第15話 剣術技能試験①
魔法技能試験が終わり、そして次の日の朝が訪れた。
今日は剣術技能試験が行われる日。
そしてメリルさまとの約束を果たす重要な日だ。
いつも通りゼルドさまとメリルさまとの待ち合わせ場所に向かうと、珍しくそこにはメリルさまの姿だけがあった。
「あら、おはようユーリ」
「おはようございます。メリルさま」
お互いに挨拶を交わしたあと、メリルさまは少し曇った表情で口を開いた。
「昨日のユーリが見せた魔法で他の生徒たちがユーリの見方を変えてくれればいいのだけど、どうかしらね」
「さあ、こればっかりは学園に行ってみないと分かりません」
魔石を割ったという事実はあるが、人間の感情というのは事実だけで納得させることができないというのもまた事実。
「そうね。でも、もし今日学園に行ってみても生徒たちの様子が変わっていないようだったら――――――」
「心配しないでください」
メリルさまが言おうとしたことを察し、俺は言葉を遮った。
「昨日俺が使った魔法について、きちんと仕組みを説明して生徒たちを納得させようとするのでしょう。しかしそれは不要なことです」
「で、でも……」
昨日俺が使った魔法の凄さを分かっているからこそ、それでも納得していない生徒を許せないだろう。
「そもそも俺は昨日の魔法技能試験で生徒たちの俺に対する印象を大きく変えようなんて思っていませんでした。もし仮に変えたければ、バウラの魔法なんかよりもはるかに迫力のある魔法を大げさに使い、魔石を割ってみせればよかっただけの話です」
「た、確かにそれはそうだけど」
昨日の俺は少しむきになっていたと、今冷静に考えれば分かる。
だがこうなるように舵を取ってしまった以上しかたない。
「なので今日の剣術技能試験はきちんと自分の能力を見せようと思います。少なくとも誰から見ても強者だと認識できるぐらいには」
「随分と自信があるのね」
俺の言葉を聞いたメリルさまが、笑みを浮かべながら聞いてくる。
「もちろんです。確かに魔法科に入りはしましたが、得意なのはむしろ逆ですから」
そう俺も笑みを浮かべながらメリルさまに返した。
学園に着くと、俺とメリルさまの予想は悲しいことに悪い方の予想が当たっていたことを知ることとなった。
どうやら昨日の俺が魔石を割ったことに関しては、『たまたまだ』『工作だ』などというのが一般生徒の中での共通認識になっているらしい。
魔石はたまたま壊れることなどあるわけもなく、工作もこの学園の過去の試験で一度たりとも起こった試しはない。
つまりどちらも冷静に考えればただの嘘だと理解するのは簡単だ。
でもそうもいかないのが集団心理というもの。
たとえ事実が違ったとしても、集団がそういう言えばそれが事実となる。
なんとも厄介なものだ。
だがそれも今日でおしまいだ。
「これから剣術技能試験を始めます。初めに今日の試験監督であるキース先生から話があります」
そうシーナ先生が言うと、生徒の前に屈強そうな男が現れた。
「今日の試験監督をするキース・マルトスだ。お前たちは一人一人俺と剣で戦ってもらう。遠慮はいらない。全力でかかってきてくれ」
キース・マルトス。
剣術科である三組の担任で、なんでもキース先生はもともとこの国の騎士団の団長で相当な実力者であるのと同時に、剣術の腕を見る目に長けているらしく、ここ数年はずっとこの試験の試験官を任されているとか。
「それでは今日も昨日と同じ順番で試験を行っていきます。それでは剣術科四組の学籍番号が一番若い生徒から試験会場に来てください」
シーナ先生の説明が終わり、二日目の試験が始まった。
どうして今日も魔法科の生徒よりも剣術科の生徒の方が先に試験を行うかというと、魔法科の生徒が剣術科の生徒の実力を見てから試験を受けてほしいというもの。
おそらく剣術科の生徒との実力差を痛感させ、魔法科の生徒にも今後剣術に取り組むモチベーションを作り出すというような考えだろう。
とりあえず俺は昨日に引き続き大トリなので、じっくり他の生徒の剣の腕を眺めることにした。
それから剣術科の生徒たちは果敢にキース先生に挑んでいったが、みな子ども扱いされるようにあしらわれ、今のところ誰の剣もキース先生には届いていない。
だが、だからと言って剣術科の生徒たちの実力がない、というわけではないように俺の目からは見える。
おそらく剣術科の生徒が弱いのではなく、キース先生が強すぎるのだ。
どんなに早く切り込んでも、どんなに高度なフェイントをかけても正確に剣を合わせられる。
そしてその剣同士がぶつかった衝撃で生徒が少し怯んだ瞬間には、すでにキース先生の剣は生徒の目と鼻の先にある。
それがこれまでのほとんどの生徒との戦いでの決着までの進行手順だ。
中にはあえてキース先生からの攻撃を誘った生徒もいたが、その場合はすぐに間合いを詰められ、すぐに決着をつけられるのがオチだった。
このままでは剣術科の生徒たちはいいところがないまま終わってしまう。
誰もがそう思っていたのだが、剣術科の大トリにはすごい人がいることを忘れていた。
そのロノア・キャルリアが試験会場に入った途端に会場はもちろん、見ている生徒たちの空気も変わったような気がした。
昨日あれほどの闇魔法を放った女だ。
そんな女が魔法科ではなく剣術科なのだから、剣の腕前が並大抵なはずがない。
そう思い、生徒たちはこの試験から目を離せないのだろう。
俺も昨日闇魔法を見て初めて認識したため、きちんとロノアの姿を見るのは今が始めてた。
俺は目を凝らしてロノアの姿を見る。
するとこの国では珍しい俺と同じ黒髪であること、そしてそれをポニーテールに結んでいる相当な美人であることが分かった。
きっと今後の学園生活でかなりモテるだろうな、と俺は素直に思った。
とはいえ今は容姿などどうでもいい話。
これまでの剣術科の生徒同様、すぐにキース先生になすすべなく負けてしまうのか。
はたまたいい勝負を展開するのか。
これから期待の一戦がはじまるのであった。
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