第17話 剣術技能試験③

 ロノアの試験が終わったことで剣術科の生徒全員の試験が無事終わりを迎え、今度は魔法科の生徒が試験を受ける順番が回ってきた。

 だがこの試験を受けることで魔法科の生徒たちは知ることとなった。

 自分たちの剣術が、剣術科の生徒たちと比べていかに未熟であるかを。

 多くの剣術科の生徒がキース先生に返り討ちになっているのを見ていた魔法科の生徒たちは、自分たちも同じようにキース先生に討ち取られるのだろうと想像しながら試験に臨んだはずだ。

 だが現実ではそうはいかなかった。

 魔法科の生徒たちは、まずキース先生との間合いすら詰められないままキース先生に討ち取られていった。

 結局のところ魔法科の生徒たちは、今のままではまともに相手との間合いすら詰められないということだ。

 そんな現実に直面した魔法科の生徒たちの間には、重い空気が流れていた。

 その後も二組の生徒たちが同じようにキース先生に討ち取られる光景を見せられ続け、結局ほとんどいいところがないまま一組まで出番が回ってきた。

 つまり魔法科の生徒たちの間にある重い空気が流れたまま、メリルさまの出番が回ってきたということだ。

 あれ?なんかこの流れ、デジャブのような・・・・・・

「メリルさま、昨日と同じようにこの重い空気を変えてくださいね」

 流れに沿って、俺はメリルさまに声をかける。

 だがメリルさまにの表情は、昨日の自信満々の表情とはまるで違っていた。

「悪いけど、それはできそうにないわ。知ってるでしょ、私が昔から剣術が苦手だということを」

「まあ、確かにそうですが……」

「でもこれまでの魔法科の生徒たちよりはいい戦いができると思うわ。一応最低限の剣術は習ってるしね」

 確かにこれまで試験を受けた魔法科の生徒たちは剣術の基本の動きすらできていなかった。

 それに比べれば、多少はマシな戦いになるとは思うが……

「それでも剣術科の生徒と同じか、それ以下な感じになると思う。とにかく自分なりに頑張るわ!」

「ええ、頑張ってください」

 俺の言葉に頷いて、メリルさまは試験会場に向かった。

 そしてどうなるかと思い、試験を眺めていたが、やはり予想通りメリルさまもすぐにキース先生に討ち取られてしまった。

 試験が終わり、すぐにメリルさまは俺たちのもとに戻ってきた。

「やっぱり全然だったわ」

 落胆した様子で、そう呟いた。

「それでも間合いを詰めて、剣を振りかざすことはできていたわけですし、他の魔法科の生徒たちに比べれば上々だと思いますよ」

 俺は素直に思ったことを伝えた。

「ありがとう。それと対面して分かったのだけれど、キース先生は相当な化け物よ。全く底が見えないし、力、俊敏さ、全てにおいてセーブしているように見えたわ」

 おそらくメリルさまは直に直面してみて、キース先生の強さを感じ取ったのだろう。

「剣術が未熟な私は、実際に戦ってみてこれぐらいしかわからなかったけど、兄さまやユーリならもっとわかるはずよ」

「ははっ、それはますます楽しみだね」

 メリルさまの言葉に、ゼルドさまは笑みを浮かべた。

「そんなに余裕そうな表情をしていると、瞬殺されるわよ」

 自分をすぐ負かした相手に全く動じていないゼルドさまに思うことがあったのか、メリルさまは不服な表情で嫌味を言う。

「大丈夫さ、僕は剣で戦うときにマンに一つ油断することはない。それに実際に剣を交えてみればわかる話さ。キース先生の強さ。そしてロノアさんの強さも」

 確かにロノアと自分のキース先生との戦いを比較すれば、どちらが剣術で格上なのか、間接的に分かるだろう。

「おっと、そろそろ僕の出番のようだね」

 俺たちが話し込んでる間に、ゼルドさまに出番が回ってきたようだ。

「頑張ってください」

「せいぜい足元をすくわれないことね」

 俺とメリルさまの声を背に、ゼルドさまは試験会場に向かった。


「それでは、試験開始」

 シーナ先生の声とともに、ゼルドさまとキース先生の戦いが始まった。

 ゼルドさまは始まりの合図と同時にキース先生との間合いを詰めた。

 ロノアと比較すると、間合いを詰めるスピードとしては、ゼルドさまよりもロノアの方が勝っているように見えた。

 だがここからの試合展開はロノアの時とは全く違った。

 というよりこれまでの生徒の試合とはまるで違う。

 ゼルドさまはフェイントをかけながら、キース先生を攻めていった。

 右かと思えば左へ、左かと思えば右へ、ゼルドさまは変幻自在な攻めを繰り出していった。

 まるで相手に幻影を見せているかのように。

 そのこれまでの生徒とはまるで違った攻めに、さすがのキース先生も防戦一方になっていた。

 他の生徒たちも、

「ゼルドさますげー!」

「これは勝てるぞ!」

「いけー!」

 などと声を上げ、みなゼルドさまを応援したり、称賛の声を上げていたりしていた。

 だが俺はもっと別なことに驚いていた。

 それはゼルドさまの剣技よりもキース先生の対応力だ。

 おそらく剣技を放っているゼルドさま本人が一番驚いているのではないだろうか。

 普通あそこまで殊勝な戦い方をする相手と戦った場合、初戦は対応できずに負けるのが一般的だ。

 そういう相手と戦う場合は、対策を考えて次に手合わせをするときがむしろ本番だというもの。

 それなのにキース先生は押されているとはいえ、なんとか耐え忍んでいる。

 これははっきり言って異常だ。 

 これまでゼルドさまと同じようなタイプの相手と手合わせをしたことがあるのだろうか。

 試合を見ていると、ゼルドさまの剣技に徐々にキース先生が慣れていっているのが見て取れた。

 このまま続けると不利と判断したのか、ゼルドさまは一端後退しようとした。

 だがこれが致命的だった。

 そのわずかなスキを狙い、キース先生は凄まじいスピードでゼルドさまとの間合いを詰め、そのまま討ち取ってしまった。

 そのあまりの決着に、すごい盛り上がりを見せて生徒たちは、一気に騒然となった。

 正直この試合を見ていて、俺はゼルドさまとロノアのどちらが剣術で優れているか判断は全くつかなかった。

 だが一つだけ明確に分かったこと。

 それはキース・マルトスという男がとても強いということ。

 早く戦ってみたい、と俺はゼルドさまの首筋に剣を向けているキース先生の姿を見ながらそう思うのだった。

 

 

 

 


 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る