この館にこもっているのは間違いないだろう。

 王は少しの間、ノルディスタントの出方を伺ったが、何も仕掛けてこないと判断したのか、全体に向けて王は口を開いた。

「これより館の正門と裏門から攻撃を仕掛ける。みな配置についてくれ」

 王の命令により、俺たちや貴族、そして兵士たちはそれぞれの配置に着いた。

 あとは王の一声で前団、中団、後団の順に侵入するだけだ。

 俺たちの現在地は正門の後団に位置しており、仮に敵が弱ければ俺たちは侵入することにならないだろう。

 だがこれまで見てきた町の惨状を見るに、そうやすやすとノルディスタントを殲滅できるとは思えない。

 ひとまず俺は今回の戦いでの自分なりの勝利条件を決めることにした。

 それはゼルドさまとメリルさまを守り抜くこと。

 少し冷たいかもしれないが、戦が終わった時にこの二人が生きていれば、こちら側の陣営が何人死んでいようとしょうがないと割り切ることにしよう。

 俺は目の前にいるゼルドさまとメリルさまを見て、手紙を送ってきたやつの好きにはさせないと心の中で誓う。

「それでは前団、突撃せよ!」

 王の声とともに前団の兵士たちは正門を抜け、館の敷地内に入り、無理やり入り口の扉を破り、館へと侵入していった。

 しばらくして剣と剣が交わる音が聞こえてくる。

 きっと兵士とノルディスタントが戦っているのだろう。

 最初はこちらの兵士の声が軽快に聞こえていたので、てっきり順調なのかと思っていた。

 しかし慌てた様子で一人の兵士が状況を報告するために王の元へ走って戻ってきた。

「死傷者多数。敵の数は想定より少ないものの、手練れが多く、このままだとこちらの兵士が全滅します。どうか増援をお願いします」

 どうやら状況は良くないらしい。

 兵士の話を聞き、王は再び声を上げる。

「では中団も続いて突撃せよ!」

 どうやら中団も戦線に加えることに決めたようだ。

 前団は言わば普通の兵士で構成されており、偵察が主な目的ではあるが、中団は魔法が使える貴族や手練れの貴族が多くおり、そう簡単にやられることはない。

 だが逆に言えば、中団が仮に壊滅でもすれば、それはかなりやばい状況だということを意味する。

 俺はそうならないことを期待しつつ、剣を抜く覚悟を決めるのであった。

 

 だが中団が入ると、あっさりとノルディスタントを殲滅することができたようで、兵士や貴族が館から出てきた。

 兵士には死傷者も多少は出たものの、かなり少ない数で済んだようだ。

「館の中にいたノルディスタントはみな殲滅いたしました」

「ご苦労だった。今回はかなり厳しい戦いになるかと思ったが、そうならなかったのはお前たちが勇敢に戦かったからだ。誇りに思うがいい」

「「はっ!」」

 貴族の報告を受けた王は、どこか安堵の表情を浮かべながら、貴族たちに感謝の言葉を並べていた。

 俺もゼルドさまとメリルさまを失わずに戦いを終えることができたと考え、安堵の気持ちが芽生え始めていた。

「では私たちは館内の死んだ兵士やノルディスタントの連中を回収するとしよう。もしかすると何かノルディスタントにとっての重要なものが見つかるかもしれない。お前たちも来てくれるか?」

 王はこれから館に入るようで、俺たちにも声をかけてくる。

「僕は行くよ。人手は多いに越したことはないだろうしね」

 どうやらゼルドさまは行く気なようだ。

「私は負傷した兵士の治療を光魔法で行うためにここに残るわ」

 どうやらメリルさまは外に残るらしい。

 できれば二人はずっと俺の近くにいてほしかったが、戦いにも勝利したわけなので大丈夫だろうと結論づけた。

「では俺はゼルドさまとともに館に入ります。メリルさまはくれぐれも気を抜かずにお願いします」

 俺はゼルドさまについていくことを決め、メリルさまには一応気は抜かないようにと警告しておいた。

「大丈夫よ。多くの兵士も近くにいるのだし、私のことは気にしなくていいわ」

 確かに兵士の多くもここに残るようなので、たとえノルディスタントの残党がいたとしてもこの数の兵士相手では為すすべもないだろうと考え、俺はメリルさまの言葉に頷いた。

「分かりました。では館に行ってきます」

 そう言って、俺はゼルドさまや王とともに館の中に入っていった。


 そして館の中で斬られたノルディスタントの持ち物を確認していると、突如悲鳴のような声が聞こえてきた。

 俺は嫌な予感を感じ、大慌てで窓から外を確認すると、そこには黒いフードを羽織った男がメリルさまの前に立ちふさがっていた。

 その周りには数十人の兵士が血を流しながら倒れている。

 しかし気づいた時にはすでに遅かった。

 黒いフードを羽織った男はメリルさまの気を奪い、そのまま抱きかかえて、すごい速さで移動していく。

 このままじゃ二人を見失ってしまう。

 そう思ったときにはすでに俺の体は動き始めていた。

 俺はこの前キース先生から学んだ方法である、体の一部分に魔力を流す技術を使い、俺は足に魔力を流し、二人を追うのであった。



 

 

 

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