第18話 剣術技能試験④

 ゼルドさまは試験が終わると、なにやらキース先生と少し会話をして俺たちのもとに帰ってきた。

「お疲れ様です。ゼルドさま」

「ありがとうユーリくん。それにしてもキース先生は相当な実力者だったよ」

 参ったという表情をしながらそう話した。

「確かに最後の間合いの詰め方は異常でしたね」

「そうそう。さすがに僕もあの距離を一瞬で詰められるとは思わなかったよ」

 ゼルドさまは笑いながらそう答えた。

 だが目は決して笑っていないのを俺は見逃さなかった。

 きっと自分の剣技が初手から通用しなかったのがかなり悔しいのだろう。

「だから言ったじゃない。油断するなって」

 なぜか得意そうにメリルさまが語る。

「油断はしてなかったよ。ただキース先生の実力が僕の想像よりも一枚も二枚も格が上だっただけの話さ」

 そうゼルドさまは淡々と答える。

 これ以上この二人の会話が続いても、お互いにとって得がないという雰囲気を察して、俺は強引に話題を変えた。

「そういえば、試験が終わったあとキース先生といったい何を話してたんですか?」

 少し気になっていたので、俺は単刀直入に尋ねた。

 その問いに、ゼルドさまは少し考えてから口を開いた。

「それは秘密にしておくよ。それに君はもしかすると実際にキース先生と対峙することで感じ取れるかもしれないしね」

 そう意味深なことをゼルドさまは口にした。

「なるほど。頭の片隅に今の言葉は置いておきますね」

 よく分からないが、実際にキース先生と対峙すれば、明確な何かを俺は感じ取れるのだろうか。

「そういえば昨日はこの後バウラくんが君に勝負を挑んできたけど、果たして今日はどうかな」

「さあ、どうでしょうか。昨日で懲りていれば良いのですが」

 昨日のような面倒ごとは正直もうごめんだ。

 特に何もないまま出番が来ることを俺は心の底から願うのだった。


 そして本当に何事もないまま、無事俺の出番がやってきた。

 正直今日もバウラが『昨日の魔法はたまたまだ!だから今日の剣術技能試験が本当の勝負だ!』などと言って俺に勝負を挑んでくると、どこかそう思っていたのだが、今日は特に接触してくることもなかった。

 もうバウラはぜルドさまとメリルさまの護衛になることは諦めたのだろうか。

 まあ俺にとって面倒ごとが起きないのは願ってもないことだ。

 これで俺はメリルさまとの約束を果たすのに専念できるというもの。

 今から俺がやらなければならないのは、生徒たちからの俺に対する根も葉もない噂を消すということ。

 そのためには俺の力を公の場で証明し、俺が臆病者で無能だという勝手に抱かれている印象を消さなければならない。

 俺は顔を上げ、改めて試験会場を眺めている生徒たちを見る。

 その数およそ200人。

 そして俺の対戦相手は騎士団元団長の実力者であるキース・マルトス。

 舞台は整った。

 俺があの場でキース先生と善戦を演じることができれば、俺は臆病者でも無能でもないことを証明できるだろう。

「約束、果たしなさいよね」

 不安そうにメリルさまは俺を見てくる。

「任せてください」

 俺はその不安を払拭させられるような笑みを浮かべてそう答え、試験会場へ向かうのであった。


 試験会場に入る前に昨日と同じように先生からちょっとした説明を受け、そして満を持して試験会場に入った。

 無数の視線が俺に集まっているのを感じる。

 そして悲しいことに昨日と同様、俺の悪口なども聞こえてきた。

 だが違った点もあった。

 ユーリ・アルスレアなら昨日見せた魔法のように俺たちが想像もしないことをやってのけるかもしれない。

 そのような旨の会話も少数だが聞こえてきた。

 なんだ、昨日のただ結果だけを求めた残酷で、魔法を使う人が見れば誰もが目を逸らしたくなるような魔法でも、伝わる生徒には伝わったということか。

 そうと分かれば、もう迷いはいらない。

 キース先生との戦いで、俺のことを未だに無能だの臆病者など言ってる輩には思う存分に俺の実力を、俺に面白いことを期待している輩には面白い試合見せつけるとしよう。

 俺の信念がちょうど固まるのと同時に、まるでそれを待っていたかのようなタイミングでキース先生が俺の前に現れた。

 対峙しただけで分かる。

 この人は強い。

 だがただ強さを感じ取るというのは、さっきゼルドさまが言っていた感じ取れるものとはおそらく違うのだろう。

 いったいこの人の剣には何が隠されているのか。

 俺は楽しみな気持ちを胸に抱きながら、剣を構えるのだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

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