第2話 金髪の姫
「お待たせしました。お兄さま」
「時間通りなのだから問題ないさ」
「それで、この方は一体どなたなのでしょうか?」
そう言い、ゼルドさまと待ち合わせをしていたと思われる女性が俺に視線を向けてくる。
透き通るようなきれいな金髪と整った容貌、それにおしとやかな口調が相まってまだまともに話したわけでもないのにも関わらず、心臓が高鳴っているのを俺は感じた。
とはいえ相手が自分に視線を向けているわけにも関わらず、こちら側が目を逸らし続けるのは失礼だろう。
俺は心臓の高鳴りを無理やり鎮め、平常心を装いながらその女性と視線を合わせた。
本当に整った容姿だな、と顔を見合わせて改めて思う。
並大抵の人であればこの顔に見つめられれば、一瞬で一目惚れするだろうと思うほどに。
しかしふと違和感を覚える。
俺はこの人と出会ったことがあると直感的に思った。
でもこんなにきれいな金髪ロング姿でおしとやかな人にこれまでの生涯の中で出会った記憶が俺にはない。
ふと抱いた違和感について考えていると、先に女性の方が口を開いた。
「もしかして……ユーリ?」
いきなり女性が俺の名前を口に出した。
どうやらこの人は俺のことを知っているらしい。
ということは俺もこの人のことを知っている可能性が高い。
一体誰だと俺は過去に出会った人を思い出していく。
しかしなかなかこの人に該当しそうな人を思い出せない。
思い出すために四苦八苦していると、ふと女性が俺のことを「ユーリ」と呼び捨てにして俺の名前を呼んだことを思い出す。
これまで俺と出会った人はたいてい「ユーリ様」か「ユーリくん」、またはとあるあだ名で俺のことを呼んでいた。
だから俺を呼び捨てにする人はこれまで出会った人の中でも数少ない。
それにゼルドさまの知り合いともなると相当絞れるはず。
思考が加速していき、やがて俺は一番可能性の高い人にまでたどり着いた。
「もしかして……メリルさま?」
「そうだよ。彼女は僕の妹のメリル。彼はアルスレア家の当主だったユーリくん」
ゼルドさまは俺とメリルさまに向けてお互いのことを改めて紹介した。
「久しぶり!やっぱりユーリだったのね。最後に会ったのはいつだったかしら」
さっきのおしとやかな口調はどこかに消え、いい意味で言えば馴染みやすいような、悪い意味で言えば馴れ馴れしい口調に変わっていた。
「確か二年ほど前かと思います。それにしてもメリルさまは随分と変わりましたね。最初に見た時は容姿も雰囲気も変わっていて全く気づきませんでしたよ」
メリル・ユーレシス。
彼女はこの国の王女でありゼルドさまと同い年の妹だ。
昔の彼女は活発なおてんば娘という印象が強かったため、おしとやかな口調とはかけ離れた人であった。
さらに最後にあった二年前の時に髪はショートだったため、それも相まって最初に会ったときは誰だかすぐに分からなかったというわけだ。
「さすがにこの国の王女である以上、どうしても品が高く見える容姿や立ち振る舞いが必要だったから普段は仕方なくさっきのような口調で話すことを心掛けているのよ。最もユーリや兄さまのように私の本性を知っているような人の前ではさすがにやらないけれど。それともさっきのようなおしとやかな口調の方がユーリの好みだったかしら?」
そう言ってメリルさまはどこか挑発するような表情を見せた。
そんなメリルさまを見た俺は、どこか懐かしい感情が込みあがってきた。
おしとやかなメリルさまもいいかもしれないが、やっぱり俺は昔から見ているこの姿の方がどこか心地いい。
「どちらも魅力的でいいと思いますよ」
とはいえ自分の思っていることをそのまま話す必要はないため、俺は答えを濁した。
「ふん、相変わらずつまらない答えね。それにしても、あなたはあまり変わらないわね」
「そうですかね……自分としては変わったと思うのですが」
ゼルドさまと同じようにメリルさまからも俺のことはすぐに分かったと言われていしまった。
そんなに俺は分かりやすいのだろうか。
「確かに顔立ちとかは大人っぽくなって変わったかもしれないわ。でもあなたにはとある特徴があるからすぐに分かったのよ」
それを聞いて俺はふとさっきのゼルドさまとの会話を思い出した。
「もしかしてその特徴というのは目、でしょうか?」
そう言うとメリルさまの顔は一瞬硬直したように見えたが、気のせいだったのかすぐに口を開いた。
「違うわよ。あなたのその目のどこに特徴があるというの?」
「そ、そうですよね。いきなりすみません」
あまりに当然のように否定され、思わず謝罪してしまった。
ちらりとゼルドさまを見ると申し訳ない様子と呆れている様子が混ぜ合わさったような表情をしており、その表情をしている意図が俺にはわからなかった。
とはいえ今はメリルさまが言う俺の特徴というのが気になっているのでそちらに意識を向けることにする。
「では俺の特徴というのは具体的にどこなのでしょうか?」
「それは……ひ、秘密よ!あなたにわざわざ話す義理なんて私にはないわよね」
「それはまあそうですが」
「じゃあ言わなくてもいいじゃない」
ただ特徴を聞いただけで逆ギレされるなんてなんて理不尽な……
だが若干だが頬が赤くなっているのが気にかかる。
単純に怒っているからだろうか。
それに昔からこういったおてんばな性格にはなれているので今更何とも思わないが、別に特徴ぐらい話してくれても別にいいのではないだろうか。
本人が嫌がっているのでこれ以上深掘りするようなことはしないが、何か言いたくない特別な理由でもあるのだろうか。
「まあまあ二人とも落ち着いて」
ゼルドさまからの声を聞いて、俺は冷静さを取り戻した。
ずっと冷静でいたつもりではいたが、どうやらそうではなかったようだ。
メリルさまも少し言い過ぎたと我に返ったのか少しやるせない表情でゼルドさまの隣の席に座り、ちびちびとそこに置いてあったブラックコーヒーを飲み始めた。
「それにユーリくんはそんなことよりも気になることがあるよね」
「それは、まあ」
もちろんそれはこの二人、王子と王女がなぜこの宿舎にいるのかということだ。
「メリルも来たことだし、さっそく僕たちがどうしてこの宿舎で暮らすことになったのかその経緯について説明しよう。といってもそんな大それた理由があるわけではないんだけどね」
そう言ってゼルドさまとメリルさまがこの場所で暮らすことになった経緯について、語り始めるのであった。
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