第21話 知らせ

「ユーリさま、この魔法はどうすればより威力が上がりますか?」

「放課後に剣術教えてくれよ!」

 これは魔法技能試験と剣術技能試験が終わった次の週のとある日の休み時間。

 ゼルドさまやメリルさまの周りだけでなく、俺の周りにも人が集まるようになった。

 もっとも俺に話しかけてくる生徒たちの多くは雑談などが目的ではなく、魔法や剣術の相談が多いわけだが、それでも陰でこそこそと根も葉もない噂を言われていた先週に比べると非常に過ごしやすい生活に変わった。

「さあみなさん席についてください。授業を始めますよ」

 シーナ先生の声を聞いて、俺の周りにいる生徒たちは自分の席へ戻っていく。

「ふふ、ユーリの学園生活が過ごしやすそうになってなによりだわ」

 ゼルドさま、メリルさま、そして俺の三人になると、隣に座っているメリルさまが嬉しそうに声をかけてきた。

「メリルさまが俺に学園生活を変えるきっかけを与えてくれなければ、ずっと根も葉もない噂を言われ続ける日々を送っていたと思います。ですので今回の件は本当にありがとうございました」

 俺は今思っていることを正直に言葉にした。

「きゅ、急に改まって何よ。それに実際に学園生活を変えたのはあなたなのだからお礼など不要よ。だからこの先も私たちの護衛を頼むわね」

「はい」

 メリルさまはお礼など不要と言っていたが、俺はそれでも感謝の言葉を口にしたかった。

 まさか周りの環境が変わるだけで、ここまで気が楽になるとは思ってもいなかったからだ。

 きっとこの先もゼルドさまやメリルさまに助けられることは大いにあることだろう。

 だから俺は自分の役割をまっとうしようという決意をひそかにより固めるのであった。


「では今日は火の魔法について説明していきます。火の魔法とは―――――」

 とはいえどんなに学園生活の気が楽になろうとも、授業は相変わらず退屈だった。

 魔法技能試験で他の生徒たちの技量を見たところ、このような簡単な内容をやるのは納得ではあるが、いささか俺からすれば常識もいいところなので、授業を聞く必要は正直なかった。

 もっともそう感じるのはゼルドさまやメリルさまも同様だろう。

 その証拠に右隣りのゼルドさまは何やら教科書とは違った書物を読んでいるし、左隣りのメリルさまは窓の外の景色を眺めていた。

 だがこれからもこのような時間が続いていく以上は、慣れていくしかないだろう。

 そんなことを考えていた俺であったが、さっそくそんな時間は打ち砕かれた。

「しっ、失礼します!」

 急に騎士らしき男が息を切らしながら教室の中へ入ってきた。

「は、はい。いったいどうしたのでしょうか?」

 かなりひっ迫した様子の騎士を見たシーナ先生は、少し慌てた様子で事情を聴いた。

「至急ゼルドさまととメリルさまを王のもとに連れてこいと王自らの命令を受け、この場所に訪れた次第です。ではさっそくですが、ゼルドさまとメリルさまは私についてきてくださいますか」

 そう言って騎士はゼルドさまとメリルさまに語りかけてきた。

「あまりにも急な話ね。それに迎えも一人、とても信用できないのだけど」

 メリルさまが警戒した様子で口を開いた。

「こちらとしてもあまりに急だったもので、動けるのが私だけだったのです。どうか信じてついてきてくれませんか」

 メリルさまに警戒心をむき出しにされてもなお、必死な様子で騎士は訴えてきた。

「では僕とメリルだけでなく、このユーリ・アルスレアくんも一緒に連れて行ってくれるならついていくよ」

 ゼルドさまもこの騎士を百パーセント信用できているわけでは当然ないだろうが、あまりの必死さを受けてか、俺も連れていくならついていくという折衷案を提案した。

 だが俺は当然王の親族ではない。

 はたして大丈夫なのだろうか。

「アルスレア……はい、それなら大丈夫だと思います。では三人とも私についてきてください」

 どうやら家の名前に助けられたようだ。

「そうと決まれば行くわよ、ユーリ」

「はい」

 何はともあれ、俺たち三人は席を立ち、授業から抜け出す羽目になった。

 いったい王がゼルドさまとメリルさまを至急呼び出したのはどんな案件なのか。

 はたまたそもそもそれ自体が嘘で、単にゼルドさまとメリルさまをおびき出すための罠なのか。

 ついに俺が護衛としての責務をまっとうすべき瞬間が急に訪れたのだった。

 

 


 


 

 

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