第22話 遠征

 王の命令を受け、ゼルドさまとメリルさまを迎えに来たという騎士が授業中に現れ、急遽俺を含めた三人は授業を抜け出し、騎士について行くこととなった。

 しかしそれは十分に罠の可能性もあるため、かなり警戒心を強めながら騎士の馬車に乗っていたのだが、結果としては何事もなく王宮に到着した。

 罠ではなかったのは幸いなことだが、そうなると騎士の言っていたことは本当ということとなり、つまりは王が急遽ゼルドさまとメリルさまを招集しなければならないほどの何かが起こったということになる。

 とはいえ今考えたところでそれが何かなど分かるはずもないため、俺は黙ってゼルドさまとメリルさまとともに案内している騎士についていく。


 そしてついに王座の間に到着した。

 そこにはこの国の王であるハンニバル・ユーレシスの姿があった。

「おお、二人とも来たか」

「お久しぶりです、父上」

「久しぶりですわね、お父さま」

 久しぶりの再会に王、ゼルドさま、そしてメリルさまはそれぞれ挨拶を交わした。

「おや、もう一人いるようだが、彼はいったい?」

 そして俺の姿にも気づいたのか、王は怪訝な目線を俺に向けてくる。

「申し遅れました。私の名はユーリ・アルスレア。アルスレア家の元当主であり、現在は仮ではありますが、ゼルドさまとメリルさまの騎士をやらさせております」

「ああ、確か君はアルスレア家の長男か。久しぶりだね。私のことは覚えているかな?」

「ええ、確か二年ほど前のパーティー会場でご挨拶させていただいたことを記憶しております」

 昔からゼルドさまやメリルさまとの交流があったため、当然王との面識もある。

 だが、だからと言って砕けた態度を取っていい立場では当然ないため、俺は言葉に気を付けながら会話を続けていった。

「それなら君がいても問題ないだろう。では早速本題に入ろう」

 どうやらさっそく呼び出した本題を話すようだ。

「お前たちを呼び出した理由は、ノルディスタントが動き出したという旨の情報を掴んだからだ。しかも今回はこの土地ユーレシアの一つ下の地方。かなり近い。だからひとまずお前たちの安全を確保するためにもこの王宮に連れ戻したというわけだ」

「まさか、またこんなにも早く」

「相変わらず懲りない連中ですわね」

 反応を見るに、どうやらゼルドさまとメリルさまはノルディスタントという存在を知っているらしい。

 だが俺にとってその単語は初耳だった。

「すみません、急に話に割って入って申し訳ないのですが、ノルディスタントとはいったいどのような存在なのでしょうか?」

 俺はこのままノルディスタントという存在に対して無知の状態のままで話が進むのはよくないと判断し、一度ノルディスタントという存在の話を聞くことにした。

「あれ、君は本当にノルディスタントという団体をご存じないのかね?」

 まるでお前は知っていて当然だと言わんばかりな様子で、王は再度確認を取ってきた。

「ええ、おそらくですが初耳かと思います」

 俺の返答を聞いて。なおも釈然としないような表情の王。

 そんなに俺が知っていないとおかしな存在なのだろうか。

「父上。きっとユーリくんが遠征に参加したことないのが原因だと思いますよ」

「君は遠征に参加したことがないのかい?」

「ええ」

「なるほど。そういうことか」

 その返事を受けてようやく納得がいったようだ。

「ノルディスタントというのは、端的に言えば遠征のときの私たちの敵の団体名だよ。ノルディスタントはいつもどこかの地方を襲っては占領しようとする団体で、遠征を発令してなんとか毎回倒している。いつも遠征ではルドウィンや君の妹であるセリシアには助けられているから、君もてっきり姿は見ないけど遠征に参加していたと思っていたよ」

「いえいえ、もとはと言えばルドウィンやセリシアに話を聞いていなかった私が悪いのですから」

 そうは言ったものの、それを聞いて一つ引っかかる点がある。

 それはそんな団体と戦っていたことを、ルドウィンやセリシアは俺にずっと黙っていたということだ。

 普通ノルディスタントのような俺たちにとって脅威になりそうな団体のことは、遠征に行ってないとはいえど、当主の俺の耳にも通しておくのが自明の理なのではないだろうか。

 だがそのことはいったん忘れ、今はひとまず王の話に耳を傾けることにする。

「話を戻そう。そんなわけでノルディスタントはまた動き出した。おそらくは近日中にここらの周辺のどこかに攻め込んでくるだろう。そこでできるだけ被害者を出さないためにも、私は今すぐにでも行動を起こそうと思う」

「つまりは……」

 ゼルドさまは王が言わんとしていることを察した様子で続きを促した。

「そう、遠征だ。さっそく全国の貴族に通達しようと思う。お前たちも手伝ってくれるか」

「もちろん手伝うよ。僕も国民が死ぬのは悲しいしね」

「私も手伝うわ。いつもいつも多くの被害者に光魔法をかけるのは疲れるもの」

 どうやらゼルドさまとメリルさまはやる気満々のようだ。

「ユーリくん。君も手伝ってくれるかい?」

「ええ。俺にできることであればぜひ手伝わせていただきます」

 王の願い、そしてゼルドさまもメリルさまもやる気な以上、俺の選択肢は一つしかないだろう。

 こうして急遽遠征が行われることとなり、俺も参加することになりそうだ。

 

 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る