第7話 解雇理由

「あ……」


 まさか――そういうことだったのか?

 ようやく、謎が解けたような……気がした。俺の中で繋がった。ずっと疑問だったこと。まるで天災の如く、突如として降りかかってきた――幼馴染クビ宣告。その理由に……ようやく、思い当たる節ができたのだ。


「あの……それじゃあ、私は本当にこれで失礼します」


 そそくさと身を翻そうとする彼女を、「ちょっと待ってくれ!」と再度、俺は呼び止め、


「一つ……聞きたいことがあるんだが!」

「まだ、何かあるんですか!?」

「君だったら……どう思うんだ?」

「は……はい!?」

「君がまりんだったら――俺と幼馴染だったら、どう思うだろうか?」


 いったい、なんなんですか? とでも言いたげな表情だ。きょとんとして、『答え』どころか言葉も出ない様子。

 そう……だろうな、と俺も思う。何を訊いてるんだ、と自分でも思うが。

 でも、訊かずにはいられなかった。ずっと知りたかった答えがすぐそこにある気がして。もういい加減、はっきりさせたくて。

 あの日から二週間、考えないときはなかった。ずっと、なぜだ――と虚空に問いかけていた。なぜ、俺はまりんの傍にいないのだろうか、と……。『幼馴染』として、俺は一体、何を間違ったのだろうか、と……。幼馴染としての道を誤ったのはたった一度だけ――八年前の、だけだったはずなのに。少なくとも、俺はそう思っていたから。

 じっと食い入るように見つめる先で、その子は気まずそうに視線を泳がせながらも「そう……ですね」と観念したように口火を切り、


「えっと……幼馴染という概念を呪います」

「――え!?」

「え……!?」

「そ……そんなになのか!?」


 概念を……呪うほど!?


「え……あ……すみません、違いますよ! 幼馴染だから、ていう理由だけで傍にいられても迷惑だろうな、ていう話で」

「うおおお……!!」


 何が違うんだ――!?

 傷口に鋭利なナイフを刺された上に、グリグリされたような気分だ。

 

 そうか……と苦いものを呑み込む思いで、ぐっと唇を噛み締める。


 この『ただの同中』さんと話し始め、薄々と気づき始めてはいたのだが。まさか……ここまで容赦なく引導を渡されることになろうとは。

 もう悟らざるをえまい。

 至極、単純な話だったのだ。

 俺は……迷惑だったんだ。いつの間にか、俺はまりんとって迷惑な存在に成り果て……だから、幼馴染をクビになったのだ。


 まりんのため――少なくとも、そう信じ――一心不乱に駆け抜けていた日々が、走馬灯のように脳裏を駆け抜ける。

 そういえば、確かに……まりんはよく「もお、ハクちゃんったら」と顔を赤くしてぷりぷりしていた。それを俺は、今日もまりんは血行が良さそうで結構――なんて呑気なことを思ってしまっていた。


 ああ、そりゃあ、クビにもなるわけだ。

 まりんが傍でどれほど迷惑に思っているかも察せずに、のうのうと幼馴染をしていたんだから。

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