第14話 魔法技能試験⑥

 試験会場に入る前に先生からちょっとした試験の説明を受けたあと、満を持して俺は試験会場に足を踏み入れた。

 外の様子を見ると非常に多くの人が俺を見ていることが分かる。

 試験を受けた人はみなこんな視線を受けながら平然と試験を受けていたと考えると、この学園に来る生徒たちは相当肝が据わっているんだなということを実感させられる。

 だが俺の場合はどうやらただ視線を向けられるだけでは済まされないようだ。

「あいつは確か、例の闇の一族の……」

「バウラさまのあの魔法の後とはかわいそうだな」

「でもあいつは一応貴族の当主だったんだろ。なら相当魔力があるんじゃないのか?」

「何言ってんだよ。やつは毎回遠征の時に一人家で怯えているそうだ。そんな奴に魔力があるわけないだろ」

 などと当たり障りのない噂が耳に流れ込んでくる。

 だが今の俺にはどうでもいい話だ。

 やるべきことは決まっている。

「それではユーリ・アルスレアさん。試験を開始してください」

 先生から開始の合図が鳴り響く。

 それと同時に俺は特に目を瞑るようなこともなく、ノータイムで人差し指を前に出してそこから細長い針のような水を生み出し、それを魔石めがけて飛ばした。

 そして命中すると同時に水しぶきが上がることもなく、俺の放った水は消え去った。

 その光景に嘲笑という次元を超えて、ただ唖然とする生徒たち。

 一瞬だがそれが永遠とも思えるほど静まり返る会場。

 まあそうなるのも無理はない。

 今日見た魔法の中ではもっとも覇気がなく、もっとも威力が低く、もっとも褒めるべき点がない魔法。

 ただ魔法を視覚的に見ている人であればそう見えるのも当然だ。

 そしてしばらくして最初に声を上げたのはバウラだった。

「はっはっはっは、なんだその腑抜けた魔法は」

 そう言いながらバウラは俺に直接声が届くところまでやってきた。

「そんな魔法しか使えないのに俺の勝負を引き受けたのか?全く馬鹿な護衛がいたもんだな!」

 嘲笑いながらバウラは言葉を発する。

 どうやらバウラは俺を罵るために近くまでやってきたようだ。

 さらにバウラは続ける。

「話にならん。俺にはお前の魔法など微弱すぎて目に映らなかったぞ。俺と勝負するのであれば最低限のもっと王道な迫力のある魔法を見せてほしいものだな。はっはっはっは!」

