第5話 幼馴染……か?

 聞き覚えのある名前……だった。そして、もうずいぶん長い間、聞いていなかったような――懐かしい名前。

 まさか……と思いつつ、ちろりと視線を向ければ、


「ハク……ちゃん?」


 瞬間、脳天に突き刺さるような確信を覚えながら、そうか――と納得もした。

 『ハクちゃん』と呼ぶその声はあまりにもしっくりときて。活気に満ちたキラキラと輝くその瞳も、好奇心に満ちて華やぐその表情も、昔と変わってなくて。

 どうりで見覚えがある気がしたんだ――。


「イチハちゃん……か」


 すると、ぱあっと彼女の顔いっぱいに向日葵みたいな笑みが咲き誇る。


「すっごい偶然! こんなとこで会えるなんて」


 カラッと晴れやかに言い放つ、その溌剌とした感じも昔のまま。じんわりと郷愁とでも呼ぶべき感慨が込み上げてくる。

 もう十年以上前。物心というものがつき始めた頃だろう。ウチのマンションから徒歩五分ほどの――当時の俺の歩幅だと、もう少し、かかったかもしれないが――近所の公園。そこでいつも遊んでいたんだ。近所に住んでいるという三人組――ひょろりと背の高いユキミチ、少しぽっちゃりとしたトモキ、そして……俺たちよりもずっと活発で、生傷の絶えなかったイチハちゃん。四人で山賊の如く、辺りが暗くなるまでやんちゃの限りを尽くしていた。砂埃の中で舞い、泥にまみれ、腹が減って力尽きるまで遊んだ。まりんと出会うまで――。


「――で!?」と唐突に、不機嫌そうな声が割り入ってきて、「結局、お前はなんなんだよ!? 壱葉の幼馴染なのか? ってか……幼馴染だからなんなんだ!?」


 ハッと我に返って、を思い出す。

 そうだった――とその名前も分からぬイケメンに視線を戻し、「いや、俺は……」と訂正しかけた、そのときだった。


「そう! 幼馴染!」と隣でイチハちゃんがはっきりキッパリ言って、俺の腕に自分のそれを絡み付けてきた。「正真正銘、生粋の筋金入りの幼馴染!」

「そうだ――って、え……!?」


 そう……なのか!? いや、確かに、幼馴染になる……のか? だが、俺の幼馴染はまりんで……って、まあ、クビになったけども。

 とにかく――生まれてこのかた、まりん以外を幼馴染の対象に見たこともないわけで。当然、十年以上も会っていなかったイチハちゃんを幼馴染だと思ったこともなく……。というか、十年以上も会っていない場合、それは『幼馴染』になるのか?


「ね、ハクちゃん!?」と俺の腕を両腕でぎゅうっと抱きしめるようにしながら、イチハちゃんは真っ直ぐな視線で俺を見上げてきた。「結婚の約束もした仲だもんね?」

「は……? けっ……!?」


 結婚――!?


「そーゆーわけなんで。私に用があるなら、今後はこの私の幼馴染――白馬くんを通してからにしてくれます? 古河先輩」


 俺の動揺もよそに、イチハちゃんは読モ風イケメン――古河先輩というらしいその人の方へ顔を向け、サラリと言い放った。

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