第16話 剣術技能試験②

「それでは、試験開始」

 シーナ先生の合図とともにロノアとキース先生の戦いは始まった。

 二人は向かい合って剣を構える。

 いったいどちらが先に仕掛けるのか。

 そう思い眺めていたのだが、なかなか二人とも動かない。

 キース先生はこれまでの剣術科の生徒が相手のとき、相手から向かってこないと察せば、自ら間合いを詰めてすぐに打ち取っていた。

 だが今回はなかなか動かない。

 おそらくはロノアからこれまでの生徒とは何かが違うということを感じ取ってのことだろう。

 しばらくすると、先にロノアの足がわずかに動いた。

 そう思った次の瞬間、ロノアはキース先生の目の前まで間合いを詰めていた。

 速攻だ。

 しかもこれまでの生徒とは比べ物にならないほど速い。

 この剣は届く。

 そう誰もが思ったのだが、しかし現実はそうではなかった。

 キース先生は表情を崩すことなく、ロノアの振りかざす剣に冷静に自分の剣を合わせた。

 一転して、今度は誰もがロノアが負けると悟った。

 これまでに速攻を仕掛けた生徒たちはみな剣を合わせられ、わずかに体がひるんだすきをキース先生は容赦なく狙い、打ち取っていた。

 ロノアもその例外ではないだろう。

 そう思っていたのが、これも実際にはそうならなかった。

 ロノアとキース先生の力が拮抗しているのか、どちらかの剣がはじかれることはなく、合わさったまま動かない。

 それにはさすがのキース先生も驚いたのか、いったい後退して体勢を立て直した。

 それに合わせてロノアも後ろに飛んだ。


 それを見ていた会場の生徒たちは「すげー!」「これはキース先生に勝てるんじゃないか!」などと歓声を上げていた。

「彼女の剣、見た目によらずすごいパワーだね」

 ゼルドさまも驚きを隠せないのか、俺に声をかけてくる。

「そうですね。ここから先の展開は未知の世界。この勝負、一体どう転ぶのか」

「キース先生とパワーが互角なロノアさんなら、持ち味のスピードを活かせばもしかすると勝てるんじゃないかな」

 確かにこれまでに繰り広げられた光景だけを見ればそう思うのも無理はない。

 だが……

「そうですね。ただしこれまでのキース先生が全力であれば、の話ですが」

 俺にはどうしてもあのキース・マルトスが全力を出しているとは、到底これまでの戦いを見ていて思えなかった。


 そして再び先にロノアが速攻を仕掛けた。

 今度はさっきよりも速く、剣も重そうだ。

 おそらくは勝てると踏んで決着をつけにいったのだろう。

 だがさっきと同じように、キース先生に剣を再び合わせられる。

 しかしここから先の展開はさっきとは全く違った。

 ロノアは剣を合わせられると、今度は別の個所を狙って凄い速さで剣を振りかざした。

 しかしキース先生も当然追いつき、剣を合わせて受け流す。

 だが剣を合わせられれば、またロノアは別の個所を狙い剣を振りかざす。

 あとはその繰り返しだ。

 だが異常なのはそのスピードだ。

 ロノアはすごいスピードで剣を振りかざし、キース先生もまたその速さに追いついて剣を合わせる。

 もはや視覚だけでは剣先を追うことはできない。

 あまりの速さにフィールドは土煙に覆われた。

 しかし、しっかりと剣の交わる音だけは聞こえくる。

 永遠に続くかと思われたやり取りだったが、決着は突然ついた。

 キーンと一際いい音が鳴ったあと、剣が交わる音が止まった。

 おそらくはどちらかが剣のぶつかり合った衝撃にひるみ、どちらかが相手が体勢を崩したスキをしっかりと打ち取ったのだろう。

 生徒たちは砂煙が収まるのを今か今かと待ちながら、フィールドを凝視している。

 そしてようやく砂煙が収まった。

 そこから見えた光景はキース先生がロノアの顔の前に剣を向けている光景。

 剣を向けられたロノアは剣を手放し、地面に落としていた。

 つまりこの光景から分かることは、キース先生が勝ち、ロノアは負けたのだ。

 だがそれでも、見ている生徒たちからはこれでもかというほどの歓声が上がった。

「すげーよ!」

「いい試合を見せてくれてありがとう!」

「彼女は俺たち剣術科の代表だ!」

 などとみながロノアに向けて称賛の声を送っている。

「いい試合だったね」

「ええ、そうですね」

 ゼルドさまの感想に俺も同意を示す。

「君は彼女に勝てる自信はあるかい?」

 ゼルドさまは少し笑みを浮かべながら、そう俺に質問してきた。

「さあ、どうでしょうか。お互い純粋な剣だけの勝負であれば俺が勝つと思います。しかし彼女も領域を超えることができるのであれば、それはもう分かりません」

「はっはっは、そうだろうね。僕も速く領域を超えることができるようになりたいよ」

 領域を超える。

 それは魔法によって人の域を超えるということ。

 しかしこれを使うには剣術も魔法も極める必要があり、できる人は相当限られてくる。

 この力はあまり見せたくないが、果たして学園内で使うことはあるのだろうか。

 そんなことを頭の中で考えながらも、俺は会話を続ける。

「剣技だけであれば、ゼルドさまはロノアに勝っているのではないでしょうか?」

 ゼルドさまは子供のころから剣技に秀でていた。

 さらに年を重ねた今であれば、相当な腕になっているに違いない。

「どうだろうね。まあ実際にキース先生と戦ってみて、直に感じてみることにするよ」

 そう言ってゼルドさまはロノアに視線を向けた。

 それにしても、と俺もロノアを見て思う。

 突然見せた強力な闇魔法に剣術科の生徒とは比べ物にならないほど熟練された剣技。

 ロノア・キャルリアとはいったい何者なのだろうか。

 俺はこの学年で唯一底の見えない彼女に、剣術技能試験を通して明確に興味を持ったのであった。

 



 


 



 

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