第11話 魔法技能試験③

「あれは光魔法か⁉」

「すげえー!初めて見た!」

「しかもすごい威力だな」

「さすがメリル王女だ!」

 メリルさまが光魔法を放ったことで、それを観戦していた生徒たちは魔法科剣術科に限らず、大盛り上がりを見せていた。

 まあ国の王女が希少な光魔法を放ったのだから盛り上がらない方がおかしい話なわけなのだが、とはいえメリルさまは試験前に俺に言い放ったことを有言実行してみせた。

 その実行力には俺も感心せざるを得ない。

 しばらくすると、メリルさまはやってやったと言わんばかりの誇らしげな顔で俺たちのところへ帰ってきた。

「どうだったユーリ!私の光魔法は?」

 早く感想を聞きたいと言わんばかりな口調で俺に質問を迫ってきた。

「驚きましたよ。まさか光魔法が使えるとは思ってもいなかったので……俺はてっきり風魔法を使うものだと思ってました」

「私も最初は風魔法を使おうと思っていたのよ。でもロノアさんの闇魔法を見て私の今の全力を試験にぶつけてみたいって思ったの。それにこれまでと同じように光魔法を公の場で隠したままじゃ、この先もいろいろと苦労するだろうなと思ってね。そんな苦労するくらいならもういっそ光魔法を使っちゃえという考えに至って光魔法を使うことを決めたのよ」

「そうですか。でもメリルさまが決めたことなのであれば俺はその選択を尊重しますよ」

「ふふっ、ありがと」

 実際に会話してみると、メリルさまからは憑き物が落ちたようなそんな印象を受けた。

 全体的に気楽さがあると感じるのと同時に、光魔法を放つ前と比べて表情も爽やかになったように見える。

「でもこれからの生活は今以上に気を付けないといけないよ。なにせメリルは光魔法が使えるということを知られてしまったわけなんだからね。きっとこれまで以上にメリルを狙うような輩が増えるだろう」

「わ、分かっているわよ」

 悪い意味で言えば弛緩しているようなメリルさまの様子を見かねたのか、ゼルドさまは現実を突きつけた。

 ゼルドさまからの言葉を聞き、メリルさまは一気にたじろぐような表情に変わった。

「でもまあ、僕もユーリくんもいるからきっと大丈夫だと思うけどね」

「ええ、俺もメリルさまと一緒にいるときは誰が現れようとも必ず護衛して見せますから」

 そんなたじろぐメリルさまを見て、俺とゼルドさまは改めて護衛するということを宣言した。

「なら安心ね!兄さま、それにユーリ。二人ともこれからもよろしくね」

 そんな俺たちの言葉を聞いて安心したのか、メリルさまは笑顔で俺たちの言葉に返すのだった。

 

 それから順調に1組の生徒の試験は進んでいった。

 メリルさまが場を盛り上げ、明るくしたおかげもあってか1組の生徒はみなリラックスした状態で試験を受けているように見受けられた。

 そのため1組の生徒たちはロノア・キャルリアの闇魔法には及ばないまでも、2組の生徒たちと比べるとなかなかいい魔法が使えていると素直に思った。

 そしてついにメリルさまとは別のもう一人の注目株であるゼルドさまの出番が回ってきた。

「そろそろ僕は行くよ」

「頑張ってください」

「私があれだけ盛り上げたのだから、兄さまもしっかりやりなさいよ」

 俺とメリルさまからの激励の言葉にゼルドさまは背を向けながら軽く手を挙げて答え、試験会場へと向かった。

 

 そしてゼルドさまが試験会場に姿を現すと、観戦している生徒たちはメリルさまが会場入りしたときと同じくらいのなかなかにすごい盛り上がりをみせた。

「確かゼルドさまは土の適性を持っているんでしたっけ?」

「ええそうよ」

「もしやメリルさまと同じく光魔法を使ったりして」

 俺がちょっとした冗談を言うと、メリルさまはまじめな顔で答えた。

「まさか、兄さまはずっと土魔法一本よ。でも一本だからこそ、それだけ子供のころから長い時間をかけて極めてきた。あなたと同じようにね」

 そう言いメリルさまは俺の目を見た。さらにメリルさまは続ける。

「だからきっちりと見てなさい。きっとすごい魔法を見せてくれるはずよ」

「分かりました」

 そう言って俺はメリルさまの言葉に頭をコクンとして頷いた。

 メリルさまの言う通りゼルドさまが昔から土魔法を極めるために日々努力していていたことは俺も知っている。

 だが妹であるメリルさまは俺より身近に、そして長い間ゼルドさまが日々切磋琢磨する光景を見ていた。

 だからこそメリルさまは2年ぶりに再開した俺に見せたいのだろう。

 兄の成長を。兄の努力の結晶を。

 そんなメリルさまの真剣な眼差しを受け、俺はゼルドさまが魔法を放つのを静かに待つことに決めた。


「それではゼルド・ユーレシスさま。試験を開始してください」

 先生からの合図がかかり、ついにゼルドさまの試験が始まった。

 そして先生の合図とともにゼルドさまは地面に手を置いた。

 基本的に土魔法を使う魔法士は地面を使うか、自分の魔力で土や石、岩などを生み出してそれを使うかの二パターンが存在する。

 ちなみに土魔法で地面を扱うのは非常に難しく、土魔法使いのビギナーは戦闘のとき石や岩を生み出し、それを飛ばして攻撃するのが一般的だ。

 現にこれまで試験を受けた土の適性を持っている生徒たちはみな石や岩を生み出し、魔石めがけて飛ばしており、一番目を引いた生徒でも大きな岩を一つ生み出して飛ばすのが精いっぱいだったと記憶している。

 しかし地面に手を置くゼルドさまのその構えは明らかに石や岩を生み出して飛ばそうとしている人の構えとはまるで違う。

 とはいえこの試験は魔石めがけて魔法を使用するというものであるので、地面を利用してもとても何かができるとは思えない。

 なのでこの場合はむしろ素直に石や岩を生み出して飛ばしたほうが試験の受け方としては理にかなっていると言える。

 いったいゼルドさまはこれから何をしようというのだろうか。

 そんなことを考えながら、ゼルドさまの動きに注目しているとついに地面から手を離した。

 それでは今までの動きはいったい……そう思ったときだった。

 急に地面が動き出した。

 そして徐々に抉れていき、ついは地面の一部、つまり大きな土の塊が地面と離れ、宙に浮き始めた。

 ちなみにこの試験会場の地面は土が相当強く固まっているような硬い地面であったので、そのような土を地面から抉り出し、さらにはそれを宙に浮かせているのはなかなかに信じられない光景だった。

 少なくても学生の域を超えているのだけは確かだ。

 さらにゼルドさまは宙に浮かせた地面の塊を分解させて小さいが相当頑丈そうな岩を量産していった。

 そしてあっという間にさっきまでゼルドさまの前に浮かんでいた不恰好な地面の破片が何十何百もの鋭く、頑丈でコンパクトな岩に変貌を遂げ、ぐるぐるとゼルドさまの周りを飛び回っていた。

「すごい……」

 俺はその光景に思わず言葉を漏らさずにはいられなかった。

 そしてゼルドさまが右手を前に倒すと全ての浮かんでいた岩は魔石めがけてすごいスピードで飛んで行った。

 そして魔石と作り出した岩がぶつかるたびにものすごい音が鳴り響いた。

 土煙がひどく、全ての岩が魔石とぶつかった後はどうなっているのか状況がよく分からなかった。

 だが俺はこの光景を見ながらふと思った。

 俺が学園で一番欲しかったものはもうすでに一番近くにあったのかもしれない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

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