第10話 魔法技能試験②

 剣術科全員の魔法技能試験が終わり、次に魔法科である2組の試験が始まった。

 そして先程2組の半数ほどの生徒が試験をやり終えたのだが、俺から見るとどうしても見応えのない魔法が続いていた。

 確かに威力も工夫も剣術科の生徒たちの魔法のレベルと比べると、格段に上がってはいるのだが、剣術科最後に試験を受けたロノアという生徒の魔法と比べるとどうしても劣っていると言わざるを得なかった。

 試験を待っている生徒たちも先程の闇魔法を見たせいか、どこか自信なさげな表情をしているのが見て取れる。

 この魔法科の生徒全体に流れているどんよりとした空気を思わずはっとさせるような魔法で誰か変えてはくれないだろうか。

 そんな俺の期待とは裏腹に、あろうことか2組の生徒全員が試験を終えてしまった。

「2組の生徒たちは誰もロノアというたった一人の少女に勝てないのかよ……」

 魔法科の一クラス全員が一人の剣術科の少女に誰も勝てないという異常事態に、俺は思わず声を漏らした。

 この現状を考えると、俺はともかくとしてロノア以上の魔法を使える生徒が果たして1組に何人いるだろうか。

 俺がそのような思考を巡らしていると、突然隣に座っていたメリルさまが立ちあがった。

「とうとう私の出番が来たわね」

「もしかしてメリルさまの学籍番号は一番初めなのですか?」

「そうよ」

 どうやら1組のトップバッターはメリルさまらしい。

 だが先程と変わらずで、魔法科全体を流れる空気は重いままで変わっていない。

 確かメリルさまは風の適性を持っていたと思うが、この空気を一刀両断できるほどの魔法を今のメリルさまは使いこなすことができるのだろうか。

 昔のメリルさまならともかく今のメリルさまの実力は未知数なため、俺はメリルさまがどのような魔法を使うのか想像でしか考えることができない。

 そんな俺の懸念がメリルさまに伝わったのか、メリルさまは余裕の表情を浮かべてこう言い放つのだった。

「ユーリ、しっかりと私の魔法を見てなさい。少なくても今の空気が変わるぐらいには面白いものを見せてあげるわ!」

 そう言ってメリルさまは俺たちに背を向けて、さっさと試験会場に向かって行ってしまった。

「ゼルドさま、いったいメリルさまは何をするつもりなのでしょうか?」

 俺が話を振るとゼルドさまは困ったような、だけどなんだか納得しているような表情で口を開いた。

「きっとメリルは覚悟を決めたのだろう」

「覚悟?」

 俺にはゼルド様が言ったその単語がこの場面でいったいどういう意味を持つのか、いまいちピンとはこなかった。

「メリルを見ていればわかるさ。きっと君は今から新しいメリルを……いや本当のメリルを見ることになる」

「本当の……メリルさま」

 いったいこれから俺は何を見ることになるのだろうか。

 俺は期待を膨らませながら、メリルさまの試験が始まるのを静かに待った。


 そして数分後、メリルさまが試験会場に姿を現した。

 観戦している生徒たちは「メリルさまがきた!」「相変わらず美しい」「いったいどんな魔法をお使いになられるのかしら」などと盛り上がりを見せていた。

 ある意味魔法とは違った別のやり方で魔法科の生徒たちの空気を変えてしまったなとふと思ったが、そんなことよりも今はメリルさまの使う魔法に注目を置くことにした。

「それではメリル・アルスレアさま。試験を開始してください」

 先生が開始の合図を送ると同時にメリルさまは目を瞑り、右手を前に出した。

 きっと今から解き放つ魔法を構築しているのだろう。

 通常ならこのままこれまでの試験を受けた生徒と同様に放たれる魔法だけを見るのだが、メリルさまの宣言とゼルドさまの意味深な発言を受けて俺はある欲求が生まれていた。

 それはメリルさまの魔法構築の過程を見てみたいという欲求。

 しかしメリルさま一人だけの魔法構築の過程を見るのはどうかと思う自分もまた心のどこかにいた。

 そんな葛藤を頭の中で繰り広げながら、集中しているメリルさまの様子を見ているとふとさっきのロノア・キャルリアとはまた違った違和感が俺を襲った。

 しかも今回の違和感の正体はさっきよりも鮮明だった。


 魔力の雰囲気が、俺に似ている。


 当然自分に似ているのだから、違和感の原因が鮮明に分かるのは当然のことであった。

 しかしそんな違和感がトリガーとなった。

 より一層メリルさまの魔法構築の過程が見たいという欲求は強さを増し、ついにはその欲求を抑えることができず、俺は自身の両目にとある魔法をかけてメリルさまの魔力の流れを見た。

 するとメリルさまが言った通り驚くべきものが俺の目に飛び込んできた。

「あれは!?……光魔法」

 あまりに衝撃的であったために、俺は思わず声を漏らしてしまった。

「ユーリくんは魔法構築の段階で、もうメリルが放とうとしている魔法が分かったのかい?」

 それを聞いたゼルドさまは驚いた様子で口を開いた。

「いえ、正確には放つ魔法までは分かりませんが気配を感じたのです」

「気配?」

「ええ、興味本位でメリルさまの魔法構築の流れを見たところ、その流れが光魔法の気配を放っていたという話です」

 俺が説明すると、ゼルドさまは少し微笑むような表情に変わった。

「やっぱり君はすごいな。その説明を聞いて、いったいどこからツッコめばいいのやら」

「そんなにツッコまれるようなことを言った認識はないのですが」

「ふふっ、まあいいさ。それよりもメリルの話に戻ろう。これまでメリルは公の場では光魔法を使うことを避けてきた。だが仮にメリルが公の場で光魔法を使ってしまったら。そうなると起こりうること。君ならわかるよね」

「当然わかっています」

「それなら心配なさそうだね。これからもメリルを頼むよ」

「ええ」

 きっとこの話は護衛に関する話だ。

 光魔法は闇魔法よりもさらに希少性は高く、光の適性をもって生まれてくる人のほとんどは王族だと言われている。

 さらにその王族の中でも光の適性を持つ人はまれだ。

 王族というだけでも賊などに狙われる口実は十分だというのに、今回の試験で光魔法を披露したメリルさまはさらに狙われやすい人物となることだろう。


 そんな俺の心中など知るはずもないメリルさまはついに魔法構築が終わり、俺が予想した通り強大な光輝く魔法をどこかスッキリとした笑顔で魔石に打ち込むのだった。

 





 

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