第9話 魔法技能試験①

 とうとう魔法技能試験当日がやってきた。

 試験のやり方は至ってシンプルで配置された特殊な魔石に向かって、一人一人が今自分に出せる全力の魔法をぶつけるというもの。

 話によるとその特殊な魔石に向かって魔法を放つことで、威力や魔法の精密さなどの様々な情報を得ることができるらしい。

 だがメリルさまと約束した俺に対する根も葉もない噂を消すためには、その試験の結果そのものはさほど重要ではない。

 もっとも重要なのはその試験をやる環境。

 俺は自分の魔法を大勢に見せつける必要がある。

 もしも教師数人と生徒一人一人の試験であったならば俺の作戦はうまくいかないのでそこだけが唯一懸念していたことではあったが、話によると他人の使う魔法を見ることで各々が刺激を受けてほしいという教師陣の考えから学年全員が見られる場所で一人一人試験を行うということなのでそこは問題なさそうだ。

「これより魔法技能試験を始めます。それでは剣術科である4組の学籍番号が若い生徒から順番に始めてください」

 先生の合図から魔法技能試験が始まった。

 ちなみにこの学園は魔法学園という名前だけあって、剣術科の生徒も全員魔法を使うことができる。

 しかし魔法の威力となるとどうしても魔法科の生徒には劣る。

 今回の試験で使用している魔石は余程異常なほどの威力の魔法を受けない限り壊れることはないが、稀に壊す生徒も現れるため、まず魔石を壊すほどの威力の魔法は使えないであろう剣術科の生徒から順に試験を行っていくというのが毎年行われるこの試験の掟らしい。

 この学年は1、2組が魔法科、3、4組が剣術科となっておりこの試験は4、3、2、1組の順番に行われる。

 そして俺の学籍番号は1組の一番最後。

 つまり俺がこの試験における大トリということ。

 なんて都合がいいのだろうか。

 思わずそう言わずにはいられないが、ひとまず俺の試験は当分先だ。

 とりあえずは教師陣の考えとやらに則って、他の人の魔法をありがたく拝見させてもらうことにしよう。


「あいつの魔法の威力、剣術科の割にはなかなかだな!」

「だが俺の魔力量の方が多いだろうからあんな魔法よりもっと強大な魔法を俺の番がきたら見せてやるよ!」

 試験が始まり、生徒たちはなかなかの盛り上がりを見せていた。

 だが……

「なーんかいまいちな魔法ばかりね」

 試験が始まり剣術科の生徒数人がやり終えたところで、隣に座っていたメリルさまがそう呟いた。

「確かに特別迫力があったり工夫されていると感じさせる魔法を使う生徒は今のところいませんね」

 今までの生徒は良くも悪くもみな自分の持つ魔力をすべて魔法に込めて魔石にめがけて解き放っていた。

 だがそんな魔法の使い方はどうしても俺の目から見ると無駄が多いと言わざるを得ない。

 現に全魔力を使った生徒は魔法を解き放ったあと、皆だらしなくその場に倒れこんだりしている有様だった。

「仕方ないさ。魔法は使い方の知識を持って初めて本当の全力というものを扱えるようになる。剣術科に来ている生徒はきっとこれまで剣術にばかり特化して生きてきたのだろうから魔法に関する知識が乏しいのはしょうがないんじゃないかな」

「剣士こそ魔法の使い方が重要だというのにそんなのも分かってないってこの学園に来た生徒たちは大丈夫なんですかね?」

 ゼルドさまの話を聞いて、俺は思わず本音を漏らした。

「確かに君からすればそう思うのも当然だろう。僕からすればまだその感覚を理解できるまでには至ってないけど……ともかくこの先剣術科の生徒が試験をする間はこういう感じの魔法がひたすら続くと思うよ」

 確かにゼルドさまの言う通り魔法に関する知識がない生徒が続く間は、どうしても無駄の多い魔法を見続けることになる可能性が高いだろう。

 そしてゼルドさまの予想は悲しいことにもろに当たるという形になってしまい、周りは終始安定した盛り上がりを見せているものの、俺たち三人は試験に対する興味が完全に消失しつつある状態へと陥っていた。

 そしてついに剣術科最後の生徒の出番が回ってきた。

「それではロノア・キャルリアさん。試験を開始してください」

 教師が剣術科最後の生徒に魔法を放つよう合図を送った。

 その時はこれさえ終わればやっと剣術科の生徒全員の試験が終わり、魔法科の生徒の試験がようやく始まるというのが俺たち三人の正直な心情であり、おそらく剣術科最後の生徒などまるで眼中になかったと思う。

 しかしその認識はその人が魔法を使おうとしたときに改めさせられることとなった。

「あれ?この人、前までの剣術科の人とは魔法の構築の仕方がまるで違う」

 俺は感じた違和感を口に出した。

「私にもそう見えるわ。闇雲に自分の全魔力を魔法に込めていた他の剣術科の生徒とはまるで違う」

「確かにそうだね。自分の魔力の流れをコントロールして、より緻密に威力が高まるように魔法を構築しているように見える」

 どうやらメリルさまもゼルドさまも俺と同じようなことを感じていた。


「なんか最後の女、魔法放つの遅くないか?」

「もしかして剣術ばかりやってたせいで魔法の使い方を忘れたんだったりして!」

「ばっか、そんなわけないだろ。入学試験の時に全員が魔法の試験を受けてるわけなんだから。単純にこれまでのやつらが剣術科のくせに思ったより威力が出てたから怖気づいてるんじゃねーの?」

「ははっ、違いねえな」

 

 などと生徒たちがところどころで言いたい放題言っているのが聞こえてきた。

「本当にこの学校大丈夫かよ……」

 俺は純粋にそう思った。

 当然威力の高い魔法を放つにはそれだけ長い間集中して魔法を構築する作業が必要になってくる。

 それなのにそれすら理解していない人がいるとは……

「実際これから本格的に魔法の勉強をしていく人がほとんどなんだろうからしょうがないんじゃないかな」

「確かにそうですね」

 ゼルドさまの話を聞いて、俺たちみたいにすでに基本的な魔法技術を持っている人はこの学年にはあまりいないということに認識を改めることにした。

「ほら、そろそろ彼女の魔法が構築し終わりそうだよ」

 俺は視線を現在進行形で魔法を構築しているロノア・キャルリアという名の生徒に戻した。

 そしてその気配を見て俺はさらに違和感を覚えた。

「セリシアに、似てる?」

 まさか……と思ったが俺の予想した通りのことが次の瞬間起こった。

 魔石めがけて深い闇の色をした魔法が飛んでいき、魔石に命中するとこれまでの剣術科の生徒とは比べ物にならないほどの爆風が引き起こされた。

「まさか!」

「闇……魔法」

 メリルさまとゼルドさまの反応から、二人とも驚きを隠せない様子であるのが見て取れた。

 まさか同じ学年で闇魔法を使うことができる生徒が存在したとは……

 それも剣術科。

 俺はふと胸が高鳴っているのを感じた。

 つまらない学園だなと正直入学してから思っている節がどこかあった。

 でも俺はその認識をすでに改めていた。

 

 これからが楽しみだな。


 今は素直にそう思えた。

 

 こうして剣術科の魔法技能試験は俺に思わぬギフトを残して終わりを迎えた。

 



 




 

 

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