 どうやら勝負が決したと思っているのか、バウラは俺に対して言いたい放題だ。

 だがそろそろ現実を見せてあげるとしよう。

「迫力のある魔法が王道なのか?」

 俺はバウラに問いかける。

「当然だろ!より迫力であれば、周りにすごい魔法だと認められるし敵の威嚇にもなる」

 バウラは至極当然のように生き生きと答える。

「周りにすごい魔法だと認められて何になるんだ?」

「何って……それは」

 ついにバウラは俺の質問に口ごもる。

 構わず俺は続ける。

「敵に威嚇してどうするんだ?」

「そ、それは相手をひるませるためだ!」

 次の質問は答えられる自信があったのか、バウラはさっきの質問などなかったかのように大きな声で答えを言い放った。

「相手をひるませるなんてナンセンスだろ」

「な、なんだと。じゃあお前はどうやって戦うんだよ!そんな脆弱な魔法で!」

 隙あればバウラは必死に俺を言葉陥れようとする。

 不思議なことに現状バウラの方が明らかに俺よりもすごい魔法の使い手のように見えるのに焦っているのもまたバウラ。

 俺はバウラの言うことなど完全に無視して、話を進めるために話題を変える。

「それにお前さっき俺の魔法が微弱すぎて見えないと言ったな」

「い、言ったがそれがなんだ!俺は事実を言っただけのことだ」

 俺が何を話しても、バウラはむきになって言い返してくる。

 だがただ感情的に言葉発せば、それが墓穴を掘ることになることは極めて高い。

 例えば今回のように。

「それが事実だというのならおかしいのはむしろ俺の魔法が見えないお前の目のようだな」

「な、なんだと!」

 侮辱されたことが納得いかないのか、バウラは怒りの顔をあらわにした。

 だがそろそろネタばらしといこうか。

「バウラ。魔石を見てみろ」

「魔石だと!いったいなんのために――――――」

「いいから黙って見てみろ」

 またもやバウラのくだらない話が始まりそうだったので、俺はそれを遮り、強制的にバウラ、そして周りの生徒にも聞こえるように大きな声で魔石に視線を誘導した。

 バウラや周りの生徒たちは言われた通り魔石を見た。

 するとある異変に気付いたのかバウラは思わず口を開いた。

「ま、まさか……魔石にひびが入ってる、だと」

 ようやく気付いたようだ。

 だがもうひびどころの話ではない。

「いや、もうすぐだ」

「な、なにがだ!」

 俺の意味深な発言にバウラが気を取られていると、どこかからバリンと何かが割れる音がした。

「ま、まさか……」

 バウラが恐る恐る振り返ると、そこには見事に割れた魔石がそこにはあった。

 バウラはもちろん、周りで見ている生徒やゼルドさまとメリルさま、さらには教師陣までもが驚きを隠せないような表情をしている。

 俺は驚愕の表情が隠せていないバウラを尻目に口を開く。

「魔石を壊せるということは俺の魔法の方が全てにおいてお前の魔法よりも優れているということ。迫力などといった人によって意見が変わるようなものは魔法には不要なんだよ」

 俺は力が抜け、手をついて倒れこんだバウラを見て試験会場を去った。


 その後魔法勝負は俺の勝ちということになり、魔法技能試験は終わりを迎えた。

 「それにしてもどうして君のあんな細長い水魔法なんかで魔石を割ることができたんだい?」

 どうやら余程そのことが気になったのか、帰り道に三人きりになるとすぐにゼルドさまは質問してきた。

 横を見ると、メリルさまもそのことがとても気になるような表情をしてこちらの顔を覗いている。

「むしろ細長いことが重要なんですよ。今日の試験で他の生徒たちがやっていたように普通の人はより大きい魔法の方が威力が出ると考えますよね。現にバウラの巨大な炎にすごい盛り上がりを見せていました」

 ゼルドさまの相槌を見て、俺は話を続ける。

「でも実際は違います。確かに大きい魔法は範囲が広いという点では優秀でしょう。でも単体相手ならむしろ小さい魔法に多くの魔力を使った方がより強度で秘められた威力も高い魔法を放つことができます。現に俺がすぐに小さい魔法を生成して、それを放って魔石を壊せたように」

「その説明だと小さい魔法に多くの魔力を込めれば、誰だってさっきの魔石を壊せるってことかい?」

 ゼルドさまは当然引っかかる点を質問してくる。

「いえ、魔力を込めるといってもそれには莫大な魔力が必要です。おそらく今日の試験を受けた中では俺、ゼルドさま、メリルさま、バウラ、あとは闇魔法を使ったロノアぐらいしかできる人はいないと思います」

「じゃあ私にも魔石を割れるってことかしら!」

 話を聞いていたメリルさまが期待の眼差しで俺を見てくる。

「あくまでもできるようになる人っていう話ですよ。今のままではゼルドさまもメリルさまも魔石を割ることはできないと思います。二人ともわざわざ小さい魔法に魔力を込める訓練などしてきてないでしょうから」

 そう言うとメリルさまは、

「た、確かにそうね……」

 と落胆する表情を見せた。

「落ち込む必要はありませんよ。これから練習すればいずれできるようになります。二人が望むのであれば俺は全力で手伝いますよ」

 そう言うと、二人から二つ返事でそれをお願いされた。


「それにしてもユーリくんと一緒にいると楽しいね」

 ゼルドさまがふと呟いた。

 さらにゼルドさまは続ける。

「君と一緒にいると新しいことをたくさん知ることができる。ああ、明日の剣術試験も楽しみだ」

 楽しそうな顔で話をするゼルドさまを見て、

「俺も楽しみです」

 と俺は言葉を返した。


 こうして波乱万丈な魔法技能試験は終わりを迎え、次は剣術技能試験が始まるのであった。



 






 



 

 

 

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