生きること

@kii0908

生きること

 高校3年生の冬に親友が自殺した。俺は親友の遺書に書かれていた一文を今になってもふと思い出すことがある。

 

「今日はとてもつらかった。明日もつらいことを僕は知ってる。明日の明日もつらいことを僕は知っている。それでも生きなければいけないんだよね」


   



「佐藤さんはこれからもずっとバイトで暮らしていくんですか?今34歳でしたよね。正社員とか目指したりしないんですか」

「俺は時間に縛られるのが嫌いなんだよ。こうやってほそぼそ暮らしていくのが俺には合ってるよ」


二人でしゃがみながら、陳列棚の下の段の品出しをしている。このコンビニの店長の方針で新しく並べる品はどんなものでも一番奥に並べて賞味期限順になるようにしている。インスタントラーメンでもコンドームでも必ず後ろに並べなければいけないのはさすがにやりすぎではないかと常に思っているが、店長に意見をしても面倒くさいことになるのは目に見えているのでそうゆうことはしない。


「スズキこそ今25才だろ。こんなところでバイトなんかしててもいいのか?」

「いいんですよ。私はおなじ仕事を長く続けることはできないんで」


どういうことだろう。何かの病気だろうか。でも深夜シフトに入るくらいだからそんなことはないと思うけど。黙っているとスズキは終わったーと言って両こぶしを高く突きあげて立ち上がった。


「佐藤さんは明日が来るのが怖いと思ったことがありますか?」


唐突すぎて言っている意味がよくわからなかった。あんまりないかなと答えるとスズキはほんの少しだけ俯いて少し笑ったように見えた。


「私はいつも思ってますよ。明日つらいことが起こるかもしれないと思うと怖くて眠れない。眠るとすぐに明日になっちゃいますからね」


それを言い終わるとスズキはひどくつらそうな顔になった。血が出そうなくらい唇をかんでいた。俺はその言葉を聞いて親友の一文が頭に浮かんだ。あれから16年たったが、なんであんなことを遺書に書いたのかよくわからない。真意を読み取ることはたぶんできていない。

客が来店したのでこの話は終わった。


 次の週にスズキはバイトをやめた。

 

 スズキが仕事をやめてすぐ後にテレビにスズキの顔が映っていた。スズキは虐待をしていた父親を殺し半年近く逃亡していた。

 

 俺はニュースを見て親友の遺書に書いてあった文章を思い出した。

親友が何がつらくて自殺したのかは理由はわからない。親友自身にしかわからない、つらいことがあったのだと思う。それに解放される手段が自殺だったのだろう。スズキは解放される手段として父親を殺すことを選んだがそれでは解放されなかった。

死ぬことでしか解放されないことがある。俺はつらいことから逃げて逃げて逃げてここにいる。

 俺は何も考えずにのんきに生きてきた。つらいとは何なのか今になって少し分かったような気がする。


 親友のことはこれからも忘れることはだろう。

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