第3話
「それで、結局の所、ご依頼というのはどういった内容なんでしょうか、えーっと……」
依頼人の目の前で、トレントは困惑した様に眉を寄せる。
「申し遅れました、私はジャスティンといいます。実はある事件がありましてね、私はその捜査の担当官をしています。」
「つまり、依頼というのはその事件がらみということですか?」
トレントは、過去に何度か司法機関から依頼を受けたことがある。裁判の証拠固めといった内容だったが、捜査機関から事件に関する依頼を受けるなんてのは前代未聞だった。
「先日のことですが、政府のメインフレームがハッキングを受けましてね。幸いにも被害は無かったようですが、この国で一番のセキュリティシステムがハッキングされた訳ですからね、大問題です」
「それは確かにそうでしょう、被害が無かったといのは確実なんですか?」
「技術者が確認したところによると、クラッキングの痕跡は見つけられなかったようです。犯人は、プログラム・イブに関する未公開の研究データを閲覧していたようで、犯人は腕試しのつもりだったのではというのがプロファイラーの意見です」
「ここでやっとプログラム・イブに繋がる訳ですか」
トレントは少し大袈裟に肩をすくめて見せた。ジャスティンはトレントの反応を愉快そうに見ながら、同じ様に肩をすくめて見せた。
「実はもう少し続きがありましてね、ハッキングを受けた研究機関の方が犯人に興味を持った訳です。その位の腕があるなら、是非ともウチで仕事をして欲しいと、まぁ1種のリクルートってやつです」
「なるほどねぇ、しかし司法制度的には問題無いんですか、今の時代、ハッキング行為はかなり重罪に問われるはずでは?」
トレントの問い掛けにジャスティンは溜息を付いて見せる。
「それが少し問題でしてね。お偉方は機密情報の漏洩も無しに出来て一石二鳥と呑気に考えた訳なんですが、現場としては色々あります。大々的な捜査は出来ない、そのくせ司法取引なんか前例が無い手続きも多い」
愚痴りだしたジャスティンは、その勢いのままコーヒーを飲み干す。すると待ち構えていたように、マロリーがテーブルの横に立った。
「おかわりはいかがですか?」
それは少し不自然な沈黙だった。微笑みながら覗き込んだマロリーを、ぼーっとした表情でジャスティンは見つめ返していた。
「……あ、いや、失礼しました、頂きます」
マロリーがテーブルから離れたのを確認し、ジャスティンは顔寄せ小声で話し掛ける。
「いや〜、美しい方ですな、全く」
トレントは特に答えることも無く、コーヒーを一口含める。
「それで、何処まで話しましたかな? え~、つまりですね、依頼というのは犯人との直接的な交渉をお願いしたいのです」
「交渉ですか? 捜査の協力とかでは無く?」
ジャスティンは少しバツの悪いのを隠す様に、真面目さを取り繕って話を進める。
「もちろん捜査協力もお願いしたい、捜査官というだけで警戒する手合いも多いですから、探偵の方がスムーズに情報が集まる場面もあるでしょう。とりあえずは犯人を刺激せずに接触を図りたいという訳です」
「捜査官も探偵も犯人にとっては大差無いのでは? 警戒心が強ければ探られるのは等しく嫌がるもでしょう?」
「気休めに思われるでしょうが、意外と効果が有るもの何です、こういうことは」
「そういうものですか? それで、犯人の目星は付いてるんですか?」
トレントの当然の疑問に、ジャスティンは苦笑いで返す。
「今の所全くです、当局が把握しているハッカーやクラッカーは白のようでして。ただ、犯行が行われた、犯人がアクセスした大まかな場所は分かってましてね、実はこの事務所の近くなんですよ」
トレントはやっと少しだけ納得がいき、マロリーへと目配せしたが、彼女は我関せずとばかりにお得意の澄まし顔を決め込んでいた。
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