第20話 剣術技能試験⑥
キース先生が魔法を使っていると分かったため、このまま攻め続けても決め切れないと思い、俺は攻めるのを一時中断し、いったん後ろに飛んで距離を置いた。
しかしこのままの状態で戦い続けても、間違いなく負けるのは俺だ。
そのためにも俺は魔法を使う必要があるだろう。
では魔法を纏い、領域を超えるか?
しかしこの力を使えば、どうしてもオーラのようなものが出てしまい、見ている生徒たちを混乱させてしまう可能性がある。
仮に俺が領域を超えたせいでまた根も葉もない噂を生徒たちに流されてしまえば、それこそ本末転倒もいいところだ。
つまりその選択肢は使えない。
しかし、それ以外で剣術に魔法を利用する方法を俺は知らない。
ではどうするべきか。
「ひとまずは見にまわるしかないか」
ここからはキース先生の攻撃を受けつつ、動きを観察させてもらうとしよう。
その後キース先生は俺が攻めてこないと分かると、一気に距離を詰めて攻めてきた。
俺はその剣を冷静に受け止める。
だがどんどんキース先生は剣を振りかざすスピードを上げていく。
さすがに剣で捌ききるのは厳しいと判断し、俺は後方に飛び、いったん距離を取って体勢を立て直そうとするも、その距離をすぐに詰められる。
やばい、このままだとキース先生の攻撃を受けきれない。
さっきまでは攻撃を受けつつ動きの観察を……などと考えていたが、とてもそんな余裕は今の俺にはなかった。
いくら素早く後方に飛んで距離を保とうとしても、まるでテレポートしているかのようなスピードで俺との距離を縮めてくる。
そもそもこの距離を詰めるスピードは何だ。
いくらなんでも速すぎだろ。
ん?
ふと俺は違和感を覚える。
そもそもこの距離の詰め方はキース先生の身体的な技術で成り立っているのか?
そう言えばゼルドさまも急に距離を詰められて負かされていた気がする。
しかし冷静に考えてみると、ゼルドさまが相手との間合いを間違えて負けることなど果たしてあるだろうか。
つまりゼルドさまの感覚からしてみても、キース先生の距離を詰める速さは異常だったのではないだろうか。
そう考えればゼルドさまが試合後キース先生に話しかけていたのも、感じた違和感を聞いていたということで説明がつく。
仮にそれが真実であったとするならば……
何らかの魔法を使って、動くスピードを上げたというわけか。
だがスピードを上げる魔法など、俺が知る限りでは存在しない。
やはりこの試合は知識の差ということで俺は負けを受け入れるしかないのだろうか。
そんなことを考え始めた時、ふと俺の頭の中にある閃きが走った。
「いや、一つだけあるじゃないか。スピードを上げる魔法が」
俺は成功するか分からないが、咄嗟に思いついた方法に賭けてみることにした。
俺がようやく突破口らしきものを発見するのと同時に、キース先生は完全に俺の動きに追いついた。
「これで、終わりだ!」
そう言い放ちながらキース先生は俺に剣を突き出してくる。
だが、俺は臆することなく感覚を信じて魔法を使いながら腕を動かす。
すると、キーンと剣と剣が交わる今日一番の大きな音が試験会場内に響き渡った。
「完全に決まったと思ったんだが。まさか、お前にも使えるのか」
キース先生は驚きを隠しきれない様子で俺に声をかける。
「いえ、先生の動きを見ていて今気づきました。まさか纏わずに魔法を使うというのが剣士の世界にはあるのですね」
俺が閃いたのは魔法を体全体に纏うのではなく、体の一部分に纏うような感覚で魔法を適用するというもの。
そうすればその体の部分を強化することができるというわけだ。
これまで俺は剣での戦いで魔法を使う場合、纏って体全体の能力を上げるというのが一般的であり、かつすべてだと考えていた。
そのため体の一部にのみ魔法を利用するなどということをこれまで考えもしなかった。
だが実際、体の一部にのみ魔法を使うというのは、魔力の節約にもなり、かつオーラのようなものも出ることはなく、それなりにメリットはある。
これなら見ている生徒たちに何か誤解を与えることもない。
「ここからは本気で行かせてもらいますね」
俺はそうキース先生に言って、剣を構えなおす。
「面白い。お前の力、見せてみろ」
俺の言葉に答え、キース先生も剣を構えなおす。
そして俺は一度深呼吸してから、さっそく魔法を足に宿し、キース先生に突っ込む。
すると想像以上のスピードで間合いが縮まっていく。
まるで俺のスピードが上がったのではなく、時間の流れが遅くなったようだ。
そのまま俺はキース先生に向けて剣を振りかざす。
だが、キース先生はこのように魔法を使う相手との場数を相当踏んでいるのか、的確に俺の攻撃は防がれた。
それでも俺はその防御スピードを超えるために、今度は腕に魔法を宿す。
腕が軽い。
剣の重さを感じないほどに。
俺はこれまでとは比べ物にならないスピードでキース先生に剣を振りかざしていく。
するとわずかだがキース先生の顔が苦しんでいるような表情に変わってきているように感じた。
このまま押し切れる。
いや、押し切るんだ。
俺は強い意志をもって、さらに剣を振りかざすスピードを上げていく。
その間、俺の集中力は限界を超えていた。
「……」
「くっ」
集中力は極限状態にまで達し、無言のまま剣で攻撃し続ける俺とどんどん押されていくキース先生。
気づけば「いけー!!!」「このまま押しきれー!!!」と生徒たちも俺を応援するようになっていた。
だが俺にはその声は一切聞こえてこなかった。
今俺が感知できるのは俺の剣の動きと、キース先生の剣の動きだけ。
ほら、あと少しで届く。
キース先生のもとへ。
そして気づけば俺はキース先生の首元へ剣を突き出して止まっていた。
つまり俺は勝ったのだ。
この死闘を制したのだ。
響き渡る歓声、そして称賛の声。
だが俺はそんな声なんかよりももっと大事なものを手に入れたことを実感していた。
新しい力。
この瞬間だけは、俺は自分が高みに近づいたことに純粋な喜びを感じるのであった。
「すごいわね!まさかキース先生に勝ってしまうなんて」
帰り道で俺たち三人だけになると、メリルさまがなんだか嬉しそうに俺に語りかけてきた。
「ありがとうございます。でもあれはたまたまキース先生に勝っただけですよ。実力は拮抗していました」
魔法のことは話していないため、俺はそのように返事を返した。
「でも勝ちは勝ちよ!それに、私との約束も果たしてくれたしね」
そう言って、メリルさまは俺に可愛らしい純粋な笑みを浮かべた。
おそらく試合後俺のもとに生徒たちが集まり、称賛の声を浴びせていたことを確認したことで、もう噂は大丈夫だろうと判断したのだろう。
こうして思わぬ収穫もあった剣術技能試験は幕を閉じたのだった。
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