第1話 引っ越し
「相変わらず賑やかな街だな、この場所は」
馬車の外から流れる景色を見て、思わずそう呟いた。
毎回来るたびにそう思わされるほど、この町の中はいつも多くの人々で賑わっている。
ここはユーレシス王国の首都ユーレシア。
ユーレシス魔法学園があるのはもちろんのこと、王族の住む王城などもこのユーレシアに建てられている。
しばらく外の景色を眺めて過ごしていると、なにやら学園らしき建物が見えてきた。
「ここがこれから俺が通うことになる学園か?」
「はい、ここがユーレシス魔法学園です」
「へえー、ここが」
馬車の御者に聞くにどうやらここがユーレシス魔法学園らしい。
確かに学園を横切る際にパッと見たところ、建物はどこか近未来さを感じるところがあり、建物の外装だけでも国内最高峰の学園と謳われるだけの風格があるように思えた。
あの学園でこれからの生活を過ごすことを考えると、どこかワクワクする気持ちが湧き出てくる。
いったいどんな生活を過ごすことになるのだろうか。
そんなことを考えていると、ふと馬車がピタリと動きを止めた。
「目的地にお着きになりましたよ」
御者からの声を聞き、俺は馬車から降りると目の前には四階建ての白を基調とした立派な建物がそこにはあった。
「ここがこれから俺が住むことになる宿か?」
「はい、そうでございます」
「外装だけ見るとなかなか立派じゃないか」
俺がその外装に感嘆していると御者が口を開いた。
「ではわたくしはこれで。建物の中に入れば管理人がいると思われますので、その方に話せばすぐにでも鍵がもらえるかと思います。また荷物なども今日中に届くと思うのでお忘れのないように」
「ああ、ここまで運んでくれてありがとう」
それから俺に一礼して御者は馬車に乗って帰っていった。
「さて、俺も宿に入りますか」
さっそく入り口から宿の中に入り、ロビー一面を見渡した。
「へえ、中も広くていいじゃないか」
前方には受付があり、右にはカフェテリア兼食堂のようなスペース、左にはソファーや机、椅子などがあるスペースになっていて、複数人で集まるときに利用できそうだ。
とはいえ今は管理人と話をするのが最優先だ。
そうして管理人のもとへ行き軽く自己紹介すると、一通り施設やマナーの説明を受けた後、御者の言ったとおりすぐに部屋の鍵を受け取ることができた。
さっそく階段で二階へ上がり自分の部屋の中に入ると、そこもなかなかの広さで俺一人だけでは広すぎると率直に思った。
それから届いた荷物を整理しているうちに、あっという間に日が暮れた。
「ひと段落したことだし、カフェテリアにでも行ってみるか」
空腹とはいかないものの何か軽食がしたいと思い、俺はさっきロビーで見た一階にあるカフェテリアに足を運んでみることにした。
そしてカフェテリアに入ると見覚えのある意外な人が一人でコーヒーを飲んでいた。
俺はその人に近づいて声をかける。
「すみません、もしかしてゼルドさま……ですか?」
そう俺が話しかけるとゼルドさまらしき人はじっと俺の顔を覗いたあと、なにか合点がいったのか顔を緩ませて口を開いた。
「そういう君は……もしかしてユーリくんかい?」
「ええそうです。お久しぶりです。ゼルドさま」
この人はゼルド・ユーレシス。
この国の王子でユーレシス王国の次期王となる予定の人である。
俺たちは幼いころから王族や貴族が集まるパーティー会場や宴会などの場でよく会っており、そのたびに一緒に遊んでいたため、ゼルドさまは王子ではあるがそれとは別に俺の仲のよい幼馴染でもあった。
「本当に久しぶりだね、ユーリくん。実に二年ぶりぐらいかな?」
「そうですね。でもゼルドさまのことはそのきれいな金髪を見ればすぐにわかりましたよ」
「そうかい。そういってくれるのは嬉しいけど真顔で言われるとなんだか照れるね」
実際ゼルドさまはそのきれいな金髪と整った容姿が相まって婚約したいと思っている女性は数知れずという話を聞いたことがある。
「でもそういうユーリくんも、顔を見れば僕はすぐに分かったよ」
「そうですかね。自分で言うのもなんですがゼルドさまの金髪のように目立った特徴が自分の容姿にあるとは思えないのですが」
俺自身ではそう思っていたものの、どうやらなにか特徴があるらしい。
「僕は君の目を見て、すぐにユーリくんだと確信したよ」
「目……ですか」
毎日当たり前のように自分の顔を鏡で見ているからだろうか。
言われてもあまりピンとこない。
「何を考えているのかまるで悟ることができない深く紅い瞳。僕は君の不気味だけどどこか惹きつけられるその目をとても魅力的だと思っているよ。もっともこのことはある人に言われて僕も気づいたわけなんだけどね」
「ある人……まあいいです。それよりもどうしてこのようなところにいるのですか?」
誰が俺の目を好きだと言ったのか気にはなるが、それよりも気になることを質問するために俺は話題を変えた。
「どうしてって……決まっているじゃないか」
「というのは?」
「もちろん僕も君と同じでこの学園で生活するためにこれからこの特待生専用の宿舎で過ごすのさ」
そう言われて俺の思考が一瞬停止した。
「そ、そうなんですか」
正直驚きというよりかは困惑の方が大きかった。
そもそもこの近くに王城がある以上毎日そこから登校すればいいのでは?
それ以前にゼルドさまは魔法も剣技もすでに一級品なのでわざわざ学園に入学する必要はないのでは?
などと様々な疑問が浮かんできた。
「ユーリくんの反応を見るにどうやら僕がなぜ学園に入学するのか困惑しているようだね」
「それは……まあ」
「きっとそれはユーリくんと同じ理由だよ」
「同じ理由?」
俺は大層な理由を持ってこの学園に入学するわけではないのだが同じ理由とはいったいどういうことだろうか。
「おそらくユーリくんが学園に入学する理由は『より強くなりたいから』じゃないかな?」
「確かにそうですが……どうしてそれを?」
「それは昔の君を見ていればわかることだよ。君は若いころから強くなることに強いこだわりを持っていた。それに君ほどの実力があればそもそも学園になんて入る必要はないだろう。それでも入るということは学園でなにかほしいものがあるから。それは僕も同じだということさ」
「なるほど。なんとなくですが分かりました。でもまだ疑問はあります。学園に入学する理由は分かったのですが、ならばなぜこの宿舎で暮らすことにしたのでしょうか?王城から登下校すればいいのではと思うのですが」
「それはまあ、一人暮らしをしてみたかったってのもあるけど本当は別の理由があってね」
「というのは一体どういった理由なのでしょうか?」
「僕がここで待ち合わせをしている人がきてから説明するよ、ほら丁度きたみたいだ」
そう言われて、ゼルドさまの視線の矛先である俺の左斜め後ろあたりに俺も振り返って視線を向けると、長い綺麗な金髪をなびかせた美少女の姿がそこにはあるのだった。
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