第2話 悪魔の対価

『オレがオマエから戴くのは、魂魄の内のはくだ』


「ハク?」


『魂の一部さ』


 魂と聞き、涼真は願うのを躊躇した。


『魄には7つある。その内の1つを戴けりゃいい。なぁーに、1つくらい減った所で大丈夫さ』


「死なないのか?」


『ああ。それに、大体の悪魔が魂を欲する場合、戴くのは死後だ。オレがもらう魄は、今もらうがな』


 悪魔は説明し、涼真に願いを促す。


『もう怖くねーだろ? 魄は1つ減っても残り6つもある。それに魄は全部取られても死ぬわけじゃねー。オマエはオレに7回も願いを叶えてもらえるんだ』


 ケタケタと悪魔が笑う中、涼真は意を決して自分の願いを言うことにした。


「友人の右手を動かなくして欲しいんだ」


 涼真の言葉に、悪魔は尋ねる。


『どうして動かなくして欲しいんだ? 友人なんだろ?』


「それは……」


 言い淀む涼真に、釘で床に打たれているため、上目遣いで見る悪魔は言う。


『悪魔に善は存在しない。それがどんな願いでも、オレ達悪魔は叶えてやるぜ?』


 悪魔の話に涼真は、理由を喋ることにした。



 ────


 ────────


 俺と友人の勇助は、一緒に漫画家を目指す仲間だった。いつも2人で切磋琢磨してきた。


 けど、俺は何度も何度も応募しては落とされるのに、アイツだけが最終候補に残ったり、賞をもらったりして、実力に差は開くばかりだった。


 最初は、俺の方が上手かったんだ。なのに、今じゃアイツの方が上手くなっていた。


 俺はスランプに陥った。それに気付いたアイツが言うんだ。


『こんな所で諦めるなよ』


『まだ、次がある。がんばろうよ』


『お前と一緒にデビューしたいんだ』


 励ましのつもりだろうが、俺にとってはその言葉達は酷なものだった。


 そんな中、アイツがとうとうプロデビューした。


 アイツは俺になんて言ったと思う?


『お前がプロデビューするのを待っているから』


 だと。


 上から目線で物を言いやがって……俺への憐れみか? 同情か? 今じゃアイツは雑誌連載が決まったって、大喜びさ。


 そして俺は思ったんだ。


『アイツの右手が動かなくなっちまえばいい』


 そんな時だ、あの夢を見たのは。


 そして今、俺はお前に願いを叶えてもらうべく、ここにいるんだ。


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