第6話 はじまる学園生活
バウラ・キャルレイという思わぬ来客があったものの、その後は特に誰かが俺たちに声をかけてくることもなく続々と教室にはクラスメイトと思わしき人が増えていった。
そして予定通りの時間帯になると教壇の前に一人の小柄な女性がやってきて話し始めた。
「教室を見るに全員揃ってそうですね。ではまず自己紹介から。私の名はシーナ・ノワーレア」
シーナ・ノワーレア……どこかで聞いたような。
俺はその名前をどこかで聞いた覚えはあるのだが具体的にいつどこで聞いたのか思い出すことができず、どこか釈然としない気分に陥っていた。
しかしそんなことは当然分かるはずもないシーナ先生は話を続ける。
「このクラスの担任を任されました。私個人としてはこの学園で魔法に関する研究をしています。この学園は卒業まで基本的に担任教師とクラスメイトは変わらないので長い付き合いになるかと思います。なので皆さん、今後ともよろしくお願いしますね」
そう言ってシーナ先生は俺たちに向けて一礼した。
それを見て俺たちもシーナ先生に向けて一礼する。
「それではまず今日の予定について説明します。今日は基本的に明日からの予定などを説明したり資料を配布したりして終わり次第解散とします。なのでこの学園の施設に興味がある人は解散した後に学園を見て回るといいでしょう。ではさっそく明日からの予定について説明していきます。明日は―――――」
その後シーナ先生は今週の予定や講義の時間割などの説明をしていった。
シーナ先生のことを俺はいつ耳にしたのか気にはなるが、それよりも今はシーナ先生の話の内容に注目を置いた。
そして俺が個人的に気になったのは今週の後半二日間を使って行われる魔法技能試験と剣術技能試験。
どうやら魔法科剣術科関係なく両学科とも両方の技能試験を行うらしい。
魔法技能試験は一日目。剣術技能試験は二日目だそうだ。
詳細は後日説明するらしいが俺がこの学園に来た一つの目的でもある『俺の現時点での強さが同世代の人たちと比べてどのくらいの強さか』を検証できそうな機会が早くも訪れたのだ。
俺は自分の胸が高鳴っているのを感じながら、その後の話に耳を傾けた。
シーナ先生の話が一通り終わると、最初に説明された通りそのまま今日は解散となった。
そして予想通りというべきか解散の合図と同時に俺たちはクラスメイトに囲まれた。
「まさかゼルドさまと同じクラスになれるなんて!これからよろしくお願いします!」
「それにしても直で見るゼルドさまめちゃくちゃかっこよくない!?」
「これから毎日同じ空間にいられるなんてわたくし未だに信じられませんわ!」
ゼルドさまは多くの女子に囲まれており、一人一人から自己紹介を受けてはそれに応じて一人一人丁寧に対応していた。
「メリルさまと同じクラスになれて俺、とても嬉しいです!」
「ていうか生のメリルさま肌は色白で髪もきれいで可愛すぎるだろ……」
「はぁ、結婚したい」
メリルさまはゼルドさまに反して多くの男子に囲まれており、当然メリルさまもゼルドさまと同様に話しかけられたり自己紹介された一人一人に対していつものおしとやかスタイルで丁寧に対応していた。
そして俺はというと視線を感じたり、噂話が聞こえたりはするものの、悲しいことに誰からも話しかけられないのでゼルドさまとメリルさまのクラスメイトとの会話に聞き耳を立ててずっとクラスメイトの顔と名前の把握作業に従事していた。
しかししばらくすると一人の女子生徒が俺に話しかけてきた。
「突然すみません、ユーリさま、ですよね?」
また冷やかしにでも来たのかと思いきやその女子生徒はなにやら緊張した面持ちに見えるため、そういったわけではなさそうだ。
「ああそうだが。何か用か?」
「いえ、大したことではないのですが……いままでアルスレア地方の治安を維持していただいていたのでその感謝をどうしても言いたくて……」
話を聞くにどうやらこの女子生徒はアルスレア地方出身らしい。
「別に感謝されるようなことは何もやってないぞ。それに治安維持など当主なのだからして当たり前だろ」
「それでもこれまで平和に暮らせて無事この学園に入学できたのです。だからありがとうございます!」
そう言ってその女子生徒は勢いよく俺に向けて頭を下げた。
「分かった。だから頭を上げてくれ。それに今俺たちはクラスメイトなんだ。だからそんなにかしこまらなくていいぞ」
「はい!これからもよろしくお願いします!」
そう言ってその女子生徒は俺たちから離れていった。
その後もこんな感じにアルスレア地方出身の生徒が何人か俺に話しかけてきた。
どうやら全員が全員、俺のことを見下しているわけではないらしい。
三十分ほどしてようやく俺たちの周りから人が消えたため、その後はすぐに校舎を出た。
「それにしても二人ともすごい人気ですね」
さっきの人の集まり具合や好意的な言葉のオンパレードを聞いて、俺は改めてこの二人が国民から慕われていることを実感していた。
「ずっと愛想を振りまくような人柄を演じているもの。逆にそれで人気がなかったら釣り合わないわ」
「僕も相手が欲してそうな言葉を察して好かれるように会話しているからね。王子という立場だから仕方ないけど」
俺の言葉に対して二人ともぐったりと疲れがたまっているような表情でそう答えた。
「なんだか二人ともたいへんそうですね」
「さすがにあんな大人数相手と短時間で会話したのは初めてでね」
「二人ともお疲れのようですし今日はもう解散にしましょうか」
「そうしてもらえると嬉しいよ」
それから俺たちは宿舎に直行し、それぞれの部屋に戻った。
俺はそこまで疲れがたまっているわけでもなかったため、特に睡眠をを取ることもなく深夜までずっと今日学園で配られた研究室のパンフレットだったり学園マップだったりを読み漁っていた。
そしてそろそろ寝ようかと思い立ったとき、ふと俺の部屋のインターホンの音が鳴った。
「こんな時間に誰だ?」
誰なのか見当がつかないなか扉を開けると、そこにはメリルさまが立っていた。
いきなりのことでいったい何の用なのか、俺には皆目見当がつかないのであった。
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