第6話 イケナイ関係
問答無用と言わんばかりのイチハちゃんの勢いに圧倒されたように、古河先輩はぽかんとしてから、
「な……なんだ、幼馴染って!? なんで幼馴染にいちいち伺いを立てなきゃなんねぇんだよ!? そういうもんじゃねぇだろ、幼馴染って!」
そうなのか……!?
「いや……幼馴染とはそういうものだろう」と思わず、口を挟んでいた――いや、挟まずにはいられなかった。「そうじゃなければ、幼馴染はなんのためにいるんだ?」
「知らねぇよ! なんの哲学だよ!?」
「と、に、か、く」と歌うように声を弾ませてイチハちゃんは言って、ぺとっと俺に身体を預けるようにもたれかかってきた。「ハクちゃんと私はたーくさんイケナイことした仲なんですから。いろんなオモチャで、あらゆるアソビを試し尽くしたんですよ。ハクちゃんってば底なしの体力で、いつまでも帰してくれないし。あれしたい、これしたい、て求められちゃって……身体が持たない、ていうか。服まで汚されちゃって、いつも家に帰ってから大変……」
「――ちょっと、そこで止めようか!?」
ああ、そういえばそうだったな……なんて俺も懐かしく思っていたところで、突然、本庄がイチハちゃんの思い出話を遮った。
ん? と振り返れば、本庄はかなり強張った苦笑でイチハちゃんを見つめ、
「イチハ……さん? 語弊がすごいんじゃないかな? 多分、ワザと……だよね?」
「何が?」とイチハちゃんはころりと屈託なく微笑む。「純然たる思い出話だよ。ね、ハクちゃん?」
「あ、ああ……」
本庄は何を取り乱しているんだろうか。
イチハちゃんの言っていることは全て紛うことなく事実だ。嘘偽りもなければ、なんの脚色もない。
今振り返れば、恥ずべきようないけないこと――公園近くのおじいさん家の柿を勝手に取って食べたり、持ちうる全てのオモチャを総動員し、砂場に水を注ぎ込んで沼地を創造したり――も散々していた。当時は、体力も想像力も尽きることはなく、善悪の境界なんてあってないようなものだった。簡単に好奇心が罪悪感を上回り、親が知ったら青ざめるような危ないこともしていた記憶がある。そして、そういった無茶な遊びを先導していたのは俺で。イチハちゃんたちを巻き込んでは、皆で泥だらけ、傷だらけで帰ったものだ。それも全て、まりんと出会うまで――だが。
「まあ、そうだな……」と記憶を掘れば掘るほど、ざっくざっくと出てくる悪行に眉根を寄せつつ、俺は唸るように言う。「俺の無茶に付き合わせ、イチハちゃんには無理をさせていた気がする。もっとイチハちゃんの身を労るべきだったな、と……」
「語るな!」
くわっと声を荒らげ、古河先輩はビシッと俺を指差してきた。
「そ、そんなイケナイ幼馴染があってたまるか! ただのセフレじゃねぇか!」
「イケナイ……幼馴染!? って……」
セ、セフ……レ?
「セフレ、てなんだ!?」
「なんだ、てなんだ!?」と古河先輩はギョッとして声を裏返した。「お前、マジでなんなんだ!?」
ええい、と苛立ちもあらわに古河先輩は長めの髪を掻きむしり、「こんな妙なセフレがいるなんて知らなかったわ! そんな遊びまくってる女にこっちも興味はねぇんだよ!」と吐き捨てるように言ってズカズカと歩き去っていった。
肩をいからせ、学校へと続く人の波を掻き分けるようにズカズカ歩いていくその背をしばらく見送ってから、
「やっと行ったか。ほんと、しつこい……」
ぽそっと言って、「あ!」とイチハちゃんはパッと俺から離れた。
「ごめんね、思いっきり巻き込んだ! そういえば、大丈夫?」
「ん? 大丈夫って……」
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