第8話 闇の一族のハミダシモノ

 今日は学園二日目。

 俺たちは昨日と変わらず一番後ろの窓側の席に座っていた。

 そして今から初の授業だ。

 魔法理論基礎という講義名らしいがいったいどんな内容なのか楽しみだ。

 講義開始時刻と同時にシーナ先生が教室に入ってきて教壇の前に立った。

「今から魔法理論基礎の講義を始めます。まずは教科書の2ページを開いてください」

 こうして初めての講義が始まった。

 内容は主に世間一般的に認識されている魔法の種類や特徴について。

 しかし教科書を一通り眺めたり、講義を聞く限り俺の知らない知識は無さそうだ。

 とはいえ今は講義を聞く以外にすることがないので俺は頬杖をつきながらシーナ先生の話に耳を傾けた。

「まず魔法には6つの属性があります。火、水、風、土、光、闇の6属性。そのうち魔法を使える人は火、水、風、土のいずれかの属性を必ず有しています。ここにいるみなさんもいずれかの属性を有していることでしょう。これが世間一般に言われる基本4属性です」

 シーナ先生は魔法知識を淡々と説明していく。

「そして残りの光属性と闇属性。この二つのいずれかの属性を持つ人はとても希少だと言われています。この学年には200人もの生徒がいますが光か闇の属性を有している人は一人いるかいないかぐらいの割合でしょう」

 その説明を受けてこのクラスの生徒の何人かが意図的に俺に視線を送っているのが分かった。


 闇の一族のハミダシモノ。

 これが俺の名前のほかにあるもう一つの呼び名。


 確かにそう言われている動機は俺が戦の遠征に参加してないのが少なからず関係しており、今はそっちが主流になりつつある。

 だから昨日の夜中にメリルさまと話した時もそれが原因で根も葉もない噂をされているという旨を話した。

 だが最初にあだ名で呼ばれ始めた時の動機は全く違う。

 しかしそれを説明するにはまずなぜ俺たちの家が闇の一族と言われているか説明する必要があるだろう。


 もともとアルスレア家は俺が生まれる少し前まではごく一般的な平民の家だったらしい。

 だが俺たちの家にはとある特徴があった。

 それはアルスレアの血筋を持つ人はみな闇属性をその身に有しているということ。

 とはいえさっきシーナ先生が説明した通り光属性と闇属性はとても貴重であり、それを身に有していることが知られれば当然国から目を付けられ、二度と普通の生活には戻れない。

 そこでアルスレア家は闇属性を有していることを隠しながら生活することを決め、ここ数年までうまく暮らしてきた。

 しかしあるとき突然事件が起きる。

 それはアルスレア地方になる前のその土地を治めていた当主が暴走を始めたことだ。

 高すぎる税金の要求、女の拉致、監禁などやりたい放題。

 そんな当主の愚行に耐えきれなくなった平民は一致団結してついにはその当時の当主の家と戦うことを決めた。

 そこでリーダーとなったのは俺の家であるアルスレア家であった。

 話によると俺の父親と母親は自分たちが闇魔法を使えることを一致団結した平民全員に伝えた。

 そして実際に闇魔法がいかに強力なものかを見せた。

 その結果集まった平民のみんなから推薦され、リーダーになったというのが流れらしい。

 そしてその後無事当時の当主の家を滅ぼし、その旨を王に報告した。

 そこからなんやかんやあってアルスレア家は貴族となり、その滅ぼした家が治めていた土地はすべてアルスレア家が引き継いで治めることとなった。

 そしてその結果、今のアルスレア地方が生まれたというのが祖父のルドウィンから聞いた話の全てだ。

 ちなみにそのことは他の地方を治める貴族にも伝わり、強力な闇魔法を使う家ということから一部の貴族がアルスレア家を闇の一族と呼ぶようになりそれが広がって今に至るというわけだ。

 

 これがアルスレア家が闇の一族と呼ばれるようになった過程だ。

 そして本題に戻るが俺が最初に闇の一族のハミダシモノと呼ばれるようになった動機は何か。

 それは至ってシンプル。


 アルスレア家の血筋の中で俺だけが闇魔法を使えないからだ。


 だがこのことは幼少期に少し広まっただけにとどまり、なぜかあまり広がらなかった。

 まあ広がろうと広がらなかろうと俺にはどっちでもいい。

 なぜなら俺は闇魔法が使えないことに対して特別何か思っていることはないからだ。

 それに俺がアルスレア家のハミダシモノだということは他でもない俺が一番自覚しているのだから。



 その後も俺にとって特に有益な内容がないまま、初めての講義は終わりを迎えた。

 休み時間はゼルドさまもメリルさまも引っ張りだこなので俺は机に座って一人で読書をして時間を過ごす。

 そんな時間を繰り返しながら授業開始初日の午前中は過ごし、昼休みに突入した。

「ねえユーリ、今日のお昼は一緒に食べない?」

「いいですよ」

「じゃあ私についてきた」

 メリルさまに誘われたため、昼休みはメリルさまと二人で過ごすこととなった。

 ちなみにゼルドさまはクラスメイトたちと昼食を食べるらしい。

 言われた通りメリルさまについていくと、連れてこられたのはとある校舎の屋上だった。

「いい場所でしょ!人がいなくて眺めもいいわ」

「確かにそうですがよくこんな場所を知っていましたね」

「昔子供の時に来たときに見つけたのよ。それよりも早く食べましょう」


 そうして俺たちが食べ終わるとメリルさまの表情が険しい表情に切り替わり口を開いた。

「それにしてもあなたに対する視線や噂は相変わらずひどいわね。本当に昨日の夜に言った通りあなた一人の力でなんとかできるの?」

 メリルさまはどうしても納得がいかないような視線を俺に向けてくる。

「そんなに不安ですか?」

「べ、別にそんなことはないけれど」

直接メリルさまに心情のほどを伺うと、素直にはなれないが心配を隠すこともまたできないようなそんな反応が返ってきた。

「しょうがないですね。では一つだけ教えましょう。今週末にある魔法技能試験と剣術技能試験を使います」

「魔法技能試験と剣術技能試験?」

 いきなり現れた二つの単語にメリルさまは困惑する様子を見せた。

「まあその日が来るのを待っていてください。必ず噂とやらをすべて吹き飛ばして見せますよ」

 俺はメリルさまを少しでも安心されるように柔らかく、余裕のある口調そう言った。

 それにどのみちこの二つの技能試験で俺は手を抜くつもりなどもとよりなかった。

 なにせ俺は他の人と力を比較することがこの学園に入学することを決めた主な一つの要因なのだから。

 そしてこの程度の根も葉もない噂一つ潰せないようでは俺の力は所詮その程度だったと思い知らされるだけのこと。

 こうして俺は技能試験一日目の魔法技能試験の日を迎えるのであった。

 


 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 




 

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